3 私たちより強い、のか?
「カルン、遅かったですわね」
シーラは少し機嫌が悪そうにそう言った。名前も知らないあの子と話していて、遅れてしままったけど、ラミアとリズ、シーラも待ってくれていたようだ。
「ごめん、ごめん」
「もう、いいわ。早くしないと入学式に遅れるわよ」
「もうそんな時間!!」
「そんな時間なんだよ」
「そんな時間なのだよ」
シーラのしっかりしているところは、素直にすごいと思うけどラミアとリズのあの喋り方はなんだ?と、毎回不思議に思ってしまう。
「あなたたちはいつも仲良しね」
ラミアとリズに向けて言った
「そうなのだ」
「へっ今更かよ」
ラミアの方は普通に同意してくれたが、リズには少し馬鹿されたような気がしなくもないがここは、お姉さんの私は目を瞑ろうじゃないか。
「早く行くわよ」
シーラは少し足早に歩き出した。それに、私たちも続く。
「カルン、あなた、時間ギリギリまで何をしていたの?」
「面白い子と話してたのよ」
「ふーん」
シーラが聞いたくせに、興味は一切ないようだった。
「どんな子?」
「どんな子やねん」
ラミアとリズは、そうでもないようだった。リズのノリツッコミみたいなノリは少々気になるがいちいち気にしていたら埒が明かないのでここは、気にしないでおこう。
「小さい子、かな」
「まだ、伸びますから」
まだ、会ったばかりの記憶に薄いあの子がこんな感じのことを言うのが容易に想像できる。今度会ったときも言ってみようかな。
「あと、可愛い子、かな?」
「かわいい?」
「チビ?」
ラミアは話の流れのまま、可愛いことについて聞いてきたが、リズは、チビのことに興味があるようだ。
自分が小さいこと、気にしてるんだろうなー
「まあ、動物的な可愛さ。みたいな。多分、すぐ人に懐くタイプだと思う」
とりあえずは、ラミアの疑問に答えることにした。
「チビ?」
引き下がるかと思ったが、リズはまだそのことが気になるらしい。ここは、答えてあげるべきだろう。
「うん、リズくらい小さいよ」
と、言いながら頭の中でどちらが大きいか考えてみるが、
「多分、同じくらい」
実際は、わからないけどそう、大差ないと思う。
「リズ、会ってみたい」
この中で一番身長が小さいから。同じくらいの身長の子と会ってみたかったんだろう。
なんか、ごめん。
「これから、入学式だし、もしかしたら会えるかもね」
「リズ、楽しみ」
すごい、ニコニコだ。時間が経つと、スキップをし始めた。なんか目を離したら走り出しそうだな。
「リズ、廊下は走っちゃだめよ」
リズは予想通り走り出したようだ。シーラが止めようとするけど、
止まる気がしない。
「あの子、大丈夫かしら?」
「何が?」
「だって、私たち神なわけだし、あの子一人で行ったら絶対にひとだかりが出来るわ。そんなことになったら合流が難しくなるわよ」
「確かに……」
入学式は各自好きに座って良いんだけど、人だかりが出来てしまうと、リズだけ1人で座ることになるかもしれない。
「仕方ないわね。走るわよ」
シーラは、走る気満々のようだ。
「先生にバレるかもよ」
「今は入学式だから、ばれる確率は極めて低いわ」
そう言い、颯爽と走りだした。それに私やラミアも続くけど、
シーラは、どんどん減速していった。
「はぁ、はぁ」
息切れしているせいか、眼鏡が微妙にズレている。シーラの呼吸音を聞きながら入学式の会場(体育館)までたどり着いた。
ほどなくして、途方に暮れているリズを見つける。
まだ、人だかりは出来ていないようだった。
「リ、ズー」
シーラは、息切れしながらもリズの名前を呼ぶ。
「シーラー」
遠くにいたリズがどんどんこちらへ近づいてくる。
「リズ、心配したんだから」
ラミアは、近づいてきたリズに対しそう言った。ちなみに全く息切れしていない。私も含めて。
「ごめんごめ」
「入学式が始まります。皆さんは自分の席に座ってください」
リズの謝罪の言葉が言い終わる直前。アナウンスが鳴り響いた。
そのアナウンスを聞き、私たちは横並びで座った。
なかなか始まらない。時間が結構たったからか、周りから雑談の声が聞こえてくる始末。アナウンスから10分は経過していた。
しかも、ステージのほうが慌ただしい。何かあったのだろうか?
「これから入学式を始めます」
スーツ姿の男教師が開会のあいさつを行った。
やっと始まるのか。
「まずは新入生を代表してリオン・パーペットからの挨拶です」
この言葉で会場は騒然とした。入学試験のとき、説明を受けたように新入生代表のあいさつをするのは試験で一番優秀だったものだ。だからこそ、その役目は神である私たちがやるものだとみんなは思っていた。それは私も同じだ。実際に私たちの方に視線を向けている人が多くいる。だが、今回挨拶をするのは
リオン・パーペット。
その人こそが、入学試験で一番優秀だったということ。
私たち、神よりも。
「どんな奴だ?」
周囲がそんな声を漏らすなか、程なくして、その人物は現れた。教師に担がれて。
教師は、まるで段ボールを持っているかのように軽々しく、壇上に少年を置いて帰って行った。
ここまででも、ツッコミどころ満載だけど、私にはその少年がものすごく見覚えがあった。
「あ」
つい、そんな声が漏れてしまうくらいには。
「カルン、どうしたの?」
シーラが私の声を聞いてか、話しかけてきた。
「シーラたちと玄関先で合流する前まで話してた子」
「そうなの」
「まじ?」
ラミアとリズも私たちの話を聞いていたようだ。
「あの子、私たちより優秀ってことよね」
「そうなの、かも?」
正直、全く強くは見えなかった。初めて挨拶したときは何か異質なものを感じた気がするけど。
あの子、話すのが苦手だったと思うけど、大丈夫かな?
一向に話し始めない。
周りからも早く話せよオーラ出てるし、余計話しづらいだろうな。
「がんばれー」
ラミアがあの子に向けて言った。リズのお姉ちゃんだし、妹を見るみたいな要領で叫んだのかもしれない。年子だからそこまで年は変わんないけど。
この言葉を皮切りに他の生徒達もあの子を応援し始めた。
「がんばれー」
「ラミア様に応援されるなんて羨ましいやつめ」
「がんばれー」
応援してあげるのはいいと思うけど、ここまで応援されると、なんか恥ずかしい気がする。
そう思い、あの子を見ると顔を手で隠してた。
これ、多分逆効果だな。
本当にこの子私たちより強い、のか?