第61話 リラちゃんの一撃
「「「ただいまー」」」
一日ぶりに家の玄関をくぐった。三人一緒に。
いつもならノエル姉の抱きつき攻撃を受けるところだが、今日は一緒だから安心だ。
ったく、ノエル姉は寂しがり屋だからな。
そんなことを考えながらも、やっぱりノエル姉の柔らかな体を想像してしまう。朝の添い寝とか。
まあ、今日はずっと一緒だったから、いきなりGカップタックルは無いよな。
「おかえりなさい」
柔らかな笑顔で莉羅さんが迎えてくれる。
親が離婚してからずっと誰も居ない家に帰っていたのを思うと、こうして『おかえり』を言ってくれるのは良いものだな。
たった一言で心が温かくなるよ。
そういえば、久しぶりに莉羅さんの声を聞いた気がするぞ。たった一日ぶりなのに。
「ただいまです、莉羅さ……うおっ!」
「壮太くぅん♡ ほぉら、ママよぉ♡ 私の胸で甘えても良いのよぉ♡」
「ぎゃああああ!」
完全に油断していた。ハグしたがるのはノエル姉だけではないことに。
莉羅さんの豊満な胸が俺を包む。
「ちょ、マズいですって! 莉羅さん!」
「ああぁん♡ 私たち家族なのよ♡ 私のことは『ママぁ♡』か『リラちゃん♡』でお願いよぉ♡」
「だから嫌ですって!」
嫌とか言いながらも俺の体は勝手に反応してしまう。思春期なめんな。
心が温かくなるじゃなくて、あそこがイケナイコトになるの間違いだったぜ!
ああ、もうダメだ。こんな色っぽい人妻に抱きつかれるとか、どんな同人展開だよ。これ完全に成人向け――
「「お母さん!」」
そんな俺のピンチを救ったのは、キレ気味姉妹の声だった。
怒ったシエルとノエル姉によって、莉羅さんは引きずられてゆく。
「ああぁん♡ 冗談よぉ♡ ママも寂しかったのにぃ」
ズルズルズルズルズル――
本当に困った人妻……ではなく義母だな。
◆ ◇ ◆
「ふうっ、やっと落ち着いたぜ」
風呂上り、俺は冷蔵庫の冷えたお茶を飲んでからダイニングを出た。
そこで自室から顔を出した莉羅さんとばったり顔を合わせる。
「あら、壮太君」
「莉羅さん」
俺の顔を見た莉羅さんは、ポンと手を叩いて微笑んだ。
「そうだわ♡ ちょうど壮太君に頼みたいことがあったのよ」
「何ですか?」
いつも莉羅さんにはお世話になってるからな。朝晩の料理とか弁当とか。
たまには俺も役に立たないとな。
そうだ、莉羅さんを労わってやろう。
「俺にできることなら手伝いますよ」
「助かるわぁ♡ こっちこっち♡」
何の疑いもしないまま、俺は莉羅さんの部屋に入った。
「って、服を着てください!」
「いやだわぁ♡ これ寝巻よ」
俺は忘れていた。この母親は、あのノエル姉のエッチな下着や肌着を選んでいる人なのだと。
ノエル姉も凄まじくエッチだったが、莉羅さんは更に凄かった。
美人な容姿に人妻の色気が乗り、その熟れたグラマラスな肉体の魅力を遺憾なく発揮している。
それはチラリズムとでも言うのだろか? むしろ隠れている方がエロい。透けたベビードールからセクシーなレースの下着が見えているのがたまらない。
「あああぁ、この親にしてあの姉あり……いや逆か?」
「どうしたのかしら♡ 壮太君ったら」
「とりあえず何か着てください」
無理を言って上着を羽織らせた。このままでは目のやり場に困る。本気で困る。ただでさえ溜まっているのに。
しかしノエル姉といい莉羅さんといい、裸や下着は恥ずかしがるのに、セクシーな寝巻は平気とかどうなってるんだ。
「もう見ても良いわよ」
パーカーを羽織った莉羅さんが軽くポーズを決める。腰をくねらせ胸を突き出すような。
すまん、俺が間違っていた。
この人はパーカーを羽織った方がエロい。中途半端に隠れている方が、逆に想像力を掻き立てられるのだ。
パーカーに入り切れていない谷間も、裾から見えるデカい尻も。
「だ、ダメだ……俺の性癖が歪みそう……。とんでもない人が母親になってしまった」
「もうっ♡ 壮太君ったらお上手なんだからぁ♡」
「褒めてません」
これがノエル姉だったらお仕置きしたところだが、まさか義母をお仕置きする訳にもいくまい。
もうスルーあるのみ。
「それで、頼みって何ですか?」
「そうそう、お願いがあるの」
そう言って莉羅さんはベッドに横になる。何故か仰向けで。
「えっと、何ですか、それ?」
「マッサージして欲しくてぇ♡」
「えっ?」
もしかして誘ってるのか? 義理の息子を。
もう本格的にヤバいぞ。この人。
「普通、マッサージはうつ伏せでは?」
「あんっ♡ 私の場合はぁ♡ イケナイところがぁ――」
「帰りますよ」
「じょ、冗談よぉ♡」
俺が背中を向けると、莉羅さんは慌てて縋り付いてきた。
この人のは冗談に聞こえないんだよ。
「ほら、お願いね♡」
やっとうつ伏せになってくれた。
ムッチリした下半身が目の毒だが。
「そ、そういうのは今度から娘にさせてくださいよ。俺、これでも男なんですから」
目を逸らし莉羅さんの体を見ないようにしてベッドに乗る。
「マッサージは男性の方が効くでしょ。力が強くてぇ♡」
「そうですかね? あまり強いと揉み返しがきますよ」
「そこは適度にお願いね♡」
「へいへい」
もみっ、もみっ、もみっ!
「あんっ♡ そこぉ♡」
「エロい声を出すな」
ぽこっ!
「いたぁーい」
しまった。ついノエル姉と間違えてチョップを入れてしまった。
「もうっ♡ 義理の親で、年上女性で、か弱きリラちゃんを叩くってひどぉ~い♡」
「すみません、つい」
この人って親っぽくないんだよな。見た目も若いし。
「あと、そろそろ『ママぁ』って呼んでくれても良いでしょ」
「それは恥ずかしいので……」
もみっ、もみっ、もみっ――
照れ隠しに肩を揉んだ。
「壮太君♡ 家族になったのよ♡」
体を起こし、ジッと俺を見つめる莉羅さん。その瞳は慈愛に満ちていて……。
「ほら、壮太君♡ ママぁよ♡」
「ま、ま、ママ……」
「きゃぁああぁ♡ 壮太くぅん♡ ぐえっ!」
あっ、ついノエル姉と間違えてアイアンクローを入れてしまった。
「もうっ、壮太君って女の扱い酷くない?」
「す、すみません……。わざとじゃないんです」
「まったく、困った壮太君ね♡」
困ったのは莉羅さんの方だぞ。
「でも、ゆっくりで良いわ。私のことを母親だと思ってね」
「莉羅さんは母親って感じじゃないんですよ。若いし、綺麗だし」
ぽっ♡
「まあっ♡ まあまあまぁ♡」
莉羅さんの頬が染まり声のトーンが上がった。
「壮太君ったらぁ♡ リラちゃんを堕とそうとしたって、そう簡単にはいかないわよ♡ 私はチョロい女じゃないんだからね♡ じゃあ、今夜は部屋で待ってるわ♡」
「チョロっ!」
俺が眉をひそめてジッと見つめると、莉羅さんの顔が見る見るうちに青ざめてゆく。
「ち、違うのよ。私、不倫とかしないから安心して。大丈夫だからぁ」
「本当に大丈夫ですか? 再婚早々、破局とか勘弁してくださいよ」
「ホントに身持ちは堅い方だからぁ。誘惑するのは壮太君だけよぉ♡」
本当に大丈夫なのか――――
「って、今なんつったぁああああ!?」
もしかして、本気で俺を狙ってるのか? 義理の息子に寝取らせなのか? ま、まさかな。
「り、莉羅さん? 本気で……」
「腰の辺りもお願い」
「って、聞いてないし!」
やっぱり母娘だな。三人揃って思わせぶりなんだから。
ノエル姉の添い寝やシエルの催眠だけでも刺激的過ぎる毎日なんだぞ。これ以上、誘惑されてたまるか。
「ふふっ♡ やっぱり壮太君は良いわね♡」
莉羅さんは笑っている。
やっぱり俺は、からかわれただけか。
「で、どっちと付き合ってるの?」
「は!?」
不意を衝く莉羅さんの質問が空気を一変させた。まるで青天の霹靂のように。