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第67話 秘密の生徒会室

 対面式にくっつけた長机。並んだ椅子。壁際にはロッカー。そして、カラフルなマグネットで貼りつけられたメモと何やら予算が書き込まれたホワイトボード。

 想像通りの生徒会室だ。


 問題なのは、何で俺がここに居るかなのだが。


「進藤会長、帰って良いですか?」


 来て早々、俺は退室しようとする。

 もちろん信長みたいな生徒会長が止めるのだが。


「こらこら、試験勉強をしに来たのだろ。ゆっくりしてゆきたまえ」

「はあ……」


 どうしてこうなった。

 ノエルねえが進藤会長に恥ずかしい暴露をされていたかと思ったら、そのまま俺とシエルが連行されてしまったのだ。


「どうぞ」


 副会長の三条さんじょう寧々(ねね)さんが、気品ある所作で俺たちの前に紅茶を並べてゆく。


「あっ、どうも」

「砂糖とミルクはご利用になりますか?」

「いえ、そのままで」


 鬼神のような印象の進藤会長に、こんな優雅で穏やかな副会長がいたなんて意外だ。


「進藤会長って、信長じゃなくて秀吉だったんですか?」


 つい副会長の名前にツッコんでしまった。

 進藤会長は予想していたかのように返すのだが。


「安曇、貴様はどうしても我を信長にしたいらしいな」

「だって相方の副会長が秀吉の正室と同じ名前とか、ツッコんでくださいって言ってるようなもんですよ」

「面白い後輩さんね」


 俺の冗談に、三条先輩は「ふふっ」っと上品に笑いながら、至極当然とばかりに進藤会長に寄り添った。


 ん? 俺の気のせいか?

 何だか百合の波動を感じるような?

 まあ、進藤会長って、そこらの男より背が高くて男前だからな。憧れる女子も多いみたいだし。


「進藤会長と三条副会長って、お似合いですね」


 自然と口に出た俺の言葉に、二人の先輩は嬉しそうな顔になった。


「ああ、三条は有能な副会長だ」

「うふふっ、嬉しいわ。安曇さんったらお上手ね」


 微妙に二人の言っている意味が違う気がする。

 まあ、気にしないでおこう。


「それでは我は剣道部の方に顔を出さねばならん。貴様らはゆっくりしてゆくがよい。ここは静かで勉強にはもってこいだぞ」


 そう言って進藤会長は部屋を後にした。

 良かった。無理やり生徒会に加入させられるかと思ったぜ。


「はぁああぅ、私の恥ずかしい秘密がぁ~」


 こんな時でも俺の横をキープしているノエルねえが、Gカップを乗せるよう長机に突っ伏した。

 やめろ、その乳乗せポーズは横から見るとヤバい。


 言い忘れていたが、ノエルねえも連れてこられている。俺と仲良しなのを先輩に話していたとは、悪いおねえだ。


「ノエルねえ、学校では俺たちのこと秘密って決めたよね?」


 びくぅーん!

 背筋を伸ばすノエル姉。


「えっとぉ、あれなんだよ。そうちゃんと違う学年で寂しいんだよ。お友達に話して寂しさを紛らわせるのはしょうがないよね」

「しょうがない訳あるかぁああ!」


 ノエルねえの頭をグリグリする。

 最近ちょっと過激になっている気がするが、ノエルねえにお仕置きするのが楽しいから許してくれ。


「悪いおねえはこいつかぁ~!」

「わぁああああ~ん♡ 許してぇ、そうちゃぁん♡」


 と、こんなイチャコラをしてしまってから気が付いた。この部屋にもう一人先輩がいることに。


「あっ、三条先輩……」

「どうそ、わたくしのことはお気になさらず」


 菩薩ぼさつのような微笑みを浮かべた三条先輩が言う。流れるような心地よい声音アルトで。


「えっと?」

「うふふっ、お二人が姉弟のように仲良しなのは、常日頃からお聞きしておりますから」

「そ、そうでしたか」


 ノエルねえ……余計なことまで言ってないよな?

 まあ、この人は何となく信用できそうだけど。


「俺も進藤会長との仲を応援してます」

「ふふっ、ありがとう。でも、お聞きしていた通り、ご自身のことは鈍感なのに、他の方には敏感ですのね」

「えっ?」


 何のことだろ? まあ良いか。

 それより勉強だ。


 俺は左隣で固まっているシエルを見る。

 こいつ、初対面の人が居ると無口になるんだよな。

 一見すると不機嫌そうで怖く見えるけど、単に緊張しているだけだったりするから。


「シエル、何の教科をやるんだ?」

「えっ、その、英語と数学」


 ですよね。カタカナ英語は得意なのに……。


「どれどれ、テスト範囲は関係代名詞と……後は……」


 俺もそこまで成績が良いわけじゃないのだがな。


「ここがこうで……」

「うんうん……」


 シエルめ、素直に俺の話を聞いて可愛いやつめ。いつもこんな素直なら良いのに。

 いや、シエルはあのクールな性格の方がギャップがあって良いかもな。深夜は甘々だし。


「あっ、ここはこっちだよ」


 反対側の席からノエルねえが手を伸ばしてきた。俺の顔にGカップが迫って目のやり場に困る。


「ここはwhichを使ってね」

「って、ノエルねえ! 教えるならシエルの隣に行ってよ」

「ええぇ、そうちゃんの隣が良いな♡」


 そんな顔でお願いしてもダメだぞ。目の前でGカップ巨乳を揺らされる身にもなってくれ。

 それ、わざとなのか? わざと見せつけてるだろ?


 グイッ!


 俺はノエルねえの腋に手を入れると、その体勢のまま持ち上げた。


「きゃ♡ くすぐったいよぉ♡ あんっ♡ だめぇ♡」

「変な声を出すな」

 ぽこっ!

「もぉおおっ♡」


 ノエルねえを無理やりシエルの隣の席に座らせると、最後に軽くチョップを入れておく。


「ふええぇん♡ 最近のそうちゃんが反抗期だよぉ♡」

「人を子供みたいに言うな」


 しかしノエルねえって普段はポンコツなのに、やっぱり頭が良いんだな。教えるのも上手いし。


「じゃあ、後はノエルねえに任せようかな」


 ギュッ!

 立ち上ろうとした俺の袖をシエルが掴む。


「壮太に教わりたい」

「ええー、ノエルねえの方が良いだろ」

「温泉……貸し一つ」

「うぐっ」


 そう来るか。温泉で助けてもらったからしょうがない。


「へいへい、分かったよ」

「それで良し」

「ふえぇ~ん! シエルちゃんに振られたぁ」


 ノエルねえが拗ねた。

 困ったおねえだ。


「俺だけじゃ不安だからノエルねえも教えてよ」

「ふへへぇ♡ そうちゃんに頼まれたらしょうがないなぁ♡」


 チョロい。チョロすぎる。ノエルねえ改めチョロねえだ。



 しかし、ここは落ち着いた良い環境だな。教室棟から離れていて静かだし。


 視線を上げると、三条先輩がパソコンで書類を作っているのが見えた。

 キーボードのタッチも規則的かつ静かで、所作の一つ一つが気品に満ち溢れている。その姿は、まさに理知的といった感じだ。


 いかにも有能なイメージの人だな。

 ノエルねえも有能だけど、二人はイメージがちょっと違う。ノエル姉が天使だと、三条先輩は菩薩っぽい。

 まあ、おねえは実際ポンコツだけど。




「お茶のおかわりはいかがですか?」


 一息ついたところで、すっと三条先輩が立ち上がる。

 絶妙なタイミングで淀みがない。寧々(ねね)だけに。

 おっと、一旦淀殿(茶々)と寧々のネタから離れるんだ。


「ではお願いします」


 カップを向けると、これまた優雅な仕草で紅茶を注いでくれる。

 もしかして、三条先輩って良いとこのお嬢様かな?


「安曇さん」

「は、はへ?」


 突然、声をかけられ変な受け答えをしてしまった。


「何ですか?」

「実は安曇さんに折り入ってお願いがありまして」

「お願い?」


 えっ? 何だろ急に。


「はい、安曇さんを見込んで頼みがありまして。会長がお認めになった男性ですから」


 おいおい、俺はコミュ障気味のオタクだぞ。何で見込まれてるんだよ。

 まさか、生徒会に入れとかじゃないよな? それなら断らないと。


「お、俺にできることなら……。でも、大して役に立たないと思いますが」

「安曇さんなら適任かと」


 スッ!


 にこやかな笑みを浮かべていた三条先輩の目が開いた。

 糸目キャラの目が開くのは強キャラの証か!?


「実は、部活動予算に関して、少々問題が起きております。会長も動いているのですが、いまだ解決しておりません。安曇さんには、そちらの説得に動いていただきたいのです――」


 唐突だな!? だから何で次から次へとトラブルに巻き込まれるんだよ。俺は省エネモードがポリシーなのに。

 答えは当然こうだな。


「お断りします」

「ふふっ、そう言うと思いましたわ。では取引をしましょうか?」


 有無を言わせぬ彼女の圧力に、俺は思わず後ずさる。

 完全に油断していた。穏やかに見えても、この人は鬼神の相棒なのだ。


「取引って言われても……」

「ふふっ、会長に気に入られている安曇さんには働いていただかないとですね」

「ええっ?」


 ハメられた! この人、何か俺に対抗心燃やしてないか!?



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