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第69話 かっこよかったよ♡

 シエルが俺の寝込みを襲おうとしたその瞬間、ドアを開けてノエルねえが入ってきた。


「し、シエルちゃん?」


 ノエルねえの声が聞こえる。驚いたような声が。


「ち、ちち、違う。してないよ」

「シエルちゃぁん」

「うぐぅ……」


 ぷっ、シエルめ、ノエルねえに怒られてやんの。


「もうっ、抜け駆け禁止って言ったのにぃ」

「だ、だって、一人で感謝を使えたかったから」

「そうなの? なら、しょうがないよね。感謝は大事だよね」


 良いのか? それで良いのか、うっかりねえ

 ノエルねえって、シエルにも甘いよな。

 しかしシエルよ、感謝は昼間伝えてくれ。俺が起きている時にな。


「じゃあ、今度は私が感謝を伝える番だよね? お姉ちゃんのキスでぇ♡ んっ~」

「ちょ、ちょっとおねえ! 何してるの! ダメっ!」


 あれっ? 何か俺の上で揉めてるような……。


「何って、日頃の感謝だよぉ。そうちゃんにキスで感謝をぉ♡」

「そんなのダメ!」

「シエルちゃんもしようとしてたでしょ」

「そ、それは……」


 ノエルねえに痛い所を衝かれ、シエルが黙ってしまう。


「だから、お姉ちゃんが最初にぃ♡」

「ダメダメだめぇええええ~!」


 おいおい、何をやってるんだよ。

 ノエルねえ……シエルに甘いと思ったけど、意外とちゃっかりしてるよな。


「キスはダメだよ、おねえ! ファーストキスは守らないと」

「じゃあ頬なら良いよね?」

「うん、ほっぺなら許可する」


 お前が許可するなぁああ! 何でシエルが俺のキスを許可してるんだよ。


「シエルちゃんの許可も出たし、じゃあお姉ちゃんも感謝のキスをしようかな」

「うん、私も一緒にキスする」


 どういう展開!? これ、どういう展開なの!?

 ギスギス修羅場になると思ったら、エチエチキス場になったんですけど!


 ゴソゴソゴソゴソ――


 先日のように、二人が俺の布団に入ってくる。

 ベッドの奥側にシエル、手前側にノエルねえだ。俺は左右を姉妹に挟まれ動けない。


「そうちゃん♡ お姉ちゃんの感謝ですよぉ♡ ちゅっ♡」


 ノエルねえの柔らかなくちびるが、俺の左頬に触れた。それだけで俺の体に甘い電流が走った感覚になる。


 ああああぁ、もうダメだぁ!


「壮太ぁ♡ ありがとね♡ ちゅっ♡」


 甘々な声のシエルが俺の右頬にキスをした。普段とのギャップが凄くて、耐えようとしていた俺の体が勝手に反応する。


 ビクッ!


 ぐぁああっ! ノエルねえだけでも限界なのに、シエルまで! もう体がビクビク反応しちゃうんだけど!


「むふっ♡ 壮太、私のキスで感じてた♡」

「ああぁ、ずるいずるい♡ お姉ちゃんのキスでも感じてよぉ♡ ちゅ♡」

「私のキスの方が良いよね♡ ちゅ♡」

「お姉ちゃんの方でしょ♡ ちゅ♡」


 ぎゃああああああああああああ! なに姉妹で張り合ってんだよ! 二人同時にキスするんじゃねぇええええ!


「ほら壮太ぁ♡ シエルお姉ちゃんに甘えて良いよぉ♡ よしよしよし~♡」


 シエルが俺の頭を撫でる。

 こ、こいつ、もう実戦してやがる。俺が女子に甘えたいとか言ったから、すぐ催眠に取り入れやがったぞ。


「そうちゃん♡ ノエルお姉ちゃんにも甘えて良いんだよぉ♡ 良い子~良い子ぉ~♡」


 ノエルねえまでキタァアアアア!

 やっぱり妹に対抗意識燃やしてるだろ! シエルには甘いようでいて、実は負けず嫌いだろ!?


「壮太♡ いつでもシエルお姉ちゃんに甘えて良いからね♡」

「そうちゃん♡ 寂しい時は、いつでもギュッしてあげるからね~♡」


 もう勘弁してくれぇええええ!

 てか、ギュッして欲しいのはノエルねえの方だろ! 俺もして欲しいけど。


「壮太はシエルを好きになる……壮太はシエルを好きになる……壮太はシエルのことが大好き……」

「そうちゃんはノエルを好きになる……そうちゃんはノエルを好きになる……そうちゃんはノエルのことが大好き……」


 うっぎゃあぁああああああ! もう好きになっちゃう! 大好きだぁああああ!


 俺は身も心も姉妹に蕩けさせられてしまう。

 姉弟なのに、家族になったのに。このままで間違いが起きてしまいそうだ。

 俺は一体どうしたら。


 こうして今夜も両耳から甘い声でささやかれながら眠りの国に落ちてゆくのだった。




 少女の声がする――――


『うわぁああああぁ~ん! 〇〇〇悪くないもぉん!』


 その少女は大泣きしている。いつもの公園で。

 周囲には少女より年上の女子と、その親だろうか? 数名の女性が取り囲んでいた。


『この子が悪いんだよ』

『そうそう、この子が叩いたの』


 少女を取り囲んでいる女子が、指を差して口々に言う。〇〇〇が悪いのだと。

 子供ながらに腹黒い表情でほくそ笑みながら。


『まあ、何よこの子、暴力的なのね!』

『うちの子に何かあったらどう責任を取ってくれるのよ!』


 親たちまで一緒になって少女をなじり始めた。

 何だこれは! 小さな子に寄ってたかって! 胸糞悪いな!


 そこに少女の姉が、自分の妹をかばうように入ってきた。


『〇〇〇ちゃんは叩いたりしないもん! 悪くないもん!』


 そんな姉にも、大人たちは冷たい言葉を投げつける。


『嫌だわ、妹が妹なら姉も姉よね』

『姉妹揃って嘘つきなのかしら?』

『髪が金色だけど外国人かしら?』

『きっと言葉が通じなくて殴ったんじゃないの?』


 大人たちの言葉の暴力に、幼い姉妹の目に大粒の涙が零れだす。


『うわぁああああぁ~ん!』

『〇〇〇ちゃん、泣いちゃダメだよぉ! うわぁ~ん!』


 クソッ! クソクソクソッ! 許せねえ! 何だあのクソ共は!


『待てぇええええ! 二人をイジメるな!』


 そこに少年……俺が現れた。

 小さい頃の俺だ。

 その手には人形を握っている。ところどころ千切れて汚れた人形を。


『何よこの子は?』

『騒々しいわね』


 眉をひそめる大人にもめげず、小さな俺は声を大にして主張する。


『俺は全部見てたんだぞ! 〇〇〇は叩いてない! そこの女子たちが〇〇〇をイジメたんだ!』


 俺の主張に、大人たちは気色ばむ。


『何を勝手なことを言ってるのかしら!』

『そうよ、うちの子がイジメなんてするわけないじゃない!』


 ズイッ!

 小さな俺は壊れた人形を突き付ける。


『これは〇〇〇の人形なんだ! そこの女子たちが壊したんだよ! だから〇〇〇は泣いてたんだぞ!』


 必死に主張する俺にも、大人たちは見下した顔をするのだが。


『何処に証拠があるのよ! 勝手なこと言わないで!』

『うちの子は良い子なのよ! アナタのような育ちの悪い子とは違うの! しかも夫の年収も高いのよ! 勝ち組よ!』


 意味不明な発言をする大人たちにも、小さな俺は怯まない。


『証拠は俺だ! 俺は見てたって言っただろ! そもそも、こんな小さな子が年長の女子二人に勝てる訳ないだろ! それより壊れた人形を弁償しろよ! 年収高いんだろ!? それとも警察を呼ぶか?』


 警察の名を出した途端、大人たちの目が泳いだ。

 明らかに分が悪いと判断したのか、急に及び腰になったのだろう。


『そ、それは……』

『行きましょ』

『そ、そうね』


 すごすごと退散する大人たち。逃げるようにその場を後にする。

 自分の子供を叱りつけながら。


『もうっ、あんたのせいで恥をかいたじゃない!』

『ああ、どうするのよ! 警察沙汰になったらママ友の間で噂になっちゃうでしょ!』

『『わぁああああぁん!』』


 八つ当たりのように自分の子を叩きながら去ってゆく。子が子なら親も親か。



『ふっ、悪は滅んだ! 断罪天使は悪を許さない!』


 最後に決め台詞を言いポーズを決める俺。せっかくの良いところが台無しだ。


『そうちゃぁああああぁ~ん!』

『そうちゃん、ありがとう!』


 姉妹が俺に抱きついてきた。

 照れ隠しなのか、小さな俺は頭を掻いているのだが。


『俺は断罪天使だからな』


 こんなシーンでも俺はアニメネタを忘れない。ちょっと恥ずかしい。


『ありがとう、そうちゃん♡ 〇〇〇ちゃんを助けてくれて』


 姉の目が輝いている。まるでヒーローを見るように。


『かっこよかったよ、そうちゃん♡ そうちゃんは凄いね♡』


 その言葉で俺は全てが報われたような気持ちになる。俺は認められたのだと。

 そうだ、俺は――――




 ジリリリリリリリ!

 カチャ!


 小鳥のさえずり……ではなく目覚まし時計で目を覚ました。


「ふああぁっ! 夢を見ていたような……」


 深夜にシエルとノエルねえが催眠しに来た記憶がある。その後で夢を見たはずなのに、ぼんやりとしか覚えていない。


「そう言えば生徒会の問題が……。面倒くさいな。俺は厄介な人間関係には関わらず省エネモードだったはずなのに」


 仕方がない。進藤会長と三条副会長はノエルねえの友達みたいだし、少しだけ力を貸してみるか。


 俺の中で何かが変わったのだろうか。こんな面倒事に首を突っ込むだなんて。



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姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

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