第79話 姫川姉妹の悶々2
ずっと一緒だよ(sideノエル)
「ふぁああぁん♡ またイケナイコトしちゃってるぅ♡ ごめんね、そうちゃん♡」
今日も洗濯カゴからそうちゃんのシャツを拝借し、布団の中で一緒にゴロゴロする。こうすると、そうちゃんに包まれているみたいで幸せをかんじちゃうから。
それがこの私、姫川乃英瑠の日課。
「しょうがないよね。しょうがないんだよ。そうちゃんが構ってくれないから。だから、ちょっとだけなら良いよね。そうちゃんのシャツを借りちゃっても」
そう言いながら、拝借したシャツに顔を埋める。
「ふぁああぁ♡ そうちゃんの匂いだぁ♡」
まるで抱き合うように添い寝しているみたい。
体の奥がジンジンと熱くなる。
こんなのやめられないよぉ♡
「そうちゃん♡ 好きだなぁ♡」
私とそうちゃんが出会ったのは、まだ幼い頃。最初は年下の可愛い男の子だと思っていたのに。
いつの頃からだろう。
私や妹のシエルちゃんを必死に守るそうちゃんを見て、私の中で彼が占める割合が増えていったのは。
それまでは年下の男の子だったのに、いつの間にか頼れる人になっていたの。
「そうちゃぁん♡ しゅきしゅきぃ♡ ぐへへぇ♡」
おっと、いけないいけない。エッチな気分になっちゃったよ。
そうちゃんから『スケベ姉』って呼ばれちゃう。スケベじゃないのに。
そんなことを考えながらも、自分の体がジンジンと熱くなっているのを感じる。
「す、スケベじゃないよね! 私、スケベじゃないよね!? そうちゃんにスケベな子だと思われちゃってるかもぉ……」
ちょっとシャツをクンクンしたり、ちょっと火照った体でゴロゴロしたり、ちょっとイケナイコト……ゲフンゲフン。
何でもない! 何でもないよ!
今のは忘れてね!
「ふぁ♡ そうちゃん♡ ダメだよぉ♡ あんっ♡ そんなとこぉ♡」
コンコンコン!
「ひゃわぁああっ!」
妄想に熱が入ってきたところで、ノックの音が鳴り響いた。
私はベッドから飛び起き、乱れた服を整える。
「だ、誰?」
「俺だけど」
「そうちゃん!?」
どど、どうしよ! そうちゃんを想像して幸せに浸っていたら、ホントにそうちゃんが来ちゃった。
「ノエル姉、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「う、うん、今開けるね」
私は両手で顔をペチペチしてからドアに向かう。少しでも火照りを冷まさないと。
ガチャ!
「何かな? そうちゃん」
「進藤会長の件なんだけど……」
そこまで言ったそうちゃんが、途中で部屋の奥に視線を向けた。
「って、ノエル姉! また部屋が散らかってる!」
「ち、違うんだよ。部屋が勝手に散らかっちゃうの」
「部屋は勝手に散らからないぞ。散らかしたのはズボラ姉でしょ!」
わぁーん! そうちゃんにはカッコイイお姉ちゃんを見せたいのに。つい家だと甘えちゃうのぉ。
「ほら、服も脱ぎっぱなし。使用済みブラまで」
そうちゃんが私のブラを拾おうとしてから躊躇する。真っ赤な顔になって。
えへへ♡ そうちゃん、私のブラで何をするのかな?
「って、何ニヤニヤしてるんだよ!」
「ち、違うよ。それは洗濯済みだよ。たぶん」
「たぶんって何だ! たぶんって!」
「わーん! ごめんなさい」
やっぱり使用済みだったかも。
部屋で脱ぎたくなる時ってあるよね? 裸になって開放的な気分に。えっ、私だけ?
「ったく、しょうがないお姉だな……あれっ?」
そうちゃんの視線が、私のベッドの方を向く。
「何で俺のシャツがノエル姉の部屋にあるの?」
「そ、それはぁ……」
「そう言えば、たまに俺のシャツが消えてたような?」
「そ、そう。きっとシャツが勝手に来ちゃったんだよ」
誤魔化そうとしたけど無理でした。
「シャツが勝手に来るわけないだろぉおおおお!」
「きゃああああぁああぁん♡ ごめんなさぁ~い!」
お仕置きのプロレス技が。そうちゃんと、くんずほぐれつぅ♡
ああぁん♡ そうちゃん優しいよぉ♡ あんまり痛くないように技を掛けてくれるんだから♡
えっ、ええっ! そ、そこは!
「きゃはははははっ♡ ダメぇ♡」
「全身くすぐりの刑にしてやる!」
「ああぁん♡ 足裏はダメぇ♡ あっ♡ ああぁ♡」
楽しい♡ 嬉しい♡ そうちゃんのお仕置き、すきぃ♡ もっとして欲しい♡
もうっ、そうちゃんたら♡ ホントはお姉ちゃんに触りたいんだよね? 悪い子なんだからぁ♡
「どうだ、この汚部屋姉!」
「あっ♡ おっ♡ もうらめぇ♡ ギブギブぅ、許してぇ♡」
「エッチな声を出すな! このスケベ姉!」
「エッチじゃないからぁ♡」
そうちゃんに組み伏せられながら顔を上げると、ちょうど目と目が合ってしまった。
本当なら、ここでキス……なんて雰囲気になりそうだけど、恥ずかしくてふざけちゃう。
「ううぅ♡ そうちゃんのエッチ♡」
「はあ? エッチなのはノエル姉だろ! お仕置きされたそうな体しやがって」
「エッチじゃないもん! エッチなのはそうちゃんだもん!」
「エッチなのはノエル姉だろ!」
「そうちゃん!」
「ノエル姉!」
「そうちゃん!」
「ノエル姉!」
いつものをやってしまった。こんな何気ない日常も宝物だ。
「えへへっ♡ うふふふふっ♡」
「まったく、しょうがないなあ」
こうして、私はそうちゃんの手を体の隅々にまで入れられてしまったのでした。
隅々といってもエッチなとこじゃないからね。腋や背中や足裏だよ。
シャツを拝借したのは大丈夫だよね? ベッドの中で顔を埋めてたのかとバレてないよね?
そうちゃん気付いてないよね?
「もうっ、このお姉は世話が焼ける。早く部屋を片付けるぞ」
文句を言いながらも部屋を片付けてくれるそうちゃん。本当に頼りになる男の子だ。
もう結婚したい。
「きゃっ♡ 私ったら何を♡ ダメだよぉ♡」
「なにクネクネしてるんだよ?」
「ふふっ♡ そうちゃん優しいなって思って」
「うっ、そ、そんなことは……ないけど」
ふふっ♡ 照れてるそうちゃんも可愛いね。
「たく、こんな調子で進学したらどうするんだよ。大学に行ったら一人暮らしとかするかもだろ?」
「一人暮らしなんてしないもん。そうちゃんと一緒に住むもん」
「もんとか可愛く言うな。って、俺と住むだとぉおお!」
そうちゃんが目を丸くしている。
そんなに驚くことかな?
好きな人と一緒に住みたいのは当然だよね。
それに……その先だって……きゃっ♡
「そうちゃんにはぁ、お姉ちゃんのお世話をする義務があるんだよ♡」
「そ、そんなのあるか。それに……そんなの俺が変な気を起こしたら……」
ああぁ! そうちゃんが私の胸をチラ見したぁ!
もうバレてるんだよ。いつも私の胸を見てるの。
「い、いいよ♡」
「良い訳あるかぁああああ!」
「きゃああああぁん♡」
また、そうちゃんが私に抱きついてきた。それ、プロレス技に見せかけて、実はイチャイチャしたいだけだよね。
お姉ちゃん、全部分かってるんだから♡
「あはは、そうちゃんとずっと一緒にいたいな♡」
「えっ?」
「進学しても、就職しても、永久就職してもぉ♡」
「だからそれ結婚……って、このお姉はぁ」
ポロっと本音が出ちゃうけど、そうちゃんは冗談だと思ってるみたい。
ずっと一緒にいたいのは本当なのに。
「と、とにかく片付けるぞ」
「はーい」
「それと、まだ俺の話が終わってないんだけど」
散らかった雑誌や服を拾いながら、そうちゃんが私の方を見た。
「進藤会長の件なんだけどさ」
「うん」
「彼女の好みを教えて欲しいんだよ。趣味とか、好きなタイプとか」
「は?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
えっ? それってどういう意味? もしかして好きなの? 星奈ちゃんや明日美ちゃんにもデレデレしてたよね?
いつも私が隣をガードしてるのに。そうちゃんはよそ見ばかりで。
そうちゃんは絶対渡さないんだから。
「どうしたの? ノエル姉」
「な、何でもないよ」
「それで好きなタイプを」
「聞くならお姉ちゃんの好きなタイプにしなさい」
「何を言ってるんだ、このポンコツ姉は!」
もうっ! もうもうもうっ!
いつも私の心を掻きも出してばかりでぇ!
そうちゃんってば悪い子なんだからぁ!
「決めました。そうちゃんは毎日私と添い寝が決定です♡ 異論は認めません♡」
「もう隠そうともしてねえぞ。どうすりゃ良いんだ」
どうしよう。もう好きが止まらないよぉ。そうちゃん欠乏症かな?
だって、そうちゃんが悪いんだよ。こんなに好きにさせちゃうんだから。
これは添い寝しても良いよね。
 




