第72話 やっぱり好きだなぁ♡
「はい、お姉ちゃんマッサージの時間だよぉ♡」
帰宅した俺を待ち構えていたのは、ダサジャージを着たノエル姉だった。
ムッチリしたGカップが入りきらないのか、ジャージのファスナーが上がり切っていない。少し擦り切れた尻部分は、生地が薄くなって透けている。
「くっ、いきなりスケベ姉の試練かよ!?」
「スケベじゃないからぁ!」
手をブンブン振るノエル姉のリアクションがダサ可愛い。
何だこの可愛い生き物は?
「ほら、そうちゃんのお部屋でマッサージだよ♡」
「俺の部屋なのかよ」
ははぁん、ノエル姉の部屋が散らかっているからだな。今度、徹底的に掃除させないとダメか。
ポンポンポン――
ノエル姉に背中をポンポンされながら部屋に向かう。
それ気持ち良い。もうノエル姉に触れられるだけで幸せを感じてしまうぞ。
ガチャ!
部屋に入りノエル姉と向かい合ったところで、俺はどうしても気になってしまう。
「ところでノエル姉……太った?」
俺はノエル姉の上がり切っていないファスナーを指差した。
「なっ! ち、ちち、違うよ! 太ってない、太ってないからね! 胸が収まらないだけ! ウエストはブカブカなんだよ! 胸が育った……じゃなくて、ジャージが縮んだんだよ! きっと」
太るというワードに過剰反応するお姉だ。自覚でもあるのか?
「うーん、確かにノエル姉は太ってないんだよな」
「だよね! 太ってないよね!」
「やっぱり胸が暴力的にまでデカい……。まて、尻もデカい――」
「いいから! ほら、お姉ちゃんが膝枕してあげるね♡」
ぼよんっ!
強引に抱き寄せられ、俺はノエル姉の太ももに顔を埋めてしまった。
尻がデカいは禁句らしい。
はああぁああぁ……ノエル姉の匂いだぁああ! 変態か! って、ちょっと待て!
これ洗濯してないよな? 縮んだとか言ってたのに。
「ねえ、ノエル姉?」
「なあに?」
「ジャージが縮んだって聞いたけど、これ洗濯したのいつ?」
「えっ、ええぇ~っとぉ……」
あっ、やっぱり。これ洗ってないよな。
「う~んと……」
「もしかして最初にマッサージした時から洗ってないとか?」
「そ、そうなのかな?」
おい、あれ林間学校に行く前だぞ。もう一か月近く経ってるだろ。
「ちょい待て! あの時も洗濯してないって聞いたような?」
「えっ、ええっとぉ……。引っ越しする前に洗濯したよ。たぶん」
「たぶんじゃねぇええええ!」
「わぁ~ん♡ まだ三か月くらいだからぁ♡」
ズボラ姉の脇腹の肉を掴んでやった。
意外と無駄肉は少ないのか、あまり掴めないが。
くんくんくん――くんかくんか――
ううっ、洗濯してないこのダサジャージ……。ノエル姉の汗の臭いと甘い香りが混ざり合って、とんでもない破壊力だぜ。
こんなの嗅がされたらクセになりそう。ああ、ノエル姉に溺れたい……。
「えっ、そうちゃん? 臭くないよね? 大丈夫だよね?」
俺がムッチリ太ももに顔を埋めたまま黙っているものだから、ノエル姉が焦り始めたのだが。
「うーん、臭いか臭くないかと言われたら……くさ」
「やっぱりダメぇええええ!」
「冗談、冗談だよ」
「もぉおおっ!」
プク顔になって怒るノエル姉が可愛すぎる。
このままずっとイチャイチャしていたい。
「はい膝枕はお終い。ほら、マッサージしてあげるから横になって」
ああ、ノエル姉の太ももが名残惜しい。もっと顔を埋めていたかった。
膝を抜いたノエル姉が立ち上がる。
床にうつ伏せになった俺に、馬乗りのように跨ってくるのだが。
「よいしょ」
ぽよんっ!
ちょっと待て! 俺の腰の上にムチムチした感触が乗っているのだが。ノエル姉のお尻が乗っているのだが!
良いのか? それ良いのか? 柔らかいヒップの感触が直に伝わってくるのだが!
「んっ♡ んっ♡ んっ♡ んっ♡」
色っぽい掛け声と共に、ノエル姉の手が俺の背中を押す。
何だこれ。天国かな?
腰にはムッチリ姉のお尻が、背中には天使姉の手が。
グイグイグイグイグイ――
「どうかな? そうちゃん♡」
「うん、気持ち良いよ」
「良かった♡ 今日は、お姉ちゃんがいっぱいサービスしちゃうからね♡」
ああ、ノエル姉の手が優しい。心まで蕩けそうだ。
「うふふっ♡ やっぱりそうちゃんは凄いね♡」
おもむろにノエル姉がつぶやく。
「烈火ちゃんと寧々ちゃんが困ってたからね。きっと、そうちゃんなら解決できるよって私が言ったの」
ノエル姉が俺を推薦したのかよ!
「買いかぶり過ぎだって。俺は平凡な男だぞ。しかも陰キャだし」
「そんなことないよぉ。そうちゃんは凄いんだよ」
「どこが凄いんだよ?」
「えっとね、私やシエルちゃんを守ってくれるところでしょ。いつも味方になってくれるところでしょ。優しくて温かいところでしょ。他にもぉ――」
照れる。そんなに褒められると照れる。
「それにね、私もシエルちゃんも感謝してるんだよ。そうちゃんには、いっぱいいっぱい助けられたから。そうちゃんがいたから、辛い時も悲しい時も生きてこられたんだよ。そうちゃんがいたから……」
「ノエル姉……」
俺は小さい頃のことをよく覚えていない。でも、そんな風に想っていてくれたのか。
嬉しい。俺を想ってくれる人がいるだけで温かい気持ちになるよ。
「はぁ♡ やっぱり好きだなぁ♡」
「えっ!?」
「えっ、え、えっと、まま、マッサージが好きなの」
「そうなんだ……」
はぁ、ビックリさせるなよな。てっきり俺に言ったかのかと思ったじゃないか。
嬉しさで思わず飛び跳ねるかと思ったよ。
「そ、そういえば、サッカー部を説得したそうちゃんもカッコよかったよ♡」
変な空気を変えるように、ノエル姉が話を振ってきた。
「あれはノエル姉のおかげなんだけどな」
「そうちゃんのおかげだよ」
「ノエル姉だろ」
「そうちゃん!」
「ノエル姉!」
「うふふふっ♡」
またいつものをやってしまった。
「そ、そうだ。もうじき、私の誕生日でしょ?」
「ん?」
あれっ、ノエル姉の誕生日っていつだっけ? 再婚の顔合わせの時に、自己紹介で聞いた気がするけど。
「そうちゃぁん……もしかして……」
「すまん、忘れた」
「もぉおおおおぉおおっ! そうちゃんのバカぁ!」
「ぎゃああああ! ギブギブ!」
怒ったノエル姉が、俺の上から抱きついてきた。恐るべきGカップ巨乳がグイグイ密着しているのだが。
「女の子の誕生日を忘れるなんて許されざる大罪なんだよ♡ お仕置きだよ♡」
「すす、すまん。あの時は緊張でよく聞いてなくて」
「もぉおおっ♡ そういうとこだよ!」
むぎゅっ♡ むぎゅっ♡ むぎゅっ♡
「や、やめろぉおおぉ~そんなのされると体の一部が大変なことに」
「体の一部って何かな!? そこをお仕置きだよ」
「だからアソコだって!」
かぁああああああ――
ノエル姉の動きが止まった。
想像できるぞ。顔から湯気が出そうなくらい真っ赤なんだろ?
「もも、もうっ! もうっ! そういうとこだよ! そうちゃん!」
「ノエル姉こそ、そういうとこだぞ! 無意識に催淫しやがって」
「しし、してないもん♡ そうちゃんがエッチなんだもん♡」
「エッチなのはノエル姉だろ」
「そうちゃんがエッチなの♡」
「ノエル姉!」
「そうちゃん♡」
「ノエル姉!」
「そうちゃん♡」
今日二回目のオヤクソクイチャコラをやってしまった。
因みに誕生日は教えてもらった。
ノエル姉が6月12日。シエルが11月25日。ついでに俺が11月22日だ。




