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第77話 ただいま

「もうっ、そうちゃんたら危ないことばかりして」


 学校からの帰り道。やっぱりノエルねえは俺の隣を確保している。

 柄にもなく俺が喧嘩なんかしたものだから、更に過保護になってしまった気がするぞ。


 むぎゅっ♡


「ダメだよ。危険なことしちゃ。そうちゃんが怪我したら、お姉ちゃん悲しいから」

「分かってるって」


 俺は照れ臭くて顔を背けた。

 さっきからノエルねえのGカップが、俺の腕に当たっているからだ。


 ノエルねえ……それわざとなの? わざとだよね? 俺の腕に抱きついてるから、柔らかな膨らみが当たりまくってるんですけど。

 もう当ててるというより押し付けてるだろ。


「そうちゃん、こっち見なさい♡」

「だ、だから外ではやめろって。人が見てるだろ」

「ダメっ♡ そうちゃんが心配だから離れないからね♡」


 むぎゅむぎゅ♡


 あああぁ、余計に抱きついてきたんだけど!

 お、落ち着け俺! 静まれぇ、静まれぇ! 何処とは言わないが、体の一部が大変なことに!


 トンッ!


「むぅ…………」


 俺がノエルねえと話していたら、反対側からシエルが肩をぶつけてきた。


「どうしたシエル?」

「べつに……」


 さっきから黙ったままだと思ったら、急に構って欲しそうにしてきたり。

 こいつは何をしたいんだ?


 そのシエルだが、何かをブツブツつぶやいている。俺が軽沢と喧嘩してから様子がおかしい。

 怖い思いでもさせちゃったのかな?


「ごにょごにょ……す、すす、好きな女……お、俺の女……うくぅ♡」

「どうしたシエル?」

「な、なな、何でもない♡」


 やっぱり変な女だな。

 でも……そこが可愛かったりするんだけど。


 もうすっかり辺りは暗くなってしまった。

 車のヘッドライトに照らされたシエルの横顔が美しくて、つい見惚れてしまう。


 やっぱり可愛いよな。一見、怖そうに見えるし、普段はクールで塩対応だし、変な女なんだけど。

 でも、たまに見せる素直なところや、恥ずかしがって真っ赤になっちゃうところや、アニメやサブカルに詳しいところが可愛くて……。

 俺の視線を捉えて離さない。


「な、なに?」


 シエルが俺の視線に気付いた。


「何でもない」

「そ、そう♡ うぅ♡」


 きゅん♡ きゅん♡ きゅん♡


「こ、こっち見るな♡」


 シエルが俺の顔を押してきた。強制的に顔の向きを変えさせるつもりか。


「お、おい」

「壮太のエッチ♡」

「見てるだけだろ」

「エッチ♡」


 むぎゅぅううぅ~っ♡


 シエルと変な感じになっていると、今度はノエルねえの抱きつきが激しくなった。


「そうちゃん♡ こっちも見なさい♡」

「ちょっと、ノエル姉。外ではダメだって」

「そうちゃんが悪いんだよ♡ お姉ちゃんを寂しくさせちゃうからぁ♡」

「どうすりゃ良いんだ?」


 こうして、シエルとノエルねえ、俺は両側からの圧に挟まれながら家路を辿る。




 そういえば、軽沢の件は完全決着したようだ。

 プライドが高く執拗な奴だが、自慢のパパにこっ酷く怒られたのが、思いのほか効いたのだろう。


 軽沢パパとしても、三条家は苦手としているようだ。

 うっかり特捜でも動いたら政治家として終わるからな。


 しかし家族か――――

 あのクソ野郎の軽沢でも家族は大切なんだろうな。やたら親を自慢していたし。名士だの何だのと。


 俺の場合、家や家族は心休まるような場所じゃなかった。夫婦喧嘩が絶えなくて、俺の居場所が無かったから。


『もう嫌っ! それもこれもアンタの給料が安いからよ!』

『そんなこと言うなよ。俺だって頑張ってるだろ』

『近所の〇〇さん家は、毎年ハワイに旅行してるのよ! 何で私だけ我慢しないといけないの!』

『ウチはウチ、他所は他所だろ。家のローンだってあるし、贅沢はできなくても旅行だってたまに』

『うるさい! 他所がハワイなのに私が国内旅行で我慢できる訳ないでしょ! あなたなんかと結婚するんじゃなかったわ!』


 過去の映像がフラッシュバックする。毎日毎日、飽きもせず夫婦喧嘩する映像が。

 いつからだろう? こんな気持ちになったのは。


 結局、母親は俺を捨てて出て行った。

 それで、寂しさから優しくしてくれたクラスの女子(明日美さん)に告白して玉砕したんだよな。


 そうだ、あれからだ。俺は人に期待するのをやめようと思ったのは。

 面倒くさい人間関係から離れて、省エネモードで生きようと。


 省エネモードか……。人には期待せず生きようと思ったのに、いつの間にか俺はまた人と関わって……。

 あんなに熱くなるなんてな。


 まあ、たまたま読んでいた格闘技漫画の柔道技っぽいのが決まって良かったぜ。

 あそこで負けてたら恥ずかしかったからな。



 そんな感慨にふけっていると、いつの間にか家の前に到着していた。

 両側に立つ姉妹も楽しそうにしている。


「おねえ、壮太にくっつき過ぎ」

「シエルちゃんが厳しいよぉ」


 相変わらず仲良し姉妹だな。微笑ましいぜ。

 てか、俺を挟んで言い合わないでくれ。グイグイ迫られてサンドイッチ状態なのだが。


 ガチャ!


「「「ただいま」」」


 玄関をくぐると、三人の声がかぶった。

 その声を聞きつけて、おっとり優し気な声が聞こえてくるのだが。


「お帰りなさい。今日は遅かったのね。ご飯できてるわよ」


 今日も莉羅りらさんの笑顔を見るとホッとする。

 たまにムラッとする時もあるけど。


 ただいま……か。良いものだよな。この感じ。ホッと安心するような。

 そうだ、これは俺が望んでいたものだ。心休まるような場所が。『ただいま』と言ったら『おかえり』と返してくれる人の存在が。


「どうしたの? 壮太君、顔色が悪いわよ」


 心配そうな顔の莉羅りらさんが、俺の顔を覗き込んできた。


「あっ、大丈夫です。莉羅りらさん」

「そう? 無理しちゃダメよ」

「はい」

「あ、あとあとぉ♡ リラちゃんって呼んでもらえると嬉しいな♡」


 ホントにこの人は母親っぽくないよな。

 でも……実の母親よりも安心できる人だ。

 良かった。この人が母親になってくれて。シエルやノエルねえと家族になれて。


「やっぱり俺にはリラちゃんが必要だったんですね」

「まあ♡ まあまあまあ♡」

「俺、やっと気付きました。これからも――」

「壮太くぅうううう~ん♡ リラちゃんを選ぶなんて悪い子っ♡」

「ぐええっ!」


 リラちゃんの人妻タックルを食らってしまった。って、リラちゃんじゃない。莉羅りらさんだ。

 ああ、そんな柔らかな体と官能的な香水の匂いで抱きしめられたら……。


「って、ダメだぁああ!」

「私も好きよぉ♡ じゃあじゃあ、今夜私の部屋に……って、冗談! 冗談よぉ!」


 ズルズルズルズルズル――


「お母さん! 息の根止めるわよ!」

「お母さん! 息の根止める!」


 姉妹の声がシンクロした。

 莉羅りらさんが、怒った姉妹に引きずられてゆく。


 あれっ? 俺、選択肢を間違えた?

 待て待て、選択肢じゃなく言い方を間違えたような?

 マズい! これ、絶対二人を怒らせたよな。夜の催眠がキツくなる予感しかしねえぞ!



 ◆ ◇ ◆



 午前零時を過ぎた頃、俺の部屋に忍び込んだ姉妹が催眠をするのが日課だ……あれっ? 今夜はシエルだけかな?

 さっきから気配が一人だけだ。


「ふっふぅ~ん♡ 壮太ぁ♡」


 くっそ、今夜も甘々な声を出しやがって!


「今日はおねえが居ないから、ちょっと過激に攻めちゃおうかな♡」


 過激に攻めるんじゃねえ!

 てか、ノエルねえは何処に行った?


「やっぱり一人の方が良いよね♡ おねえと一緒だと、は、恥ずかしいし♡」


 ですよね。シエルは恥ずかしがり屋だよね。まあ、深夜だけ積極的なんだけどさ。


「ふふっ♡ おねえと新たな協定を結んじゃった♡ やっぱり時間をずらして添い寝するって♡」


 そうだったのかぁああああ!

 勝手に協定を結ぶんじゃねえ! 俺の意志はどうなってるんだ!?


「そう言えば壮太、私のこと好きだったんだ?」


 は?


「壮太、言ってたよね。『好きな女を守るためなら何だってやってやるぞ』とか『俺の女に手を出すんじゃねえ』とか」


 し、しししし、しまったぁああああ! 言ってたぁああああ!

 俺の恋心がモロバレだぁああああああ!


「んふふふふぅ♡ そうかそうかぁ♡ 壮太は私が好きなんだぁ♡」


 ヤメロぉおお~っ! もう恥ずかしくて顔から火が出そうだぁああ!


「良いよぉ♡ 好きでいても♡ もしかして、私の催眠が効いちゃった? ねえ、聞いちゃったぁ♡」


 そうだよ! めっちゃ効いてるよ! もう大好きだよ! 思いっきり抱きしめてキスしまくりたいよ!


「壮太♡ キスしちゃえよ♡ 明日の夜、私の部屋にきて強引にしちゃえよぉ♡」


 でででで、できるかぁああああ!


壮太そうたはシエルを好きになる……壮太はシエルを好きになる……壮太はシエルのことが大好き……」


 もう許してぇええええええええええええ!




 チュンチュンチュン――


 小鳥のさえずりと共に目を覚ます。

 そう、これが俺の毎日だ。

 義姉(義妹)にトロトロになるまで甘い声で蕩けさせられ眠る。

 って、ちょっと待て!


「むにゃむにゃ♡ そうちゃぁん♡」


 この声、このムッチリ感、このエチエチさ。俺が抱き枕にしているのは、間違いなくノエルねえだ。


 ガバッ!


 布団を捲ると、案の定そこには幸せそうな顔で眠るノエルねえがいた。

 くっ、このポンコツねえ、もう隠そうともしてないな。


 シエルは隠している(実際はバレバレだが)のに、このノエルねえときたら遠慮する素振りさえない。

 もう堂々と添い寝してるじぇねーか!


「おい、ポンコツねえ、起きろ」

「んぅ~ん♡ エッチじゃないもん♡」

「おねえがエッチじゃなきゃ誰がエッチなんだぁああああ!」

「きゃああああぁああぁん♡ ギブギブぅ!」


 ノエルねえに思いっきりプロレス技をかけてやった。



 こうして今日も一日が始まる。

 益々凶暴さを増す甘々催眠を受けながら。

 ついでにノエルねえに、お仕置きしまくりたい。



 皆様、お読みいただきありがとうございます。

 これで第2章は終わります。次から第3章に入ります。

 壮太と姉妹の恋も、ちょっと進展するはず。


 もしちょっとでも良かったとか期待できそうと思ったら、ブクマと星評価で応援してもらえると嬉しいです。

 モチベアップします。

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