第60話 選択肢を間違えた?
「えっとぉ、ほら、シエルちゃんだけなのは良くないと思うのね。やっぱり姉妹だから。それでね、私も一緒にね――」
さっきからノエル姉が必死に弁明している。しどろもどろになりながら。
「そ、そういう訳なの……」
星奈と蜷川さんは、ジト目になってノエル姉を見つめる。
どうやら、朝起きたらノエル姉が俺を抱き枕にしているのを目撃したそうなのだ。
たぶん、俺の布団に潜り込んだまま眠ってしまったのだろう。
シエルはゲームの勝者ということで見逃されている。
実際は催眠仕掛けたり頬にキスしたりとやりたい放題なのだが、そこは二人にはバレていない。
「ほ、ほら、そうちゃんって抱き枕にしたくなるでしょ?」
開き直ってぶっちゃけたノエル姉。その顔は何故か『ふんすっ!』という感じだ。
いや、なるでしょと言われましても。
「はあっ」
「ふうっ」
これには二人も呆れた顔でため息をついた。
「ノエル先輩って、ちょー美人で完璧に見えて近寄りがたい感じだけど、実はけっこうドジっ子なんですか?」
問い詰めようとしていた星奈だが、その口元には笑みが浮かんでいる。
これもノエル姉の人徳……じゃなくポンコツが原因か。
「姫川先輩って憧れの優等生って思ってましたが、家ではこんな感じなんですね」
蜷川さんも微妙な顔をしている。笑うのは失礼だと思っているのか、無理やり顔を引き締めているのかもしれない。
これにはノエル姉も目線を落とした。
「私、皆を幻滅させちゃったかもぉ……」
「ぷっ!」
ノエル姉の顔がおかしくて、つい吹き出してしまった。
「ちょっと、そうちゃん! 今、笑ったでしょ?」
「ふっ、あははっ! 大丈夫だよ、お姉は元からポンコツだから」
「ぽ、ポンコツじゃありません!」
いつものポコポコ攻撃がきた。
だから、それがポンコツっぽいんだよ。
「ほら、ノエル姉、もう隠してもしょうがないだろ。家では汚部屋だったりダサジャージだったりズボラ姉なんだから。白状しちゃおうよ」
俺が真実をバラしてやったものだから、ノエル姉が頭を抱えた。
「わぁああぁ! そうちゃんのイジワルぅ~! お姉ちゃんに恥をかかせてぇ」
「ほらほら、バレちゃったからしょうがないだろ」
「ふえぇええ~ん!」
普段とのギャップが凄すぎて、もう星奈と蜷川さんもこれ以上追及できない。
何だか生暖かい目で見守っているぞ。
「あはっ、ノエル先輩って良いキャラしてますね。のえるんって呼んで良いですか?」
「姫川先輩の意外な素顔を知っちゃいました。何か憎めませんね」
「やめてぇ~! 先輩の威厳がぁ」
大丈夫だぞノエル姉。昨日からババ抜きがクソ弱かったり、俺にお仕置きされて伸びてたり、恥ずかしい系の罰ゲームを全部受けてたりで、ポンコツバレしてるから。
こうして、皆でわいわいと会話は弾み、運ばれてきた朝食をとる。
あっという間にチェックアウトの時間となり、俺たちの危険なお泊りは終わったのだった。
「ありがとうございました」
「「「「ありがとうございまーす」」」」
会計を終え、皆が暖簾をくぐってゆく。俺は最後に靴を履いた。
「旦那様」
満面の笑顔になった女将が近付いてくる。
「はい、何ですか?」
「昨夜はお楽しみになれましたか?」
グッと親指を立てるジェスチャーをする女将。だから何の意味だよ?
「はい、楽しかったです」
「それは何よりございます」
そこで女将が、ワイドショーの芸能人不倫ネタを見たような顔になった。
「お風呂は如何でしたか? 普段は男女時間制ですが、昨日は特別に混浴にさせていただきました。お部屋の方もお楽しみいただけるよう趣向を凝らしまして」
「えっ!?」
ええっ!? あの混浴や新婚さん布団はわざとなのかよ!
「また、当旅館の次期コンセプトは『出そうな旅館』でやろうかと思いまして。あえて不気味なコンセプトに変えてみたのですよ」
おい、この出そうな旅館は演出なのかよ!?
「お客様には特別価格でモニターになってもらおうかと思いまして。どうでした? きっと奥様も吊り橋効果で、いつもより熱く燃え何度も求めてきたことでしょう」
「は?」
「これで子宝にも恵まれ子孫繁栄でございますね」
待て、この女将は何を言っているんだ。俺の周りを修羅場にしたいのか。
「それにしても、あんな美人の妻が四人も。旦那様はお盛んですこと♡ うふふふふ」
「妻でも奥様でもないです。友人ですから」
とりあえず訂正しておいた。
女将の方は『若旦那、愛人四人とお忍び旅行発覚!』みたいな顔でニヤついているけど。
ワイドショーネタはやめてくれ。
◆ ◇ ◆
ガタンガタンガタン――プシュー!
『藤倉、藤倉――――」
電車が駅に到着し、色々あった旅行は終わりを告げた。
ちょっと待て、家に帰るまでが遠足だったな。遠足じゃねーけど。
「そうちゃむ」
姫川姉妹の後ろを歩く俺に、星奈が肩を寄せてきた。前の二人に気付かれないように。
「えっ?」
「アタシ、今回の件で分かったし」
「何が?」
「そ、そうちゃむは強引に襲わないと堕とせないって♡」
おい、このギャルは何の話をしているんだ?
「だよね。嬬恋さん」
反対側から蜷川さんが迫ってきた。ハイライト無し目で。
「この鈍感な壮太君は無理やり気持ち良くさせちゃうしかないんだよ♡」
「ええっ! 何が!?」
えっ? 何で俺……二人に挟まれてるの?
「ご、強引にされたいのはアタシなんだけどぉ♡ そうちゃむのドSぅ♡ 焦らし魔ぁ♡」
ぐいぐいぐいぐいっ!
パツパツで健康的なギャルボディを押し付けてくる星奈。セクシーな香水の匂いと張りのある肌が密着してたまらない。
「壮太君♡ わ、私、頑張るからね♡ 絶対壮太君を気持ちよくさせちゃうから♡」
ぐいぐいぐいぐいっ!
小柄な蜷川さんも、俺の胸に顔を寄せる。爽やかな柑橘系のような香りが鼻をくすぐり、トクンと胸が高鳴った。
「ちょ、ちょっと待って。何で俺、二人に挟まれてるの?」
俺の言葉に、二人はジト目で返してきた。
「そうちゃむが添い寝されてたのが悪いんだし」
「壮太君が朝挟まれてたからでしょ」
そうだったぁああああ! 俺のせいだったぁ!
朝は和やかになってたから、てっきり許されたと思ってたけど、全然許されてなかったぁああああ!
そう、許されたのはポンコツ姉であり、俺ではなかったのだ。
何かよく分からないけど、俺はこの二人の闘争心に火を付けてしまったのだろう。
「そういう訳でよろしくね♡ 壮太君♡ 私、もう容赦しないから♡ あと、私の名前は明日美だよ。他の子だけ親し気にするのは許さないからね♡」
ハイライト無し目にピンク色のオーラを纏った蜷川さんからゾクゾクするような殺気を感じる。
ヤバい。もう手遅れだ。
「わ、分かりました」
「何で敬語なのかな? あと名前は?」
「わわ、分かった。 あ、明日美さん」
「うんっ♡」
蜷川さん改め、覚醒せし大いなる蜷局となった明日美さん。滅茶苦茶怖い。
俺は何処かで選択肢を間違えたのか?
「そうちゃむ♡ あ、アタシも容赦しないから♡ ホントはめっちゃキツく責められたいけど、勝つためには何でもしちゃうし♡ ちょー攻めていくから覚悟しろし♡」
待て待て、何で星奈がやる気満々なんだよ? ドMギャルが攻めたらヤバいだろ。
やっぱり俺は選択肢を間違えたのか?
おかしい……俺は美少女ゲームで女心をマスターしたはずなのに。どうしてこうなった。
星奈と明日美のハートに火をつけてしまった!
これはヤバいぞ。
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モチベアップします。




