村の職人魂と冬へ向けた準備
暖炉が出来てからも、誠の日課は変わらなかった。
午前中は村の男たちと水路整備。
午後は自分の小屋の断熱強化や、道具の整備。
どれだけ村での評価が上がっても、やることは山積みだ。
冬は確実に近づいている――この世界でも。
そんなある日。
いつものように午後の作業を始めようとした誠の元に、ミィナが勢いよく飛び込んできた。
「誠! うちにも暖炉作ったから見に来てよ!」
「お、おう。早かったな」
「ほら、あんたの小屋見てから皆すぐ真似したんだよ。誠が忙しいって言うからさ、みんなで相談して造っちゃえって!」
そう言うと、ミィナは誠の手を掴み、半ば引きずるように自分の家へと向かった。
◇◆◇
ミィナの家に入った誠は、思わず声を漏らした。
「……え、ちょっと待って? 何これ……」
ミィナの暖炉は――誠が作ったものより、はっきり言って完成度が高かった。
石の積み方が均一で、曲線部分の整い方が尋常ではない。
炉の奥行きも最適化され、鍋をかける金具まで作られている。
「すげぇ……プロが造ったみたいだ……」
「うふふ。村の人たち、誠の見て『もっと良くできるんじゃねぇか?』って張り切っちゃってね。ほら、暖炉だけじゃなくて、この鍋置きも見て!」
ミィナが指さす先には、石組みを利用した鍋置き台が付いていた。
鍋底に均一に熱が回りやすいよう、高さが計算されている。
誠は唖然としたまま、袖の影でこっそりアイに囁く。
「……アイ。これ、どういうこと?」
『誠様……非常に言いづらいのですが……』
「言えよ」
『この村、普通に器用揃いだと思われます。
加えて、職人気質というか……“良いものを見たらさらに良く作りたくなる”傾向が強いのではと』
「…………俺より上手いじゃねぇか……」
『はい、わりと圧倒的に』
誠はガーン、という効果音が聞こえるほどショックを受けた。
だが同時に、どこか嬉しくもあった。
村全体が“良いものを作ろう”と動いている。
暖炉づくりが広まり、村の冬が確実に安全になる。
それは、自分がこの村で果たせた役割の証でもあった。
その後、他の家の暖炉も見て回ったが、どれも器用に作られており、誠の心に追いショックを与えた。
「……俺より全然綺麗なんだが……」
「誠、あんた基準作ったんだからいいじゃん! 村の皆、誠のおかげで暖かい冬越せるんだよ?」
ミィナに笑われ、誠はようやく肩の力を抜いた。
◇◆◇
暖炉で村中が暖かくなる準備が整った頃、季節は確実に移ろっていった。
朝夕の気温差が大きくなり、山から吹き下ろす風は冷たさを帯びる。
誠にも、冬の足音がはっきり聞こえるようになってきた。
稲の収穫も終わり、脱穀機と唐箕はフル稼働。村人たちが口々に、
「誠の機械、めっちゃ楽だぞ!」
「腰が全然痛くならねぇ!」
「作業が早く終わった分、他のことができる!」
と感謝してくれる。
それのおかげで、午前の水路整備にはこれまで以上の男手が集まった。
作業は一気に進み、堀り終えた部分も数倍のスピードで形になっていった。
誠も毎日、作業後にアイで撮影し、翌日反省点を改善するサイクル。
そんなある日。
『誠様。本日の水路の進捗……』
アイが袖の影で小さく知らせてくる。
『全体の90%に到達しました』
「おお……ついに、そんなところまで……!」
アイが続ける。
『これより、水車建築に着手する時期と判断します。男手が多い今のうちに取り掛かるのを推奨します』
「水車か……ついに本番って感じだな」
水路整備は水車のための前準備。
ここからが、誠の知識――いや、アイの知識の出番だ。
誠は夕暮れの水路を眺めながら、深く息を吸った。
「よし……明日から水車だ」
横でミィナが、わくわくした顔で誠を見上げる。
「誠、水車ってどんなの? 大きいの?」
「まあまあデカいぞ。村の仕事、だいぶ変わると思う」
「へぇぇ……誠ってほんと不思議な人だよね」
「いや……俺はただ、助かりたいだけだよ」
そう笑い返すと、ミィナも同じように笑ってくれた。
冬はもうすぐそこだ。
その前に――水車という“村の未来”を作らなければならない。




