昼休み走れ!追え!他よりも速く!幻のパンを追い求め!
秋の文芸展2025の応募作品です。
黒板の上にある時計の針が11時59分を指していた。
残り1分でチャイムの鐘が鳴る。
教師が黒板に授業を書きつつ時間が過ぎるのを待つ。
あと1分。残り1分。
俺は動こうとする足を抑えるように、机の上で指を絡ませ鼻先を何度も擦り気を紛らわせる。
視線は時計の秒針の動きを獲物を狙うライオンが如く見つめていた。
秒針が刻一刻と頂点に目的に近づくにつれ俺の手汗がかくのがわかる。
そして丁度いい感じの空腹感が俺の腹を叩く。
キーンコーンカーンコーン。
「起立、礼! ありがとうございました!」
昼のチャイムが鳴り挨拶と同時に俺は椅子を弾き飛ばし、ダッシュで俺たちは教室を出た。女子がなにか喚いていたのが聞こえた気がするが気のせいだろう。
そんな事を気にしている余裕はない。何故ならすぐ後ろには二人の男子生徒がいるからだ。
「くそ! 山田、竹下、お前らもあれが今日来るのを知ってたのか!」
「佐藤、竹下悪いがあれは俺が先に買う!」
「佐藤君、山田君それは悪いけど、僕が先だよ!」
俺たち3人は共通するある物を求め、購買へと向かっていた。
今いる場所は3階の端の教室から出た廊下。購買は1階にある。
「今日の期間限定日替わりパンは俺の物だ!」
そう今日は数ヶ月に1回、購買に入荷する限定の幻パンの日。
以前それを購入して食った奴から聞いた話では、食うとほっぺが落ちるほど美味く、他のパンなんて非じゃないほどだそうだ。
しかも個数はかなり少ないと聞く。
俺はそれを聞いてからどんなパンなのか楽しみで楽しみで仕方なかった。
それから計画を立てるために事前に、いつ頃くるのか俺は1ヶ月前からおばちゃんに聞いて今日入荷すると情報を仕入れていた。
俺だけの情報。俺だけ優位に立てる……そう思っていた。
だが、こいつらもそんな情報を知っていたなんて不覚!
「佐藤、竹下俺たち友達だろ? お前らが諦めて俺に譲らせてくれよ」
「なに言ってんだ山田、諦めろ。俺が買って食った感想言ってやるから」
俺はそう言って2階への階段を素早く、正確に1段ずつ降り始めた。
踊り場に着いて、更に下に降りようと向いた瞬間、後ろにいたはずの山田が下の階段に先にいた。
「まさかあいつ……手すりを飛び越えて、そのまま下の階段へと降りたのか!」
そんな危険な方法で、一歩リードを越されるとは。
だがまだ少しの差だ。この差は覆せる!
幸い後ろにはまだ竹下が――いない!?
「あいつ、追い付けないから別ルートへ行ったか!」
確かに別ルートからでも行けなくはない。
今の最短ルートと比べたら間違いなく遠い。勝ったな。
問題は前にいるあいつだ。
俺は流石に飛び越えるなんてのは無理だったから階段を急いで降りるしかなかった。
このロスによって数メートルもの差がうまれてしまった……くそっ!
「あの曲がり角を曲がれば購買だ。間に合わない!」
俺は曲がり角を急いで進むと、そこには生徒指導の鬼村に捕まっていた山田がそこに。
俺は慌てて止まろうとするものの間に合わない。危うく山田にぶつかりそうになった所に鬼村に制止して捕まってしまった。
「あぶな」
「あぶな……じゃない! またお前らか! 佐藤、山田廊下で走りやがって。ぶつかったら怪我だけじゃ済まされないぞ!」
「いや、それはすみません。だけど鬼村先生。なんでこんな所にいるんですか?」
「今日はお前らみたいな危険な事をする奴がいると知っていたから見張っていたんだ」
鬼村は幻のパンが売られるのを知っていたのか……。
購買はすぐそこなのに……。
見た感じまだ少数いる程度、くそっこのままだと先に越されて売り切れてしまう。
すると奥から竹下がこちらに向かって来るのが見えた。
だが鬼村がいるせいか途中で止まってしまった。
「お前ら二人いると言う事は竹下も同じことをしていたな。あいつはどこだ!」
俺たち3人いつもお世話になっているから、今回もと思われている。実際そうなんだが。
このままだと竹下も見つかって生徒指導室に連れていかれてしまう。
なら俺が言う事は……。
「鬼村先生。実は……俺は山田の暴走を止めようと追いかけていたんです」
「なっ……」
「先生からしたら確かに俺ら3人はいつも暴れているメンバーに見えるかもしれませんが。こいつが勝手に先走ってたんです!」
「本当か? やまだぁ!」
すまん山田。
俺は竹下に合図するために首を縦に振った。
竹下は理解したのか急いで購買へと向かう。
「佐藤、裏切るのか! お前も一緒にグルだったじゃないか!」
山田は俺の頬をひねるように言ってくる。
「やへろ! お前が……」
山田も真剣な眼差しで俺を見つめている。目配せするように視線を動かした。
お前も気づいていたのか竹下に。
仕方がない……。
俺たちは演技するように互いを引っ張ると、鬼村は俺たちを離した。
「佐藤、山田止めろ! お前たちは今すぐ生徒指導室に来い!」
俺たちは鬼村におとなしくついて行くことになった。
振り返ると竹下はもういない。購買には幻のパンを買うために他生徒が集まっている。
そうして、生徒指導室にて説教をくらう俺と山田。
教室に戻ると、ふらふらとなり自分の席の椅子へとドカッと座る。
「疲れた~。鬼村説教がきちいわ」
「ああ、それに結局なにも買えなかったな……」
腹が鳴ると空腹が増す。
時計の針を見ると12時57分を回っていた。
空腹のまま授業を受けるしかないのか……。
すると俺たちに近づく一人の男子生徒、竹下だ。
手にはパン3つ持っていて、それを机の上に置いた。
「二人ともありがとう」
竹下は礼を言った。あの鬼村に捕まらずに済んだからだろう。
「いや、いいさ。んでそれよりも幻のパンどうだったのか感想聞かせろよ」
「うん、僕が言うよりも二人も実際食べてみたらわかるよ」
「え……? もしかしてこれが?」
机の上には3つのパン。
「購買のおばちゃんが見ていて、察してくれたらしく3つ購入できたんだよ」
「マジか!?」
「うん、マジだよ」
俺たちはパン1つずつ手に取ると包装紙をとき、パンを丸かじりした。
「くっっっっっそ、美味えぇぇ……」
試合に負けて勝負に勝ったとはこの事だ。
俺は口いっぱいにパンを詰め込みながら言った。
「まさか、竹下お前が一人で勝ち抜くとはな」
山田が笑いながら答える。
「俺たちの犠牲……いや、友情の連携プレイのおかげだろ?」
竹下も満足そうに頷く。
「うん。次また幻のパンが来るときは、今度は3人で正々堂々と……いや、やっぱり最速ルートで買いに行こう!」
三人は顔を見合わせて、まるで世界で一番美味いパンを噛みしめるように、声を上げて笑った。
午後の授業が始まるチャイムはもうすぐ鳴るだろう。だが、そんなことはどうでもよかった。目の前には、最高のパンと最高の友がいたのだから。
お読みいただきありがとうございました。
気晴らしに公式企画に短編を仕上げました。
楽しく読んでいただけると幸いです。
ではまた次の作品にて




