第82話 イケナイ明日美
藤倉から電車で約一時間。改札を抜けると、そこはオタクの聖地……というのは大袈裟か。
そう、俺たちは秋葉原に来ていた。
メンバーは俺とシエルとノエル姉、クラス委員の明日美さんと星奈。そしてオタク参謀として岡谷佑人を連れてきた。
若干、星奈と明日美にビビってるようだが。
俺が言ってるんじゃないぞ。岡谷が勝手に付けたネーミングだからな。
シャララーン!
『ふっ、この私が直々に調教してやろう! 新アニメ、貞操逆転帝国のリメリア、今夏放映開始!』
電気街口の柱には、アニメ化予定の作品『貞操逆転帝国のリメリア』のデジタル広告が表示されている。
つい、広告に吸い寄せられてしまうのはオタクの習性というものだろう。
「おおっ! ラノベ原作、夏アニメ期待の星が!」
「広範囲殲滅魔法、獄炎殲滅の雨!」
俺の横でシエルが大魔法詠唱のポーズを決める。もう完全にキモオタムーブだ。
「シエル……お前ってやつは……」
「ち、違う、これは壮太に乗せられて……」
俺の言葉でシエルの顔がどんどん赤くなってゆく。ポーズを決めたままで。
「大丈夫だぞシエル。ここはオタクの街だ。お前の変な行為も自然と馴染んでるぜ」
「だ、だから違っ! も、もうっ!」
首まで赤く上気したシエルだが、結局「プイッ!」っと顔を逸らしてしまう。
だから何で深夜だけノリノリなのに、昼間は塩対応なんだよ!?
「もう、そうちゃん、シエルちゃん。改札口で騒いじゃダメでしょ」
やれやれみたいな顔のノエル姉が俺たちの腕を掴んだ。もう何度目よって言いたそうだ。
「相変わらず二人は仲が良いよね」
「そうちゃむ! しえるんと二人でイチャつくなし」
明日美さんと星奈がジト目で睨む。
「ちくしょー! 安曇だけ女子と仲良くしやがって! 羨ましいーっ!」
岡谷に至っては血の涙を流しそうなくらい嫉妬しているのだが。
すまん岡谷、俺たちは仲良く見えるけど義理の姉弟なんだ。俺だって手を出したいのに血涙を流しそうなくらい我慢してるんだぞ。
「もうっ、壮太のばぁーか」
俺の気も知らないで、シエルは挑発的な態度になった。
そんな彼女の一挙手一投足にもドキドキしてしまうのだが。
くっそ、バカって言われてるのに嬉しくなってしまう。もう重症だぜ。それもこれもシエルの催眠のせいだ。
そんな俺のところに、したり顔の岡谷が「うんうん」と頷きながら寄ってきた。
「分かる。分かるぞ。安曇よ」
「何が分かるんだ?」
「あれだろ? 姫様のドSな流し目が最高のご褒美なんだろ?」
くっ、確かにシエルの流し目はドキドキするが、それじゃ俺がドMみたいじゃないか。
「そんなんじゃねーよ」
「とぼけるなよ。お前も姫様の足で踏んでほしいんだろ?」
「ぐっ、シエルの足で……だと」
俺の頭の中に、ボンテージ風コスプレをして『壮太、お仕置き!』と言いながら足を向けてくるシエルの映像が浮かぶ。
「くっそくっそ! 岡谷のせいで、もうシエルが女王様にしか見えねえ。どうすりゃ良いんだ」
「だろ? やっぱり姫様は最高だよな」
ジトォォォォォォ――――
俺と岡谷が変な話題で盛り上がっているものだから、周囲の女子からジト目で睨まれてしまった。
「コホン、今日は文化祭で使うコスプレ衣装を探しに来たんだったな。よし、専門店に入ってみよう」
俺は無理やり顔を引き締め言った。
そうだ、今日は文化祭の衣装決めだ。最初は服飾部に作ってもらおうかと思ったが、レンタルもあるそうなのでアキバで調査となった次第である。
あとこれだけは言いたい。岡谷よ、俺のシエルをエロい目で見るんじゃねえ。シエルをエロい目で見て良いのは俺だけだ。
ああ、もう完全にハマってるよな、俺……。
電気街口を出て少し歩く。大通りから一本入ったところで、シエルが店の看板を指差した。
「この店が品揃えが良い」
澄ました顔で言うシエルだが、他の皆は不思議そうな顔をする。
「しえるん、コスプレの店に詳しいんだ?」
「そ、それは……偶然」
星奈に聞かれてシエルが戸惑っている。しどろもどろだ。
シエルよ……もうコスプレイヤーなのはバラしても良いのでは? オタバレしてるし問題ないだろ。
そんなことを思いながらも、やっぱりシエルを庇ってしまうのだが。
「俺がシエルに調べて欲しいって頼んだんだよ」
「壮太ぁ♡」
縋る様な目で俺を見るシエルが超可愛い。そんなの反則だろ。
「と、とりあえず入ろうか」
背中にシエルの熱視線と他の女子のジト目と岡谷の羨ましそうな気配を感じながら、俺は狭い通路を進んだ。
「そうちゃむ、このメイド服ちょー可愛い♡」
「そうちゃんそうちゃん♡ これ良いかもぉ♡」
どうしたものか。星奈とノエル姉がノリノリになってしまったぞ。
ヒラヒラのメイド服を手に大喜びなのだが。
「試着してみたらどうかな?」
俺は試着を進める。当然ながら下心全開だ。
まあ、俺が勧めるまでもなく、皆それぞれ好きな衣装を選んでいるのだが。
「じゃーん! どうかな? そうちゃん♡」
試着室のカーテンを開け、出てきたのはノエル姉だ。零れそうに突き出たロケットおっぱいと、一目でムラムラくる生足がたまらない。
ノエル姉がミニスカタイプのフレンチメイドコスしている……だと! 何だコレ、最高かよ!
「ま、待て。それは刺激的すぎやしないか」
俺が目を逸らしたものだから、ノエル姉が口を尖らせる。
「そうちゃん、ちゃんと見て!」
「ぐっ、Gカップが凄すぎて直視できねえ」
「も、もうっ♡ そうちゃんのエッチ♡」
そんなやり取りをしていると、超立体起動ダッシュのように岡谷が駆け付けてきた。
「な、何だと! Gカップがどうした」
ズバシッ!
「ぐああっ! 目が、目がぁあ!」
つい岡谷に水平チョップを入れてしまった。
「すまん、岡谷。ノエル姉のGカップは誰にも見せられねえ」
「理不尽だぁああああ!」
続いて出てきたのはシエルだ。
こちらはロングワンピースタイプのクラシックなメイド服姿。さすがシエル、ポイントを押さえてるよな。
「どう……壮太?」
「う、うん、良いな」
「どの辺が?」
氷の微笑を浮かべ鋭くも美しい目を向けるシエル。やっぱり女王様っぽい。
「そ、そうだな。やはり、あえてロングスカートで脚を隠しているのに、その煽情的な腰つきや美脚を想像させるチラリズムにも似た感覚。そして白いエプロンが奏でる倒錯のようなフェティシズム! それからそれから――」
「もういい。壮太のエッチ」
しまった。俺が興奮して早口になったものだから、シエルが引いているのだが。
「そうちゃむそうちゃむ♡ アタシの選んでよ♡」
上目遣いになった星奈が媚びるような表情をする。そんな顔されたら、やることは一択だろ。
「ちょっとぉ! これわざとでしょ!」
俺が選んだのは超ミニのエロ奴隷メイドコスだ。
ただでさえエロいのに、長身の星奈が着ると放送禁止レベルだろう。
丈が短くてパンツが見えまくっている。
スカートの裾を引っ張ると、今度は胸が飛び出しそうになるというエロエロさだ。
「に、似合ってるぞ、星奈」
「もおぉおおっ! やっぱりドSだしぃ♡ わざとハズい格好させて楽しんでるしぃ♡」
「それを分かっていながら着る星奈もどうなんだよ」
このギャルメイドさん……やっぱりドMだよな。こんなの羞恥責めしたくなるだろ。
「そ、壮太君♡ これなんかどうかな?」
続いてカーテンを開けたのは明日美さん。
って、ちょっと待て!
シャッ!
俺は速攻でカーテンを閉めた。
「どうしたの、壮太君?」
「そ、それはマズいって! いくら何でも攻めすぎだって!」
カーテンの隙間からチラッと見えたのは、ヒモみたいな水着を着た小柄スレンダーボディだった。
白くて艶めかしい体に、ほぼ隠れていないヒモ水着が張り付いている。かろうじて隠れているのは大事な部分と双丘の頂点くらいだ。
しかも控えめな膨らみが生々しく、何か見てはいけない禁忌的なものを感じる。
明日美さん、アウトぉおお!