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第76話 完全決着

 目の前には元サッカー部の陽キャでモテ男の軽沢。だが不思議と怖くない。

 前はクラスカーストトップの陽キャと地味な陰キャという見えない壁があったはずなのに。


 きっと天使が俺に勇気をくれたのかもしれないな。

 天使と言っても断罪天使ではなく、天使姉のノエルねえと催眠姉のシエルだがな。


「フハハハハッ! 安曇、お前には僕の築き上げたクラスカーストを潰した恨みがあるからな! 徹底的に打ちのめして地べたに這いつくばわせてやる! いいか! 僕はハイスペなんだ! お前のような底辺とは違う……って、聞けよ!」


 軽沢が何かわめいているが、よく聞いていなかった。耳障りだしな。


「すまん、ぜんぜん聞いてなかった。考え事をしていてな」

「低スぺの分際で僕の話を聞いてないとか許されるのか!」


 許されるだろ。もういい加減飽き飽きだ。こいつの自称ハイスペ持論も、イライラさせるような声も。


「軽沢、お前にはガッカリだよ」

「は? 何だと!?」


 俺が肩をすくめてため息交じりに話すと、軽沢が気色ばんだ。


「最初はイケメンでクラス委員長の仮面をかぶり、裏でイジメを主導する狡猾こうかつ周到しゅうとうな奴だと思ってたよ。だが違った。親の権威を笠に着て威張り散らしたり、こんな分かりやすい仕返しにくるなんてな」


 こいつはアホだ。俺の好きなアニメの戦略家にも悪役にも遠く及ばない。


「クソッ! 僕をバカにするな! 低スぺの分際で!」

「お前の負けだ、軽沢。こんな騒ぎを起こしたらどうなるかも分からんとは」

「うるさい! ここでお前を殴って、女の前で恥をかかせてやる!」


 ズガッ!


 殴りかかってきた軽沢の体にしがみ付く。

 相手は運動部のエース級、俺は帰宅部のインドア派だ。体力の差は如何いかんともし難い。

 それでも必死に食らいついた。


「オラッ! どうした安曇! お前が僕に勝てる訳ないだろ!」

「うるせえ! この体力バカが!」

「格の違いを見せてやる!」

「男の格は筋力だけじゃねえぞ!」


 後からシエルと明日美さんの声が聞こえる。叫ぶような声が。


「壮太ぁああああ!」

「壮太君っ!」


 これは負けられないよな。

 好きな女の前で恥をかく訳にはいかない。


「オラァああっ!」


 ガシッ! ガシッ! ガシッ!


 組み合ったまま上から軽沢が肘打ちを入れてきた。俺の肩や背中に当たり焼けるような痛みが走る。


「オラッ! どうだ! 僕とお前じゃレベルが違うんだ! 地べたに這いつくばって土下座しろ!」

「うるせぇーっ! もう省エネモードは止めだ!」

「僕は女を自由にヤる権利があるんだ! セ〇レにする権利がな!」

「そんな権利なんかねえ! お前は最低の男だ!」


 胸の奥から何かが込み上げてくる。もう止められない想いが。


「軽沢ぁああっ! 俺は、俺はな、好きな女を守るためなら何だってやってやるぞ! 徹底的に断罪するまでな! 俺の女に手を出すんじゃねえ! こちとら子供の頃から断罪天使やってんだよ!」


 何か問題発言した気がするが、もう後には引けない。


 ズザッ!


 軽沢が俺の体を引っ張ったタイミングで、足を引っかけて同時に体全体で押す。何か柔道の技であった気がするが知らん。


「食らえ、クズ男がぁああああ!」

「ぐあああっ!」


 ズシャァアアアア! ゴロゴロゴロ!


 運よく決まったのか相手が油断していたのか知らないが、豪快に引っ繰り返った軽沢が地べたに這いつくばった。

 いい気味だ。


「ぐああっ! よくも! よくも僕を! 僕はハイスペなのに、これじゃ負け犬みたいじゃないかぁああぁぐぁああ!」


 眉毛を吊り上げ目をギョロつかせた軽澤が立ち上がる。泥だらけで。

 まだやるつもりなのか。

 しかし、そこで戦いは中断することになる。ある人の声によって。


「そこまでだ、軽沢かるさわ成彬しげあき!」


 声の方を振り向くと、そこには男子にも引けを取らないガッシリと筋肉質で長身の女が立っていた。

 スカートから伸びる脚は日焼けしてたくましい。精悍な顔つきは、まるで大型の肉食獣のようだ。


 進藤烈火、言わずと知れた剣道部主将で生徒会長のカリスマだ。


「よくやったぞ、安曇。貴様は女を守った。立派な男だぞ。やはり我も惚れそうだ。ハハッ!」


 進藤会長が俺を見てうなずく。ちょっと照れ臭い。

 しかし軽沢は怒気を含んだ声になる。


「またお前かぁああ! 進藤烈火ぁああ!」

「わたくしもいますわよ」


 もう一人、進藤会長の後から女性が現れる。

 黒髪ストレートでデコを出し、菩薩ぼさつのような笑みを浮かべた先輩。三条寧々だ。

 俺のメールを見て駆け付けたのだろう。


 おっと、更にもう一人いた。後ろでオロオロしているダークブロンドの可愛いおねえが。


「そそ、そうちゃん! 大丈夫!?」


 これで役者は揃ったかな。


「軽沢! 貴様の負けだ。大人しく引き下がるんだな」


 俺の隣に立ち、腕を組んで言い放つ進藤会長。S級パーティーのメンバーみたいで頼もしい。

 対して、軽沢は凄みを見せ睨みつける。


「剣道部主将だか生徒会長だか知らないがな、僕のパパは地元の名士で市議会議員なんだぞ! お前なんかパパに言い付けて退学にしてやる! 上流階級との違いを分からせてやるぞ!」


 これに対抗したのは意外な人物だった。


「それは面白いですわね」


 三条先輩が俺の横に並び目を見開く。

 だから強キャラ感を出しまくりなんだって。


「あなたが親の権力を使うと言うのでしたら、わたくしも遠慮なく使わせてもらいますわよ」

「は? な、何を言って……」


 戸惑う軽沢を前にして、三条先輩は何処かに電話を掛け始めた。


 えっ、三条先輩って何者なの?

 何となく実務に優れて各方面や先生方にも顔が利きそうだし、味方にしたら力になるって思ってたけど。


「ピリリリリ! ピリリリリ! ピリリリリ!」


 ほどなくして軽沢のスマホが鳴った。


「な、何だ、何でパパから電話が……」


 恐る恐る電話に出た軽沢が愕然とした顔になる。


『馬鹿もん! お前はなんてことをしてくれたんだ!』


 ヤツのスマホから離れている俺たちにも聞こえるくらい、デカい怒声が周囲に響いた。



 ◆ ◇ ◆



 校門前でバトルしたこともあり、生徒が集まったり教師が駆け付けたりと大騒ぎになった。

 そして今、俺たちは学校の生徒指導室に入れられたのである。


 受話器越しで親に説教された軽沢は、まるで廃人のように真っ白になってしまった。

 一体何があったのか?


「三条先輩、これ、どうしたんですか?」


 横で笑みを浮かべている三条先輩に聞いてみた。


「あら、言ってませんでしたっけ?」

「何も聞いていませんけど」

「わたくしの父は県警本部長ですのよ」

「は?」


 それってどういうことだよ?


「因みに、祖父は東京地検特捜部の部長ですわ」

「えっ?」

「他にも警視庁や国税庁など、役所勤めが多い家柄ですのよ」

「うっわぁああ……」


 絶対敵に回したくない人だ。

 これ、敵に回したらガサ入れや国税庁査察マルサが入るパターンだろ。

 政治家である軽沢家には天敵みたいな一族だな!


 ガラガラガラ、ガシャーン!


 そこに勢いよく、さやちゃん先生が飛び込んできた。


「軽沢ぁああ! お前、何をやってるんだ!」


 バキッ!

「ぐああっ!」


 さやちゃん先生が軽沢を殴った。グーパンで。

 これ、止めた方が良いのか?


「ちょ、マズいですって、グーパンは! クビになりますよ!」

「うるさい、止めるな安曇! こいつは人の好意を裏切ったんだ!」

「俺はこのクソ野郎じゃなく、さやちゃんを心配してるんですって!」

「懲戒免職が怖くてセンコーができるかーっ!」


 ちょ、この先生やっぱり元ヤンだな。

 でも…………良い先生だよな。


「軽沢! お前の親父さんが、どんな思いで各方面に頭を下げて回ったのか知らないのか! こんなドラ息子でも、お前の将来を考えて動いたんだぞ! 被害者の蜷川にながわも、穏便に済ませると言ってくれたのに! せっかく転校という軽い処分になったのに! それをお前が! お前が!」


 バキッ! バキッ! バキッ!


 泣きながら殴り続けるさやちゃん。

 それを軽沢は甘んじて受け続けている。

 その顔は、イキっていた陽キャの面影は無い。完全に心が折れた敗北者のそれだ。




 その後、黒塗りの車で駆け付けた軽沢パパは、俺たちの前で土下座をした。


「申し訳なかったぁああああ! どうか、どうか許してくれ、いや、ください! この度の件は、私の監督不行き届きが招いたことです! コイツは私が責任をもって更生させますから! どうか、どうかぁ!」


 軽沢パパは横の軽沢の頭も押さえつける。


「お前も土下座せんか! このバカ息子が!」

「ご、ごめん……」

「もっと真面目に謝らんか!」

「うわぁああ! すみませんでした!」


 泣きながら土下座する軽沢。いい気味だが少し可哀そうな気も……しないか。自業自得だしな。



 しかしこの軽沢パパ。ちゃっかり封筒に入れた札束を渡そうとするところも、悪役政治家ぽくてピッタリだな。

 下手に三条先輩の前で受け取ると怖いので断ったが。


 ああ、あの金でガチャが何度回せたかとか考えてしまうのだが。

 いかんいかん。


 こうして、この事件は完全決着となったのだった。



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