表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/57

暖炉完成そして初めての火入れ

「……よし、これで形になったな」


誠は額の汗をぬぐいながら、組み上がった石の暖炉を見つめた。

この数日、水路整備が終わった午後はすべて、この暖炉の製作に注ぎ込んだのだ。

土台、炉壁、煙道、煙突――すべてが石と粘土で出来ている。

石の一つ一つは麓の川辺で拾って運び、粘土は水路整備の時に掘り出した層を使用した。


積んでは乾かし、剥がれる箇所があれば補強し、また積む。

それを繰り返して、ようやく今日、この形に辿り着いた。


袖の陰でアイがひっそりと囁く。


『煙突角度、許容値以内。空気取り込み口の確保も問題なし。火入れは可能です』


「了解。じゃあ……いよいよだな」


誠は薪を数本くべ、その上に細い枝、乾いた草をのせていく。

この瞬間は緊張する。煙が逆流すれば村人たちに迷惑をかけるし、そもそも暖炉として機能しない。


種火を取り出しぱちり――草が一瞬で火を噛んだ。すぐに火は細い枝へ移り、やがて太い薪へ。


ごぉ……と、炉の奥で炎が立ち上がった。


同時に、煙突上部から白い煙が外へ抜けていくのが見えた。


「……おおっ」


誠自身、思わず声を漏らす。

暖かさが、囲炉裏よりも早く、まるで部屋全体に広がるように感じられた。


火の勢いが安定してきたその時──


「誠!? 火が出てるって……!」


ミィナがバタバタと駆け込んできた。

息を切らし、目をまん丸にして暖炉を見つめる。


「な、なにこれ……囲炉裏じゃないよね? すごい形してる……!」


「これは暖炉って言うんだ。火を中に閉じ込めて、煙を外に逃がす仕組みになってる」


「へぇぇ……!」


ミィナは興味津々で暖炉の前にしゃがみ、そっと手を伸ばす。


「……あったかい……!」


その声に反応したのか、外で作業をしていた村人たちが次々とやってきた。


「ミィナ、どうし……おおおっ!?」


「なんじゃこの石の塊は!」


「火が燃えてるのに、煙が……外に行ってる……だと……!?」


みるみるうちに誠の小屋は人だかりになった。


「うわ、部屋があったけぇ……」


「囲炉裏より明らかに暖かいじゃねぇか」


「煙がないって、こんなことがありえるのか……?」


男も女も、みんな火に手をかざし、驚きと感動の入り混じった顔をしている。

誠は少し照れつつも、ひとつひとつ説明を始めた。


「この暖炉は、熱をしっかり部屋に残してくれる。外に逃げる熱が少ないから、真冬でも温かさを維持できるんだよ。あと、煙は煙突から外に出るから、囲炉裏みたいに部屋が煙たくならない」


村人たちはぽかんと口を開け、誠と暖炉を交互に見る。


「なんてぇ仕組みだ……」


「石を積んだだけで、こんな違うもんか?」


「いや、こりゃ誠、すげぇぞ……」


ミィナはというと、じっと暖炉を見つめたまま動かない。


「誠……これ……ほんとにすごいよ。冬、絶対助かる……!」


その真っ直ぐな笑顔に、誠の胸に温かいものが広がった。


その場にいた村人たちも、どっと声を上げる。


「ミィナもこれ欲しいな〜うちも作ろう!」


「そうだな……わしの所も作るか!」


「……おい誠! 後でうちの妻をここに寄越すから、これ見せてやってくれ!こういうのは女房が良いって言えば許可が出るんだ!」


「はは、もちろん構わないよ。板に書いた図面もあるし、作る時は手伝うよ」


「おおっ! 誠、恩にきるぞ!」


暖炉の温かさが広がる中、村人たちの間で暖炉の話題が持ちきりになった。


「でもよ、石積むの大変じゃねぇか?」


「水路の時に出た粘土、まだ残ってるか?」


「煙突ってどうやって作るんだ?」


「うちのはちょっと狭いが置けるか?」


質問の嵐が誠を包む。

ミィナも誇らしげに笑っていた。


どこかでアイが袖の影からこっそり囁く。


『誠様の評価が急上昇中ですね。村のインフラ改善が順調に進んでいます』


だろ……? まあ、アイのおかげでもあるんだけどな。誠は胸の内で苦笑した。


村人たちはその後もしばらく暖炉を囲み、冬の苦労話や、暖かい部屋での暮らしを想像して盛り上がった。


夕方になってようやく解散する頃には、


「誠、明日から材料集めるぞ!」


「家の場所に合わせて大きさ考えような!」


「うちも絶対作るんだからね!」


すっかり村全体の一大プロジェクトになりつつあった。


誠は暖炉の暖かさを感じながら、小さく呟いた。


「……よし。これで、この冬を乗り切れる」


炎がぱちりと音を立てる。

その火は、誠と村の未来を温かく照らすように揺らめいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ