表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/133

第54話 温泉で本音がポロリ

「ここが温泉か」


 脱衣所の引き戸を開けると、そこは普通に露天風呂だった。

 普通と言っては失礼だが、旅館の外観が不気味なだけに、温泉が普通なだけで驚いてしまう。


「料理も美味しかったし温泉もかけ流し露天風呂だし、実はこの旅館って凄くお得なのでは?」


 そんな独り言をつぶやきながら湯船を見つめる。


 そう、俺は温泉に入ろうとしていた。

 料理を食べ終わた俺たちは、女将おかみに促されるまま温泉へと向かったのだ。


 男風呂に入ろうとする俺に、女将は『本日のお客様は、旦那様たちだけでございます。存分にお楽しみください』と笑顔で言った。

 親指を立てる変なジェスチャーと共に。


 ザバァー!


 かけ湯をしてから湯船に浸かった。熱過ぎずぬる過ぎず、ちょうど良い感じだ。


「ふぃ~っ! 良いお湯だぜ。一時はどうなるかと不安だったけど、意外と良い旅館みたいで安心したぜ」


 大きく伸びをしてから、全く安心じゃないことに気付く。


「って、のんびりしてる場合じゃねぇええええええ! 今夜は女子四人と一緒に寝るのかよ!? ままま、マズいだろ! どど、どうする? 何か間違いでもあったら……」


 自分の体に血流が良くなるのを感じる。


 ザバッ!


「ここで一度スッキリさせておくべきか。待て待て! そんなの誰かに見られたら人生終わるぞ!」


 ガラガラガラ!


 湯煙の向こうで脱衣所の引き戸が開く音がした。

 俺は静かに湯船に浸かる。思いとどまった自分に感謝しながら。


 ん? おかしいぞ。今日は俺たち以外の客は居ないはずでは?

 何で男風呂に入ってくるんだよ。


 ヒタヒタヒタ――


 俺が困惑しているうちに、その人物がどんどん近付いてくる。


 白くしなやかな体。スラっと長く魅惑的な脚。タオルを巻いているのにもかかわず、その芸術的にまで美しい肢体は隠せていない。

 輝くようなダークブロンドの髪は、いつもと違いアップになっていて……。


「えっ、ええっ! シエル!?」


 その客はシエルだった。

 俺と目が合って思考停止したのか固まっている。


「あ、あわっ、あわわっ、そそ、壮太」

「待て! れ、冷静に話そう。騒ぐんじゃない」

「きゃ、きゃああぁ、ええ、エッチ、ヘンタイ、ドスケベ……うぐぅ」


 緊急避難だ。俺はシエルの口を塞いだ。

 ここでエッチ罪で捕まるわけにはいかない。


「落ち着けシエル。ここは男風呂だ」

「んん~! うんぅ!」


 何を言っているのか分からないので塞いだ手を離す。


「エッチ、ヘンタイ!」

「だから落ち着けって」

「あわわ、みみ、見た?」

「見てない。タオルで隠れているから」


 そう言いながらもバッチリ目に焼き付けている。シエルの綺麗な体を。もう一生忘れられない。


「そ、壮太、正気? ここ女風呂だよ」

「だから男風呂だって」

「えっ?」

「ん?」


 二人で脱衣所の方に視線を移動する。

 湯煙に霞むその扉は二つあった。

 俺が入ってきた男風呂用と……シエルが入ってきた女風呂用……あれっ?


「シエル、どうやらこの温泉は混浴らしい」


 俺は衝撃的事実を告げた。

 シエルは目が泳ぎまくっている。ずり落ちそうなタオルを必死に直しながら。


「どど、どうしよ、どうしよ……」

「おお、落ち着け。俺は一旦出るから。後でゆっくり入るよ」

「う、うん」


 ザバッ!


 脱衣所に戻ろうとして、湯船を取り囲む岩に足を掛けたその時だった。


 ガヤガヤガヤガヤ――


「そうちゃんと一緒に入りたいなぁ」

「ノエル先輩、それは攻めすぎだし」

「だ、ダメですよ。先輩は同居しているのに」


 えっ、ノエルねえたちの声が……。


 ガラガラガラガラ!

 ズシャァアアアアアアアアアアアア!


 引き戸が開いた瞬間に、俺は速攻で隠れた。湯口がある岩の裏側に。何故かシエルを連れたまま。


「うぐぅ……」

「しっ! シエル、静かに。バレちゃうだろ」

「こくっくっ」


 俺とシエルは目で合図する。

 あれっ? シエルは隠れる必要無いよな?


「しまった。すまんシエル」

「ばば、バカなの?」

「声を抑えろ。バレるだろ」


 すぐそこに皆がいるのだ。こんなタイミングで出て行ったら大問題だろう。

 もう隠れてやり過ごすしかないのだ。


「もうっ、壮太のばぁか」

「まだ怒ってるのかよ?」

「べ、べつに……」


 プイッと横を向くシエルの顔を見る。湯気で湿った髪が色っぽい。

 まつ毛が長くて……綺麗な瞳の色で。鼻筋が通っていて、くちびるも柔らかそうで。


 ダメだ。もう見つめるだけで愛おしさが込み上げてくる。抑えられない。

 家族になったんだ。こんな想いを抱いちゃダメなのに。


「壮太……」


 潤んだシエルの瞳が揺れ、瑞々しいピンク色のくちびるが動く。

 やめてくれ。そんな目で見られると自分を抑えられなくなりそうだ。ただでさえ裸にタオル一枚でくっついているのに。


 ていうか、そもそもシエルが催眠なんかするから悪いんだぞ。俺の気持ちも知らないで。

 あんな甘々な声で催眠されたら、そりゃ好きになっちゃうって!


 自分の中で『好き』という言葉を出してしまい、顔が熱くなるのを感じる。


「壮太が悪い……」

「えっ?」


 突然つぶやいたシエルに、俺は聞き返した。


「何が?」

「だって、おねえの方が好きだって言った」


 何のことだ? 俺が言ったのはアニメのヒロインの好みだったはず。


「俺はセシリア推しだって言っただけのような?」

「ノエルねえに似てるって言った」


 そういえば……言ったな。


「壮太はおねえが好きなんだ……」


 シエルの表情が沈む。


「えっ、あれっ? 俺はアニメのヒロインの話をしただけだぞ」

「えっ?」

「だから、ノエルねえは関係なくて……単にアニメヒロインが好きなだけで」

「はあ?」


 シエルの目つきが鋭くなる。

 だからヤメロ、その氷の女王顔は。


「壮太、紛らわしい」

「すまん……」

「なら、許す」


 シエルの顔が緩んだ。ホッとしたように。


「勘違いだったのかよ。俺がシエルを蔑ろにするわけないだろ。た、大切な人なんだからな……」

「そ、そなんだ♡ だ、だよね♡」


 シエルの顔が赤い。

 俺も更に顔が熱くなる。

 何だコレ。温泉でのぼせたのか?


「そ、そうかぁ♡ 壮太は私が大切なんだもんね♡ すっと一緒にいたいんだよね♡」

「おいヤメロ。恥ずかしいだろ」

「んふふぅ♡ そうかそうかぁ、私がいないとダメなんだぁ♡」


 くっ、こいつ調子乗ってるな。ったく、相変わらずよく分からん女だぜ。


 ガヤガヤガヤガヤ――

 その時、岩の向こうからノエルねえたちの声が聞こえてきた。


「おかしいなぁ。先に入ったシエルちゃんが居ないけど」

「忘れ物でも取りにいったのかな」

「もしかして、心霊現象とか?」

「やめてぇ、嬬恋つまごいさん……」

「あすぴ、怖がり過ぎだって」


 何やら盛り上がっている。

 しかしこのままではマズいぞ。何とかして脱出しないと。


「じゃあここで恋バナなんてどうです? ノエル先輩からどうぞ!」


 星奈せいながギャルっぽい話題をぶち込んできたぞ。

 俺は気になって岩陰から覗こうとして――――

 

 グイッ!

 シエルが俺を引っ張る。


「壮太のエッチ。なに見てるの」

「お、おい、くっつくな」

「おねえの裸を見ようとした? 見たいの?」

「違う、見てないから」


 俺とシエルがタオル一枚で押し合いへし合いしている頃、皆の恋バナは急展開を迎えていた。


「ねえねえ、ノエル先輩の好きな人、教えて」

「え、ええっとぉ」

「まっ、聞かなくても分かってるけど」

「ちょっとぉ、星奈せいなちゃん」


 ノエルねえがアタフタしている。

 俺も気になるぞ。ノエルねえの好きな人。


「じゃアタシから言っちゃおっかな」


 星奈せいなが口火を切ろうとする。


「ちょっと星奈せいなちゃん。そういうのは恥ずかしいからぁ」

「じゃあさ、皆で一斉に言うってのはどう? それなら恥ずかしくないっしょ」


 おいこら、そんなプライベートな話を盗み聞きしちゃマズいだろ。どうすんだよこれ。

 しかし聞きたいような、聞いちゃいけないような。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

書籍情報
ブレイブ文庫 第1巻
ブレイブ文庫 第2巻
COMICノヴァ

-

Amazonリンク

i903249
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ