第62話 どっちなの?
どっちと付き合ってるの?
どっちと付き合ってるの?
どっちと付き合ってるの?
頭の中で、莉羅さんの言葉が反響する。
どっち? それってノエル姉とシエルのことだよな?
ま、まさか……俺、疑われてる? 私の娘に手を出してるのとか? 家族なのに如何わしいことしてるとか?
「えっ、あの……だ、出してません。そ、そういう目で見てないかと言われたら、そりゃやましい気持ちがないこともないけど……。でも、俺は二人を大切に想ってますから」
ああ、上手く説明できない。
二人が大切なのは本当なのに。
でも、エッチな目で見てしまう自分もいる。
だってあんなに可愛いんだぞ!
「うふふっ♡」
必死に弁明しようとする俺を、莉羅さんは温かな笑顔で見守っていた。
「大丈夫よ。咎めてるわけじゃないの」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、そうよ。だって、母親の私から見ても、あの子たちって可愛いでしょ」
親バカだ。まあ分かるけど。
だって滅茶苦茶可愛いもんな。
「ついでにリラちゃんも可愛いでしょ♡」
「おいっ!」
しまった、またツッコんでしまった。
「ええ~っ! リラちゃんも可愛いでしょ?」
そう言って指で俺の頬をツンツンする莉羅さん。ヤバい。本気でこの人妻にグラつきそうだ。
何としても踏みとどまらねば。
「冗談はやめてください」
「ええぇ~可愛いでしょ♡」
「か、可愛いです……」
くっ、何てことを言わすんだ!
「きゃ♡ リラちゃんね、壮太君を見てるとキュンキュンしちゃうの♡ もう学生時代に戻ったみたいなのよ♡」
「いい加減、話しを戻してください」
俺はツンツンしている莉羅さんの指を押し戻した。
こういうスキンシップはやめてくれ。
「もぉ~壮太君ったらつれないんだからぁ♡」
「俺は省エネモードがモットーですので」
「そんなこと言っちゃってぇ♡ 私、知ってるのよ。壮太君と娘が隠れてイチャイチャしてるの」
ギクッ!
な、ななな、何を知ってるんだ!?
まさか……催眠とか添い寝とか……。
ま、マズい! 大切な娘さんと不純異性交遊を疑われたらマズい! 家族関係崩壊の危機に!?
「ほらぁ、先日もベッドをギシギシ軋ませてぇ♡」
「ん?」
それって、ノエル姉にお仕置きした時かな?
「あれは違います。ノエル姉とプロレスをですね」
「いやぁん♡ プロレスごっこってアレよね?」
「隠語じゃなく本当にプロレスです」
「ええぇ~」
莉羅さんの顔が、あからさまに残念そうな表情になる。
「壮太君……恋に性欲に盛んなJKとDKが、こっそり部屋でプロレスって……。小学生姉弟じゃないんだから……」
グサッ!
俺の恋愛は小学生レベルだったぁああ!
「じゃあじゃあ」
懲りない莉羅さんは、首をかしげながら話を続ける。
「あれはどうなの? ほら、いつも食事の時に、シエルと目で語り合ってるじゃない?」
「ん?」
それって……シエルが謎の対抗意識を燃やしてくるのだよな?
「あれも違います。シエルは俺と張り合いたい年頃なんです」
「いやぁん♡ 素直になれない恋心よね?」
「正直なところ、シエルは変ってるので俺もよく分からなくて。俺も対抗して戦っていてですね」
「ええぇ~」
莉羅さんの顔が、あからさまに残念そうな表情になる。
「壮太君……恋に性欲に盛んなJKとDKが、朝っぱらから素直になれない意地の張り合いって……。小学生姉弟じゃないんだから……」
グサッ!
やっぱり俺の恋愛は小学生レベルだったぁああ!
「うふふっ♡ 良いのよ、壮太君♡」
優しい眼差しの莉羅さんが、俺の頭に手をかざす。
ああぁ……気持ち良い。莉羅さんの優しい手が。
これが母性か?
俺の実母は口うるさくて夫婦間の仲も悪くて、家の中が冷え切ってたからな。
だから俺は決めたんだ。わずらわしい恋愛や人間関係から距離をおいて、省エネモードで生きようと。
でも、莉羅さんのような人なら家族になっても良いと思えるんだよ。母と呼んで甘えてみたり。
やっぱり訂正する。
莉羅さんは母というより女を感じさせるんだよな。こんなエロい人を母と呼ぶのは……。
そんな俺の心を知ってか知らずか、莉羅さんは笑顔で話し続ける。
「無理しないで素直になって。壮太君って人に気を遣ったり配慮したりで大変でしょ。もっと我儘になっても良いのよ」
「そう……でしょうか?」
家の中に超可愛い女子がいるのだから、気を遣うなと言う方が無理があるものだが。
「ほら、私にも気軽に『リラちゃん』呼びで」
「それはもういいですから」
「ええぇ~! 娘ばかり仲よくしてズルいズルい~♡」
巨乳を揺らしてヤダヤダする莉羅さんがノエル姉と重なる。やっぱり母娘だな。
「でもね」
急に莉羅さんが真面目な顔になった。
「壮太君のことはずっと心配だったのよ。あんなことになったまま別れてしまって」
あんなこと?
「娘たちもね、ずっと壮太君に会いたいって言ってたの。それに責任を感じちゃってるのかもしれないわね。だって、シエルが生きているのは壮太君のおかげなんですもの」
えっ? シエルが……?
「だから駅前の喫茶店で、茂さんに会った時は運命を感じたのよ。きっと神様が私たち母娘と壮太君との縁を繋いでくれたんだって」
「そうだったんですか……」
「ええ、だから私は言ったの。茂さんが転勤中は、私が壮太君のお世話をしますってね♡」
なるほど。あの親父が再婚を急いだ理由が分かったぞ。
やっぱり留守中の俺や家を、莉羅さんに任せようとしたのか。
「うんうん♡ だから安心して海外に単身赴任して良いわよってね。壮太君の生活も初体験も私が面倒みるって」
ん? 今、変な発言があったような?
「やっぱり年上女性に筆おろしされるのが理想よね♡」
「気のせいじゃなかったぁああああ!」
「もうっ♡ 冗談よ♡」
だから莉羅さんのは冗談に聞こえないだって!
「でもでもぉ♡ 女盛りの体を毎晩持て余しているのがツラくてぇ♡ 純朴そうな男の子の壮太君を見てると、こう体の奥が熱く火照っちゃうのよぉ♡」
ぽこっ!
「いったぁあ~い!」
また莉羅さんの頭にチョップをしてしまった。今度は偶然じゃない。
「この悪い人妻め。お仕置きしてやる」
ぽこっ! ぽこっ! ぽこっ!
「やぁ~ん♡ うんと年下の、娘と同じ歳の子にお仕置きされるとか、ヒドすぎるわぁああぁん♡」
火照った体をベッドに投げ出した莉羅さんが、豊満な胸を上下させる。
しまった、余計にエロくなってしまったぞ。
「もう帰りますよ」
「ごめんなぁーい」
俺に謝る莉羅さん。やっぱり母親っていうより年上のお姉さんって感じだ。
「ごめんなさいね。冗談が過ぎたわ」
「それはもう良いです」
「でも、壮太君に感謝を伝えたかったのは本当なのよ」
あれっ? もしかして?
「私も娘たちも、恩人の壮太君に感謝しているの。だから、壮太君は私たちに遠慮しないで自由にしても良いのよ。安心して、私も壮太君の味方だからね」
そう言った莉羅さんの顔は、紛れもなく母親のそれだった。
もしかして……莉羅さんは、それを伝えたくて俺を呼んだのか?
しかも、面と向かって言うのは恥ずかしいから、こんなエッチにふざけて見せて。
しかし、言葉を伝えるのにマッサージをさせるのは母娘そっくりだな。さすがノエル姉の母親だ。
「で、どっちと付き合ってるの?」
「それはもう良いですから!」
やっぱり莉羅さんは勘違いしている。俺と姉妹が付き合っているのだと。
「でも仲が良いのは本当よね? 好きじゃないの?」
莉羅さんの言葉が俺の本心を射抜く。
「好きか嫌いかと言われれば、す、好きですけど」
「それだけ?」
「す、すす、好きですよ。かなり」
「どのくらい?」
「ああぁ、めっちゃ好きです。大好きです」
かぁああああ!
自分の顔が赤くなるのが分かる。
熱い。風呂上りなのに汗をかいてしまった。
好きな女子の母親に『あなたの娘さんが好きです』と告白するとか、何の羞恥プレイだよ!
困惑する俺を見た莉羅さんは、満面の笑みで口を開いた。
「なら問題ないじゃない。あの子たちも壮太君のこと大好きだから」
「は? はああああああ!?」
好き? 大好き? 俺のことが?
待て待て待て! そんなはずはない!
シエルは好きな人がいるって言ってたし、ノエル姉は俺に甘えてるだけだし。
「それは誤解です……よ」
「そうかしら? 私が見たところ相思相愛に見えるわよ」
「ち、違いますって」
「ふふっ♡ 良いけど、選ぶのなら一人にしなさいよね。両方ってのはダメよ」
ガァアアアアアアアアアアーン!
図星を指された。クリティカルに。
そうだよ。俺は両方好きなんだよ。同じくらいに。
莉羅さんは娘を心配しているんだよな。やっぱり母親だ。
「でもでもぉ♡ リラちゃんを選ぶ選択肢もあるんだぞ♡」
やっぱり訂正する。 この人は悪い人妻かもしれない。