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第80話 文化祭は危険な香り

 どうしてこうなった。


「アタシの独断と偏見で、文化祭実行委員はそうちゃむに決定しましたー!」


 教室に星奈ギャルの声が鳴り響く。

 教壇きょうだんに立った彼女が、大仰な仕草で俺を指しながら。


 六月に入り文化祭が差し迫った今日この頃。ホームルームで文化祭の各委員を決めようとなったのだが、始まって見ればこの有様である。


「えっと……嬬恋つまごいさん、勝手に決めるのは壮太君に悪いよ」


 星奈せいなの横に立つクラス委員長の明日美さんが、俺をフォローしてくれる。

 良い子だ。


 そう、元クラス委員長の軽沢が転校したことにより、副委員長の明日美さんが繰り上げで委員長になったのだ。

 空席となった副委員長には、星奈せいなが立候補した流れである。旅行以来、一気に距離が縮まって仲良しになっていたからな。


 って、そんな場合じゃねえ! コミュ障気味の俺が文化祭実行委員なんて無理だろ。

 ここは断らねば。


「謹んで辞退します」

「なんでさー! 一緒にやろうよ!」


 星奈せいなは引き下がらない。即座に俺の声に被せてきた。


「だって、俺より他に適任がいるだろ。ほら、陽の者(陽キャ)とか」

「そうちゃむが良いと思うけどな。でしょ、皆もそう思うよね?」


 星奈せいなの声で教室がざわつく。


 ザワザワザワザワザワ――

「安曇君って意外に熱い人だしね」

「そうそう、校門前で軽沢君と決闘してたし」

「だよね!」

「柔道技で投げ飛ばしてボコボコにしたらしいよ」


 ボコボコにはしてねーよ!


「あいつ意外とやる男だよな」

「ああ、前は地味なオタクかと思ってたけど」

「鬼烈火や阿修羅あしゅらデコや姫川先輩と仲が良いらしいぜ」

「それ無敵じぇねーか」

「怒らせたらヤベー奴だろ」

「何でも裏社会と繋がってるらしいな」


 繋がってねーよ! 反社じゃあるまいし!

 てか阿修羅デコって、もしかして三条先輩のことか? 確かに仏の顔と魔王の顔を持っていそうだけど。

 それよりデコはヤバい! 本人が聞いたら怒られるぞ!


「安曇君ってけっこう良いよね」

「大人しそうなのに意外と男らしいし」

「やっぱりキープしときたいな」


 女子の噂する声まで聞こえてくる。

 おかしいぞ。俺の評価が爆上がりしているような? 前は話題にも上らなかったのに。

 やめてくれ。俺は静かに暮らしたいのだが。


「てな感じで、そうちゃむが文化祭実行委員に――」

「勝手に決めちゃ悪いよぉ」


 教壇きょうだんでは、まだ星奈せいなと明日美さんがやり取りしている。


「ちょっと、あすぴ――」


 星奈せいなが明日美さんの耳元に顔を近づけた。


「そうちゃむが実行委員になったら……ごにょごにょ」

「文化祭実行委員は安曇壮太君に決定しました」


 おい、何を話した! 買収されてないか!

 それ談合だろ!


「辞退しま――」

「では次に出し物を決めたいと思いまーす!」


 俺の声は、テンション高めのギャルに掻き消された。



 ◆ ◇ ◆



「どうしてこうなるしぃ!」


 対面の椅子に座っている星奈せいなが、両手を上げて背伸びをした。

 やめろ、その体勢は制服のシャツにブラの柄が浮き出るんだって!


 俺たちは居残りして、教室で文化祭出し物の詳細を決めていた。二つの机をくっつけて、それを囲むように座りながら。


 メンバーは俺の他に委員長の明日美さん、今日はバイトが休みの星奈せいな、そして何故か手伝うと言い出したシエルだ。


「そうちゃむのドSぅ♡ わざとやってるでしょ」


 恨めしそうな目をした星奈せいなが俺を見つめる。ちょっとだけ上気した顔で。


「文化祭実行委員の俺が独断と偏見で決めたからな。コスプレメイド喫茶に」


 そう、俺たちのクラスの出し物はメイド喫茶に決まった。というか俺が決めたのだがな。

 アンケートでは普通の喫茶店とメイド喫茶と演劇が、ほぼ同数となり意見が割れていた。そこを喫茶店が多数という話でメイド喫茶に統合しようと持っていったのだ。

 コスプレ付きで。


「もうっ、絶対わざとでしょ♡」


 星奈せいなの目が何かを訴えている。


「そりゃプロのメイドが……うがっ!」

「そうちゃむぅ、それ禁句だし」


 むぎゅむぎゅ!


 パツパツに張りがある星奈せいなの体に抱きつかれて、俺は口を閉じた。というより胸を押し付けられ閉じさせられた。


「ぷはっ、ちょっと待て! 最近リアクションが激しくないか?」

「旅行の帰りに言ったでしょ♡ これからは強引に襲うって♡」

「だから襲うって何だよ!」

「覚悟しろし♡ 絶対そうちゃむを堕とすから♡」


 意味不明な襲う宣言の星奈せいな。これに隣にいる明日美さんまで加わってくる。


「だよね♡ 強引にだよね♡ 絶対壮太君を気持ちよくするから♡」

「ま、待って、明日美さん!」

「待たないよ♡」


 おかしい。最近の明日美さんはおかしい。所かまわず俺の手を握ったり抱きついたりするのだが。

 男性恐怖症の克服に協力するとは言ったけど、さすがにこれはやり過ぎでは?


「ちょっとマズいって」

「だって♡ あの時の壮太君カッコ良かったよ♡」

「あの時?」

「うふふ♡ ほら、『俺の女に手を出すんじゃねえ』って」


 あっ、ヤベっ! 軽沢と戦った時のだよな。

 つい興奮して問題発言しちゃったけど。女子を俺の女扱いするのは失礼だよな。

 あれは主にシエルに対して言ったんだよ。もちろん明日美さんも含まれてるけど。軽沢がセ〇レとか言うから、つい頭に血が上って。


「えっと、あれはマズかったよね。勝手に俺のとか」

「いいよ♡ 私は壮太君のモノだから♡」

「は?」

「わ、わわ、私のことは好きにして良いから♡ きゃっ♡」


 相変わらず明日美さんは挙動不審だった。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 反対側から強烈な殺気が押し寄せてくる。

 言わずと知れたシエルだ。


「壮太……息の根……」

「わ、分かってる! 文化祭の話をしよう」


 俺は抱きついている星奈と明日美さんを押し戻し、無理やり真面目な顔を作った。


 やっぱりマズいよな。最近はシエルと良い感じになってきたのに、俺が他の女子にフラフラしてたら……。

 で、でも、シエルは家族になったのに。

 ああぁ! 俺はどうしたら良いんだ!


 ペチペチ!

 両手で顔を叩いて気合を入れた。


「つまりだな、コスプレとメイドに詳しい人がいるから、この文化祭は勝ったも同然って! 痛っ!」

「壮太! 息の根!」

「それは禁句だしぃ!」


 シエルと星奈せいなが同時に俺をつねる。ある特定の男子にはご褒美に見えそうだが、正直ちょっと痛い。


「冗談! 冗談だって!」

「は? バカなの? もうお仕置きするから」

「やっぱりそうちゃむってドSだしぃ♡ 弱みを握ってアタシを言いなりにするつもりっしょ♡」

「壮太君! 私だけ除け者にしないでよ♡ もっと命令して♡」


 これ、企画段階から前途多難だぞ! コスプレイヤーのシエルとプロメイドの星奈せいながいれば完璧だと思ってたけど。


 まあ、コスプレメイド喫茶なら好都合なんだよ。三条先輩の新選組コスプレも同時にやれそうだからな。

 一石二鳥という訳だ。


 ただ、この時の俺は、このメイドコスが大事件を起こすなんて全く予感していなかった。



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