第78話 姫川姉妹の悶々1
好きな女発言で異常テンション(sideシエル)
私は姫川詩愛瑠、ちょっと人見知りなオタク系女子だよ。
人は私のことをクールとか冷たいとか言うけど違うの。本当は緊張して上手く話せないだけ。
壮太とだって、もっと仲良くしたいのに。
壮太――――
「きゃああああぁああぁあっ♡ 好きな女だって! それって私のことだよね? うっきゃああぁああぁん♡ ゲホッ、ゲホゲホッ! む、咽た……」
しまった。変なテンションになって大きな声を……。壮太に聞かれたらマズいよね。
普段は大きい声を出さないので、急に出そうとすると上手くいかない。コミュ障あるあるかな。
「しかし壮太め、私があんなに頑張って催眠しているのに、ぜっんぜん堕ちないんだから。ホントはもっと私にデレデレになるはずでしょ」
そんなことを言いながらも、少しだけ前進した感覚もあった。
「デート帰りの公園とか、部屋で二人っきりの時とか……良い感じなった気がしたのにな」
鏡を見ながら自分のくちびるに指を当てる。
「キス……しそうになったのに」
その鏡には、氷の女王などと噂される自分の姿が写っている。
人は私を美人だとか可愛いと言うけど、自分ではそんな実感は無い。
だって壮太の好みかどうかが重要であって、他の男子にどう思われようが関係ないからだ。
「でも、壮太……たまに可愛いって言ってくれるし♡ あれ、冗談じゃないよね」
かぁああああぁ――
急速に自分の顔が熱くなるのを感じる。
いつもそうだ。壮太のことを考えると、自分でも制御できないくらいドキドキしてしまう。
この衝動は止められない。
だって大好きだから。
「壮太ぁ♡ 好き♡ 大好き♡」
鏡には真っ赤になった自分が写っている。完全に恋する乙女だ。
「バカ壮太♡ 私をこんなにさせて♡」
私が壮太を意識し始めたのは、まだ幼い子供の頃だ。
あの頃の私は、いつも泣いていた気がする。
髪や瞳の色が人と違う私は周囲から浮いていて。それで悪ガキたちの標的にされていたんだ。
でも、壮太と出会ってから、私の世界は一変した。
『シエルは俺が守る!』
いつも壮太は私を助けてくれたね。
私がピンチの時は、すぐに駆け付けてくれるヒーロー。そんな壮太を、私は……。
「うくぅ♡ 恥ずかしい♡」
自分の顔が上気した女の顔になっていて、鏡を見ていられない。
「いけないいけない。こんな顔してたら壮太と顔を合わせられない。引き締めないと」
そこで私は思い出す。壮太が『俺の女』発言をした時に、蜷川さんも一緒だったことを。
「えっ、待って! あれって私に言ったんだよね? 蜷川さんじゃないよね?」
蜷川さんに告白したのは昔の話で、今は何でもないと壮太は言った。
でも、気になってしまう。今でも好きなのかと。
「うああぁ、壮太め。私の心を振り回してばかりで。嬬恋さんとも仲が良いし。何なのよ、もうっ!」
考えれば考えるほど不安になってしまう。
だって、私は口下手だし、壮太にもキツく当たってしまうし。
「そ、そうだ、コスプレして落ち着こう」
クローゼットを開け衣装を取り出す。
こうして、たまにコスプレするのが私の趣味だ。
本当はイベントでしてみたいけど、壮太以外の男子に見られるのは恥ずかしいし。
シュル、シュルル――
服を脱ぎ下着姿に。そこに水着のような赤いタイツを装着してゆく。
今日のコスは超創生歴ドルバンゲインの戦闘着にしよう。二号機パイロットのナツミ専用だ。
「ちょっとこれは胸やお尻が出まくって恥ずかしいな。原作に忠実だとピチピチのボディスーツだから」
鏡の前でポーズを決めてみる。
「やっぱりエッチ過ぎるかな? 壮太が見たら我慢できなくなっちゃったりして」
そんなことを考えてから頭を振る。
き、キスまでなら良いけど、それ以上はダメだよ。怖いし。恥ずかしいし。
でも…………壮太がしたいなら……。
コンコン!
「シエル、ちょっと良いか?」
「きゃわああっ!」
突然、ノックの音と壮太の声がして飛び上がった。
「どうした、シエル!? 開けるぞ」
「あっ、あわわっ!」
ガチャ!
「あっ…………」
見られた。エッチなコスプレを見られた。
ギィィィィ――
「ちょっと待って!」
「で、ですよね」
そっ閉じしようとする壮太を、私は無理やり部屋に引き入れた。
ズゥウウウウウウーン!
恥ずかしそうに目を逸らした壮太が正座している。
その前で私は仁王立ちだ。
「壮太、また覗いた」
「す、すまん。悲鳴が聞こえたから」
まあそうなんだけど。私がビックリしちゃったんだけど。前の断罪天使マジカルメアリーの時も同じだよね。
「ば、バカなの?」
「それナツミっぽい」
「今のは私!」
「そうなんだ」
困った顔の壮太がモジモジしている。
時おり視線が胸の辺りに向くのを見逃さない。
「壮太、どこ見てるの?」
「えっと、ごめん」
「壮太のエッチ」
「待て、それ以上こっちに来るな。体のラインが出まくってるんだよ!」
かぁああああぁ――
壮太の声と視線で私の全身が熱くなる。まるで裸を見られているみたいに感じてしまう。
「こ、これはコスプレだから。変な目で見ない」
「それは分かってるけど。シエルの体が綺麗だから」
きゅん♡ きゅん♡
くぅ♡ 壮太めぇ♡ そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうでしょ。きゅん死させるつもりかぁ♡ 壮太のくせに♡
そ、そうだ、ちょっと困らせてやろっ!
「ふふんっ!」
私はベッドに腰かけて脚を組んだ。正座している壮太の眼前に足を向けるように。
「壮太、罰として足をマッサージしなさい。お姉ちゃん命令だよ」
「くっそ、調子に乗りやがって」
文句を言いながらも壮太は手を伸ばす。私の足を優しく掴んだ。
モミモミモミモミモミ――
「ほら、これで良いのか?」
「それで良いっ……くっ♡」
何これ! 壮太の手が、私の足裏を! 気持ち良いっ! ダメッ! 変になっちゃう♡
「この足つぼを押すとだな」
「うくっ♡ ひっ♡」
「こっちは疲れが取れるツボで」
「ひぐぅ♡ だ、ダメぇええ!」
ガシッ!
あっ、蹴っちゃった。壮太の顔を蹴っちゃった。
「おい、シエル……何だこの足は?」
「ううっ、そ、壮太が悪い。手つきがいやらしい」
全部壮太が悪いんだよ。そんなエッチな手つきで。何だかマッサージ慣れしている気がするし。
「お前が揉めって言ったんだろ。たく、ノエル姉といい莉羅さんといい、何で俺にマッサージさせたがるんだよ」
ぶっちぃーん!
「はあ? はああああ!? 壮太、お姉にもマッサージしてるの? お、お母さんにも!?」
「だって、しろって言うから」
「信じられない! 壮太のエッチ、スケベ、ヘンタイ!」
こんなエッチなの、お姉やお母さんにしてるなんてダメだよ! 絶対好きになっちゃうじゃん!
「ば、罰として私にもマッサージを義務付ける」
「へいへい、シエル女王様」
「は?」
「シエルお姉ちゃん」
「むふっ♡ よろしい」
壮太の手が私の体に触れるたび、幸せな気持ちが広がってゆく。
ダメッ♡ 我慢できなくなっちゃうよぉ♡
「シエル……リラックスしているとこと悪いが、そろそろ着替えてくれないか? 目のやり場に困る」
真っ赤な顔で目を逸らしている壮太がつぶやいた。
可愛いやつめ。
「ダメ、これはお仕置き」
「シエルは恥ずかしくないのかよ。ほら、色々と」
壮太の指さす方に目をやると、私の体のラインがクッキリ出ている双丘が……。
「って、バカバカバカぁああああ!」
「だから蹴るなって」
「き、着替える!出てけぇ!」
出てけとか言いながらも、私の手は壮太を掴んで離さない。
壮太と触れ合うたびに、壮太とふざけ合うたびに、もっともっと好きになっちゃう。
この時間が、ずっと続けば良いのに。




