第65話 原初の四大女魔王
色々あったゴールデンウィークも終わり、連休明けの学校が始まった。
しかし何かがおかしい。
教室の席に座る俺には、目の前の光景がピンク色に見えるのだが。
「ダーリン♡ どうしてあなたはダーリンなの♡」
「ハニー、どうしてキミはハニーなんだい♡」
(独断と偏見で勝手にこう変換されています)
やっぱり、教室のあちらこちらから発情した若者たちの求愛行為が聞こえてくるような?
「おい、岡谷よ」
俺は近くにいる友人に声をかけた。
「何だ女魔王テイマー安曇よ」
何故か俺の苗字の前に変な二つ名が付いている気がするが、まあいつものことだ。
「岡谷、久々に登校したら、クラスにカップルが量産されていないか?」
「そんなの当然だろ」
「ほう、それは何故だ?」
岡谷は一瞬だけタメを作り、苦悶の表情になって叫ぶ。
「連休で遊びに行ったリア充たちが、良い感じになってくっついたんだよ! ちくしょぉーっ!」
まるでラブコメアニメのモブっぽい叫びだぞ。岡谷。
「まあリア充はそんなもんだろ。俺たちには今期の春アニメがあるじゃないか」
「お前がそれを言うなぁああ! この人畜無害そうな顔して、原初の四大女魔王を堕とすスケコマシオタクめ!」
岡谷が俺の首を絞めてきた。
「ぐえっ、な、何だその原初の四大女魔王とは?」
待ってましたとばかりに語り出す岡谷。
「ああ、よくぞ聞いてくれた。それはだな、元大天使の姫様や姉姫様が堕天し魔王となられた御姿に加え、凶悪なドスケベギャルと清純派なのに最近妙に淫乱っぽい黒髪ボブのことだぜ! この四人が、富岳院学園美少女四天王なのだよ」
魔王なのか四天王なのかよく分からん設定だな。
「おい岡谷」
「何だスケコマシオタク」
「さっきから星奈と明日美さんが、お前を睨んでるぞ」
「えっ?」
岡谷が後ろを向く。そこには野獣のように目を光らせたギャルと、プク顔の黒髪美少女が立っていた。
「岡谷、アタシが凶悪ドスケベギャルだって? いい度胸してるじゃん」
凶悪ドスケベギャルこと星奈が拳を鳴らす。ちょっと怖い。
「へえ、岡谷君って、私をそんな風に思ってたんだ?」
最近妙に淫乱っぽい黒髪ボブこと明日美さんが語気を鋭くする。超怖い。
「すすすすす、すみませんでしたぁああああ!」
すぐに岡谷は頭を下げた。膝をガクガク震わせながら。
ビビリすぎだろ。
まあ、女子を怒らせると怖いからな。特に明日美さんとか。
俺はヤンデレ目で迫る明日美さんを思い出す。
『壮太君♡ 壮太君♡ 壮太君♡ 壮太君♡』
ハイライトが消えたような目の明日美さん。その顔は妙に色っぽくて。
くっ、やっぱり現実女子は怖いぜ。ってか、『淫乱黒髪ボブ』って、ちょっと納得しちゃったぞ。やっぱり明日美さんはエロいよな。
俺が妄想に耽っていると、女子に怒られて生命力が激減した岡谷が戻ってきた。顔がしおしおだ。
「お、お前、よくあんな怖い女子を相手にしてるよな」
「そんなに怖くないだろ。星奈は良いギャルだぞ」
明日美さんは怖いけどな。
「くっ、一見オタクに優しいギャルに見えて、実は安曇にだけ優しいギャルじゃねーか。くそぉー!」
「そうかな? 星奈は誰にでもフレンドリーだと思うが」
「ちょっと待て、いつの間に名前で呼び合う仲になったんだ」
今頃になって岡谷が気付いた。俺が名前呼びしていることに。
「ギャルは名前呼びするもんだろ」
「な、ななな……」
「それに、あのギャルは良いギャルなんだよ。優しくて家庭的で家族思いで」
「ほう、やけに詳しいな。ギャルコマシオタクめ」
「何だそれ。それより、実はああ見えて人気ナンバーワンのドSメイぉおおっ!」
いきなり星奈が襲い掛かってきた。最後まで言わせないとばかりに。
「ちょっとぉ! それは内緒の約束でしょ!」
後から星奈に抱きつかれ、彼女のパツパツと張りがある体に密着される。背が高いので、体全体が密着するのだが。
「じょ、冗談だって! あたっ、当たってる!」
「冗談に聞こえなかったし♡ もうっ♡ そうちゃむのドSぅ♡ ざわとアタシを困らせて楽しんでるんでしょ♡」
バレたか。見た目はドSっぽいのに、実はドMな星奈だけに、ちょっぴり困らせたくなるんだよな。
まあ、そんなこと言えないけど。
「ち、違うって! 違わないけど! だから当たってる!」
「やっぱりぃ♡ てか当ててるんだし♡」
そんな漫画みたいなシチュエーションが現実にあってたまるかぁああああ!
って、実際にあったんだぁああああ!
派手なギャルメイクをやめナチュラルメイクになった星奈だが、官能的な香水はそのままだ。
見た目が自然で可愛くなったのに、匂いと気崩した制服だけギャルっぽいとか反則だろ! くっそムラムラくるのだが!
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「へぇ……やっぱり壮太君と嬬恋さんって仲が良いんだ」
思い切りヤンデレ目の明日美さんが俺を睨む。滅茶苦茶怖い。
「あ、あの、ふざけてるだけだから」
「私にもふざけてくれて良いんだけどな♡」
意味深な上目遣いをする明日美さんだ。
だから明日美さんには、不用意にふざけられないと言いますか……。
根が真面目なのか思い込みが激しいのか。
下手に調子に乗ると後戻りできなくなりそうなんだよな。
でも、ブリッジさせたりお手させちゃったけど。
際どい格好でブリッジさせた時の無防備な腋や、スカートの隙間から少しだけ見えた白い布を思い出す。
「壮太君♡ ほら、壮太君♡」
期待を込めた顔で俺を見る明日美さん。
そんな目で見ないでくれ。本当に恥ずかしいことを命令したくなっちゃうだろ。
「壮太君♡」
「と、とりあえず深呼吸しようか」
「すーはー、すーはー」
ホントにしたよ。この子。
「ちくしょおっ! 何で安曇ばっかり!」
放置していた岡谷の嘆きが聞こえてきた。
すまん、凶悪ドスケベギャルと淫乱黒髪ボブの女魔王に挟まれて身動きがとれん。
「むっすぅうううう!」
ああ、背中に凄まじい威圧感を感じるぞ。
これシエルが怒ってるやつだよな。
「壮太のバカ。もう息の根止める」
このままでは、いつか本当に息の根を止められそうだ。これ以上シエルを刺激しないようにせねば。
くっ、やっぱり岡谷の言っていた女魔王は正解だったぜ。
ガラガラガラ――
「お前ら席に着けー!」
教室の扉が開き、さやちゃん先生が入ってきた。
皆が自分の席に戻ってゆく。
一触即発な女魔王の宴は一時休戦となった。
「今日は連絡事項があるからな――」
さやちゃん先生の話で、正式に軽沢の転校が告げられた。遠くの学校に移ったらしい。
これで一件落着なのだろうか。
そして――――
「お前ら、ゴールデンウィークで浮かれ切ってるんじゃないだろうな? この青春真っ盛りどもめ! 羨ましいぃいいっ!」
何を言い出してるんだ、この先生は。連休中の婚活に失敗したのか?
「さやちゃんも若いですよ。うちの親より」
「まだまだイケますって。知らんけど」
生徒からフォローする声が飛ぶ。全くフォローになっていないが。
「うるせぇ、お前ら軽口をたたいていられるのも今の内だぞ。はい、中間テストの予定が決まりましたー」
「「「ええええぇ!」」」
皆が一斉に抗議の声を上げる。
抗議してもテストは無くならないのだがな。
ギュウウッ!
後から誰かが俺の制服を掴んだ。
たぶんシエルだろう。
「何だシエル?」
「ど、どど、どうしよ?」
何を世界の終わりみたいな顔してるんだ、こいつは。
◆ ◇ ◆
放課後――――
俺は早々に帰り支度をする。今日は予定があるからな。
どうやらシエルが試験勉強を全くやっていなかったようなのだ。
今日は家で勉強会という話になった。
まあ、シエルは引っ越しで環境の変化もあったからな。しょうがないか。
でも、あの成績優秀なノエル姉の妹にしては、シエルってアホっぽい(失礼)な気が……。
そんな俺に、クラスの女子が近寄ってきた。
「安曇君、一緒に図書館で勉強しない?」
「そうそう、私たちとやろうよ?」
ん? 何で特に親しくもない女子が?
急にモテ期でもきたのか?
もし良かったら、下の☆☆☆☆☆のところで評価を入れてもらえると嬉しいです。
モチベアップになります。




