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第70話 意外とやる男

 昼休みの学校。今、俺は生徒会室に居る。

 目の前には菩薩ぼさつのような微笑みを浮かべた生徒会副会長の三条寧々(ねね)。優雅で穏やかなのに、意外と腹黒そうで百合っぽい先輩だ。


「手伝ってくださいますか。安曇さん」

「はい」


 俺は首を縦に振った。

 しかし、タダ働きをするつもりはない。


「ただし条件があります」

「何でしょう?」


 三条先輩は襟を正す。


「サッカー部の軽沢が転校したのは、彼が不祥事を起こしたのが原因です。でも、その一端には……ほんの少し……いや無いか。とにかく俺のせいでもあるから協力します。代わりに、今後軽沢が俺や俺の親しい人に何かしてきたら、生徒会や三条先輩に手助けして欲しいのです」


 俺の話を聞いた三条先輩は、口元に笑みをたたえたまま目を見開く。

 だから無駄に強キャラ感を出さないでくれ。


「それはお安い御用ですわ。必ず安曇さんのお役に立ってみせましょう。ふふっ、わたくしを味方にすれば心強いですわよ」


 何だその自信は? 三条先輩って何者だよ!


「それから、この件は進藤会長や三条先輩がノエルねえの友達だから手伝うんです。何でもかんでも仕事を振られてもやりませんからね」

「それは問題ありませんわ」


 三条先輩は自信に満ち溢れた顔をする。


「わたくしも同じです。安曇さんが進藤会長のお気に入りだから嫌がらせ……ではなく、試すようなことをしておるのです。それに、安曇さんとは親しくしたいと思いますので」


 は? 何で俺と親しく?

 てか、やっぱり嫌がらせかよ!?


「そ、それから……」


 急に三条先輩がモジモジし始めたぞ。


「わわ、わたくしと会長を……くっつけて欲しいのですが……。もも、もちろん私も、安曇さんと姫川姉妹の仲が進展するように尽力したしますわ」

「それはやってみますけど……」


 俺は進藤会長の言葉を思い浮かべる。


「でも会長は男らしい人が好みのようですよ。剣道部だけに強い男が好きなのかも?」

「ズゥウウウウウウーン!」


 あっ、沈んだ。


「えっと、それとなく俺が会長の好みを聞き出しておきますから」

「お、お願いしますわね! もう安曇さんだけが頼りなのですわ!」

「わかりました。あと、近いです」


 それ以上俺に近付くんじゃない。

 こんなのシエルに見られたら誤解されるだろ。



 ◆ ◇ ◆



 放課後、俺は三条先輩と一緒に敵情視察に出かけた。

 シエルや星奈せいなや明日美さんから、『一緒に帰ろう』と誘われたのだが……。


『ふーん、壮太、良い度胸してるね。もう息の根を――』

『そうちゃむのドSぅ♡ アタシを放置プレイで他の女と遊ぶとか』

『壮太君♡ 私、壮太君がいないと♡ 壮太君♡ 壮太君♡ 壮太君♡』


 俺が断ったら、三人の態度が急変した。

 マズい。非常にマズい。更に誤解を広げている気がするぞ。俺が先輩女子と隠れて会っているとか。



「安曇さん、どうかしましたか?」


 横を歩く三条先輩が怪訝な顔をする。


「そうですね、例えるのなら浮気を疑われた源頼朝みなもとのよりともの気分でしょうか」

「頼朝は実際に浮気をしていたのではなくて?」

「あの時代は側室が当たり前ですよ」

「それで安曇さんも側室を?」

「してませんよ」


 しまった。これじゃ俺が浮気男みたいじゃないか。


「うふふっ、やっぱり姫川さんと付き合って」

「ませんよ!」

「妹さんの方ですか?」

「だから違いますって」


 しまった。そもそも浮気に例えたら、俺がシエルと付き合ってる前提だった。そんなんじゃないのに。

 ああ、シエルが催眠なんかするからだ。

 最近はシエルの横顔を見ただけでドキドキするのだが。



 そんなこんなで、俺と三条先輩はサッカー部の部室に入った。

 ちょうど着替え終わり練習開始するところだったのだろうか。部長を始めとしたレギュラーメンバーが勢揃いしていた。


「失礼します。先日お伝えした設備改修の件ですが」


 三条先輩が口を開くと、怒号のような意見が一斉に沸き起こる。


「何でバスケ部予算が先なんだよ!」

「こっちは穴だらけのネットでやってんだ!」

「俺たちの予算だけ下半期に回されるとか納得いかんぞ!」

「何で会長が来ないんだ! 進藤を呼んでこい!」


 うわぁ……こういう体育会系のノリは苦手なんだよな。声がデカけりゃ意見が通るみたいな。

 帰りたい。もう帰りたい。


 語気が強い運動部男子にも、三条先輩は全く動じない。微笑みを浮かべた顔で堂々としている。


「先日もお伝えした通り、バスケ部のゴール設備が老朽化して危険な状態です。先に危険性の高いバスケ部を優先して改修工事をするのは理にかなっておりますわ」


 理詰めで行く三条先輩に、サッカー部メンバーは納得のいかない顔だ。


「そんなのは分かってるんだよ! 俺たちも困ってるって言ってんだ!」

「それは下半期の予算で工事をする予定ですわ」

「話の分からねえ女だな! こっちは壊れたネットで苦労してるって話してるんだ!」

「そこは我慢していただいて」

「しかも時期エース候補の軽沢が抜けて戦力が激減なんだぞ!」

「それは彼の不祥事が原因ですので。自業自得かと」

「何だと!」


 ああ、余計に溝が開いて……。

 どうなってんだよ。進藤会長アンチが多いって聞いてたけど、三条先輩も上手くいってないよな。

 そもそも理知的でインテリっぽい三条先輩と声のデカい方が勝つような体育会系男子が、まるで水と油みたいで合わないんだけど?


「あのぉ……」


 恐る恐る口を開くと、サッカー部の面々が一斉に俺の方を向く。

 その中で部長らしき先輩が俺に睨みを利かせた。


「何だお前は? 生徒会メンバーか?」

「俺は付き添いなのでお気になさらず」


 本当に付き添いだしな。


「ところで壊れたネットというのは何処になりますか?」

「ああ、ゴールネットも穴が開いてるんだがな。それより野球部との間にある仕切りネットが問題なんだよ」

「と、言うと?」

「お互いのボールがネットを抜けちまうだろ」


 なるほど。確かに野球部のボールが飛んで来たら危険だよな。


「分かりました。この件は一時生徒会に預からせてください。良い返事ができるよう善処します」

「おう、分かれば良いんだよ」


 部長が納得したので俺は三条先輩をうながす。


「では戻りましょうか」

「ちょっと、安曇さん?」


 戸惑っている三条先輩と一緒に、俺はサッカー部の部室を後にする。



「ちょっと安曇さん。まだ話が……」

「あれで良いんですよ。次はバスケ部に行きましょう」

「は、はい……」


 納得していない顔の三条先輩を連れ、今度はバスケ部の部室に向かった。



「確かに老朽化してますね」


 体育館に入った俺たちは、折り畳み式になっているバスケットゴールを確認している。

 ゴールの支柱部分がグラついているようで、このままでは破損や落下の危険性がありそうだ。


「三条先輩、これはすぐ学校側に報告して改修工事を急いだ方が良いですよ」

「ええ、わたくしもそう思い、すでに申し伝えておりますわ」

「じゃあ改修を急ぎましょう」


 俺の言葉に、三条先輩は納得いかない顔になる。


「それでは問題の解決にはなっておりませんよ」

「これで良いんです。最初から決まっていたんですよね? 改修の順番は」

「そうですわ。上半期はバスケットゴール改修、下半期でサッカー部ネットの張り替えです」


 俺は三条先輩に頷き、女子バスケット部の部長の方を向いた。


「あの、何処かに使ってないネットはありませんか?」


 部長は少し考えてから、何かに気付いた顔になる。


「そう言えば、体育館倉庫の奥に使ってないネットがありました。埃をかぶってますが」

「それをお借りできませんか?」

「多分問題ないと思います。顧問に聞いてみますね」


 これでネットは手に入れたか。




 帰り道、横を歩く三条先輩は、意外そうな顔で俺を見ている。

 何だその顔は。何か言いたそうだな。


「安曇さん、どうして?」

「三条先輩って恋心には敏感なのに、男の思考には鈍感ですよね?」

「えっ?」


 驚きの顔をする三条先輩。


「男は……特に体育会系男子は、上から目線で女子から指図されたり理詰めで意見されると反発するものなんです。特に三条先輩みたいな理知的なやり手女性だとなおさら」

「わたくしって男子をイラつかせてますか?」

「そんなことは……そう思ったのならすみません」


 三条先輩がしょげた。この表情は珍しいぞ。


「サッカー部は気持ちが納得できれば良いんですよ。先に工事をしなくても。任せてください。この件は解決できそうです」

「安曇さん……あなた見た目に寄らず凄い方なのですね」


 おいおい、この人も俺を誤解してないか? 俺は静かに暮らしたいだけの省エネモードオタクだぜ。


「ここは、聚楽第じゅらくだい行幸ぎょうこう作戦で行きましょう!」

「は?」


 俺の放言に、三条先輩は『この人に任せて大丈夫かしら?』みたいな顔をした。



豊臣秀吉が建てた黄金の屋敷、聚楽第。

一体何の関係が……。


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ブレイブ文庫 第1巻
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