表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/133

第68話 百合か小豆か

「安曇さん、ちょっとこちらへ」


 ポカンとする姫川姉妹を残し、俺は三条先輩に連れ出されてしまう。

 人気ひとけのない廊下に。


「えっと、何処まで行くのですか?」

「この辺りで良いでしょう」


 中庭が見える渡り廊下のところで止まった三条先輩は、優雅な動きで俺の方を振り向いた。


「安曇さん……。わたくしが貴方を姫川ひめかわ乃英瑠のえるさんとくっつけます。ですから、会長のことは諦めてくださいませんか?」

「へ?」


 んんん? この人は何を言い出してるんだ? 俺と進藤会長が?

 って、ノエルねえとくっつけるだとぉおおおお! そっちの方が大問題だよ!


「ふふっ、分かります。本当は好きなのに、照れ隠しで叩いたりくすぐったりしているのでしょう?」


 くっ、だいたい当たっていて反論できねえ。


「ふふっ、好きな子にイジワルしちゃう小学生ですね」

「小学生じゃねーよ! って、すみません。先輩に」


 くっそ! くっそ! やっぱり俺の恋愛は小学生レベルなのか!


「良いですよ。それよりどうです? 私の提案は」

「べつに……付き合いたいわけじゃ……」

「あっ!」


 ポンッ!

 三条先輩が手を叩く。


「もしかして妹さんの方を」

「ちち、違います!」


 違わないけど!


「姉妹とは仲が良いですが、男女交際したいとは思っていませんから」


 とは言いながらも、本当は付き合いたい。めっちゃ付き合いたい。

 でも、家族になったから表立って交際するわけにはいかないんだ。


「おかしいですね。私の見立てでは乃英瑠のえるさんへの告白成功率100%、妹さんは98%ですわ」

「どんな計算ですか!?」

「わたくしの勝手な恋愛センサーです」


 本当に勝手だな! ったく適当なことを言いやがって。ノエルねえは100%だと……。


『いいもん。一生そうちゃんに面倒見てもらうから』

『そうちゃんに責任とってもらうから♡ お嫁さんにしてもら……あっ』


 ノエルねえの過去発言が脳裏をよぎる。


 ああああぁ! そう言われてみると告白成功しそうな気がしてきた! いや待て、騙されるな!

 女子は思わせぶりな発言があるものだ。ここで調子に乗ると痛い目を見るぞ。


 そんでシエルが98%なのか? それは無いだろ……。いや待て!


『ふふっ♡ 壮太なら許してあげる♡ キスしちゃえよ』


 シエルの催眠を思い出す。


 むしろシエルの方が100%な気がしてきたぁああああ! あの催眠のせいだ! あんなのされてたら、『俺のこと好きなんじゃね?』とか思っちゃうって!

 お、落ち着け。一旦落ち着こう。


「あの?」


 だだ、ダメだ。意識しないようにしてきたのに。三条先輩に言われて二人を意識しまくってるぞ。

 もう頭の中が好き好き大好きお姉ちゃんなんだけど! ノエルねえとシエルお姉ちゃん大好きなんだけど!


「あの、よろしいですか?」

「ええっ!?」


 どうやら三条先輩がずっと話しかけていたらしい。俺が妄想の世界でアタフタしている時に。


「それで、どうでしょうか?」

「だから嫌ですって。そもそも俺と進藤会長は何もありません」

「そうですかね?」


 再び三条先輩が目を見開いた。

 だから強キャラ感を出すのはやめてくれ。


「あの一件以来、事あるごとに会長は言うのですわ。『安曇は良い男だ』あっ、漢字の漢とかいておとこですね」

「はあ……」

「他にも、『女のために死地に飛び込む。今時珍しい男だな、安曇は。ハハッ!』とか」


 三条先輩は拳をグッと握りしめ苦悶の表情をする。


「ああああぁああああぁぁああ! わたくしの烈火様がぁ! 男なんかにうつつを抜かして! いっやぁあああああああああああああああああああ!」

「うわっ、ビックリしたぁああ!」


 優雅で落ち着いた三条先輩が絶叫し、俺は引っ繰り返りそうになる。


「お、おお、落ち着いてください」

「落ち着いていますわ」

「変わり身早いなおいっ! って、またすみません。先輩に」


 くっ、この先輩も大概だな。さすが進藤会長の相方だけはあるぜ。


「そこでお願いなのです。安曇さんに、部活動予算問題を解決していただきたいのですわ」

「だから何で俺に?」

「嫌がらせ……コホンッ、会長に相応しい男か審査ですわ」

「今、嫌がらせって言いました?」

「言ってません」


 この人、菩薩ぼさつのように優しそうな顔して、意外と……。


「まあ、冗談はこれくらいにしましょうか」

「冗談だったんですか?」

「進藤会長を助けると思ってお願いしますわ」


 だから何で俺が!


「進藤会長は人気も実力もトップクラスです。でも、それだけに敵も多い」

「つまり浅井、朝倉の反織田連合ですね」

「特に運動部の男子には、会長の人気に嫉妬や不満を持つ者が多いのです」

「姉川の戦いですか?」

「そこで安曇さんなのですわ」


 俺の話を完全スルーして、三条先輩は流れるような声音(アルト)で話し続ける。


「そんな折、バスケ部とサッカー部の設備改修の話が持ち上がりました。バスケ部の設備が老朽化しており、先にバスケ部のゴールを改修する話になったのですが、これにサッカー部が不満を訴え……」


 だからその話に何で俺が関係しているんだよ?


「サッカー部は反進藤連合を結成し会長を追い落とす動きを……」

「つまり、おいち様が袋に詰めた小豆を送るのですね」

「盤石に見える会長ですが、ここは反進藤派の動きを封じるためにも――」


 くっそ! この人、全くツッコんでくれない!

 シエルぅうううう! やっぱりお前が必要だ。シエルだったら『金ヶ崎の退き口か!』って絶妙なタイミングで返してくれるのに。

 ここにきてシエルの大切さを理解したぜ!


「それに、この件には安曇さんも関わっておりまして。責任を取ってもらいたいのですわ」

「は?」

「つい先日、サッカー部の次期エース候補の二年が転校するトラブルがありました。その者の名前は軽沢かるさわ成彬しげあきです」


 軽沢ぁああああ! どこまで迷惑をかけてくれるんだよ! 俺、あいつに呪われてるのかぁああ!



 ◆ ◇ ◆



 風呂上り、自室のベッドでくつろいでいる俺は三条先輩の話を思い出す。


『取引をしましょう。安曇さんが動いてくれるのでしたら、生徒会室を自由に使える権利を。それと、学園生活で何か問題があったら、生徒会が全面協力することをお約束します」


 帰り際、三条先輩は俺にそう言ったのだ。

 それから――――


『わたくしが安曇さんと姫川姉妹との仲を進展させます。代わりにわたくしと進藤会長の仲を取り持ってください』


 本音はこっちだな。

 あの先輩……やっぱり百合っぽい。まあ、二人はお似合いだけど。


「進藤烈火……男子にも女子にも絶大な人気を誇る生徒会長か。俺もその威厳に魅了されたところがある。でも、一部運動部男子からは敵視されていると……」


 人気者にはアンチも多いと聞くし。そういうもんか。


「三条先輩の話だと、会長が直接言うと反発が起こるから、男子の俺からそれとなく予算後回しの件を伝えてくれと言うが……。面倒くさいな」


 眠気が俺を襲ってきた。

 そういえば昨夜も二人が添い寝してきて寝不足で。


「ふぁああぁ……寝るか」


 照明を消し布団に入る。

 今夜もやってきそうな二人に身構えながら――――




 ガチャ!


 深夜零時を回った頃、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。


 ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ――


 あれっ? 今夜は足音が一人だな。


「壮太ぁ♡」


 シエルだ。この声はシエルだ。


「ありがとね壮太っ♡ 勉強教えてくれて♡」


 可愛いな! いきなり可愛いな!

 何で夜中だけ素直なんだよ! 昼間は塩対応なのに!


「よし、壮太と一緒なら勉強も頑張れる」


 普段も頑張ってくれ。

 まあ、俺もアニメやゲームばかりだが。


「でも壮太……三条先輩と何か怪しい……」


 怪しくねーよ! 部活動予算の話だって言っただろ!

 ったく、シエルは何でもかんでも怪しいとか言いやがって。それ、完全に彼氏の女友達に嫉妬する彼女みたいだぞ。


 自分でそう考えてから恥ずかしくなる。俺とシエルが付き合っている前提だと。


「壮太のばーか♡ 裏切ったら息の根止めるって言ったよね♡」


 だから止めるなぁー!


「い、息の根の前に……キスで息を止めてやろうかな♡」


 は? じょ、冗談だよな!? ま、まさか?


「壮太ぁ♡ ちゅー♡」


 ままま、待て! それはヤメロ!

 寝込みを襲うのはヤバいって!


 ガチャ!


 俺の顔にシエルの気配が近付いたその時、ドアが開きもう一人の姉が現れた。


「そうちゃぁ~ん♡ って、シエルちゃん!」


 姉妹で修羅場が始まった。ギスギス展開じゃなくエチエチ展開の。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

書籍情報
ブレイブ文庫 第1巻
ブレイブ文庫 第2巻
COMICノヴァ

-

Amazonリンク

i903249
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ