第50話 キス……してみる?
どうしてこうなった。
ベッドの上に寝そべったシエルに、俺が覆いかぶさるような格好だ。
倒れた拍子にベッドインしてしまうなんて、漫画のような展開だぞ。
「そ、壮太♡」
シエルの瞳が熱を帯びている。大きくて……綺麗な色で……少し潤んだ。
ドキッ♡ ドキッ♡ ドキッ♡ ドキッ♡
胸の鼓動が速くなる。もう俺の胸なのかシエルの胸なのか分からない。
密着した二人の体が、熱くドキドキと脈打っているのだ。
「シエル……」
「壮太♡」
ふと視界の隅にポコルンとペコルンが入った。あのゲーセンで取ったものだ。
ベッドの脇に置いてあったのが転がってきたのだろう。
大切にしているみたいで嬉しい。
俺の中に愛おしさが込み上げてくる。
トクンッ♡
あれっ、何で俺の体が勝手に?
どんどんシエルに近付いているのだが?
これ、前にもあったよな?
そうだ、あの公園で……。
「壮太……キス、してみる?」
「えっ?」
あ、あの? シエルさん? 冗談だよね?
「んっ…………」
シエルが目をつむった。その体からは震えが伝わってくる。
緊張しているのか、シエル?
ちょ、ちょっと待て。だから何で恥ずかしがり屋なのに、たまに大胆になるんだよ!
マズい、このままじゃキスしちゃいそうだ。
というか、めっちゃキスしたい!
キスして俺の彼女にしたい!
あああああああああああああああ!
深夜の催眠が効きまくってるじゃないか!
『良いよ♡ キス……しちゃっても♡ 明日、壁ドンしながらキスしちゃえ♡』
本当に催眠された通りになってるじゃないか! しかも壁ドンじゃなくベッドの上だなんて!
もうシエルへの想いが止められねぇええええ!
ぐっ!
待て待て待て! シエルとは家族になったんだ。が、我慢しないと。
でも、それで良いのか?
『シエルが大切だし一緒に居たい。シエルには泣いてほしくないし悲しんでほしくない。ずっと笑顔でいて欲しいから』
あの雨の日、ずぶ濡れで叫んだ言葉を思い出す。
あああぁ、そうだよ! 俺はシエルとずっと一緒に居たいんだ! もうダメだ。このままじゃ俺は……。
『そうちゃん、良い子~良い子~』
今度はノエル姉の笑顔が浮かんできた!
何で俺はこうなんだ! シエルもノエル姉も両方は選べないのにぃ!
チラッ、チラッ!
痺れを切らしたのか、緊張感に耐えられなくなったのか、シエルが薄目を開けている。
「えっと、シエル?」
「むぅうううっ……遅い!」
「ちょ、待て!」
むにっ!
俺の手が何か柔らかなものを触った。
「あれっ?」
「きゃ♡ そそ、壮太?」
俺の手が……シエルの胸に……だと?
「ま、待て、わざとじゃない」
「壮太ぁああ!」
ガシッ!
「いたたたっ!」
シエルが膝蹴りしやがったぞ。壁ドンじゃなく腹ドンかな。
だから暴力系ヒロインは……。
ゴソゴソゴソ――
結局、二人とも同時に体を離してしまった。
今は恥ずかしさと気まずさで沈黙が続いている。
どうしたものか。
ボソッ!
「もうっ、壮太の意気地なし……」
「えっ?」
「な、何でもない」
何かボソッと喋ったけど、よく聞こえなかったぞ。
「ったく、シエルめ。年頃の男相手に変な挑発はやめろよな。あれ、俺だから耐えたんだぞ。他の男だったら、どうなっていたか…………ん?」
思いっ切りシエルがジト目になっている。
「どうした、シエル?」
「他の男になんてするはずない」
「そ、そうなのか?」
「そうなの」
ちょっぴり親心みたいな感じにシエルを心配してしまった。大きなお世話だったようだが。
まあ、こいつ男子には塩対応だし大丈夫か。
「ここ、痛い?」
シエルが俺の腹を触っているのだが。
「どうした?」
「さっき、蹴っちゃったから」
「ああ、それか。大した事ないよ」
「良かった」
俺を心配していたのか。良いとこあるな、シエル。
「って、ちょっと待て! わははっ!」
つい笑い声を上げてしまった。
シエルが俺の脇腹をコチョコチョしているからだ。
「何をしている?」
「ふふっ♡ 壮太め、お仕置き」
「ほほぅ、そうくるか。ならば俺も容赦はしない」
変なテンションになった俺は、目標をシエルの腋にロックオンする。
「そぉれ、コチョコチョコチョコチョ」
「きゃはははっ♡ ダメダメっ♡」
シエルもくすぐり返してくる。
「コラぁ! 壮太ぁ!」
「待て! それは反則だ!」
「問答無用ぉ!」
コンコンコン!
「シエルちゃん、そうちゃん、居る?」
ズサァアアアアアアアア!
「うわっ!」
「きゃっ!」
ノックの音とノエル姉の声が聞こえて、俺たちは一気に距離をとる。
「入るよぉ」
カチャ!
「んんっ……」
「うくぅ♡」
マズい。思い切り何かあった感じになってしまった。
おい、シエル。顔が真っ赤じゃないか。それバレバレだぞ。顔に出やすいやつめ。
当然ながら、俺たちの様子を見たノエル姉が訝しむ顔になった。
「あれぇ? 何かあったのかな?」
「な、何も無い。キスしてない。くすぐってただけ」
シエルが答えるも、完全に自爆だ。
つい俺までツッコんでしまう。
「おい、シエル。キスとか言うなよ」
「だからしてない。壮太のバカ」
「何だと。そもそもシエルが変な挑発をするからだ」
「でも壮太が触った♡ エッチ♡」
ふざけたシエルが胸を隠す仕草をする。
「あ、あれは事故だって!」
ぽすっ!
ノエル姉が俺の横に座った。
俺はベッドの上で、シエルとノエル姉に挟まれてしまう。
「そうちゃん」
俺の方に体を傾けながらノエル姉が口を開く。
「そうちゃん、女の子の胸を触っちゃダメだよ。メッだよ」
「だからあれは……」
「触りたいのなら、お姉ちゃんのを触りなさい」
「ででで、できるかぁああ!」
迫力のGカップを寄せてくるノエル姉。やめろ、それは童貞を殺す最終兵器だ。
「そうちゃん♡ そんなに触りたいの? 我慢できなくなっちゃったらお姉ちゃんのを♡」
上目遣いで俺を見るノエル姉が、更に体を寄せてくる。
Gカップも最終兵器だが、その顔も最終兵器だったぁああ! ノエル姉は全身が攻撃力カンストのSSSクラスみたいなもんだぞ!
「そ、そうちゃん♡ そうちゃんの頼みなら、お、お姉ちゃん……」
「ちょ、早まるな! 触らないから。俺は健全にだな」
「い、いいよ♡」
「良くねーから!」
ノエル姉がおかしい。もしかして、昨日の蜷川さんに影響されたのか?
「もうっ! もうもうっ! またシエルちゃんと二人でイチャイチャして。お姉ちゃんにも構って♡」
そ、それが本心かな? 前にウサギは寂しいと何とかって言ってたし。
「ったく、ノエル姉は子供みたいだな」
「もうっ! 子供じゃないもん♡」
むぎゅ!
ノエル姉が抱きついてきた。
ああああああっ! めっちゃ大人だったぁ!
柔らかくて良い匂いで天国だぁああ!
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
反対側からは凄まじい威圧感だ。シエルが怒ってるんだよな。
「壮太! お姉にデレデレしない! ドントタッチパイ!」
こら! もうカタカナ英語じゃなく完全に和製英語だぞ!
「そうちゃん、密室でエッチなことするのはダメだよ。お、お姉ちゃんなら……い、良いけど♡」
こら! もう冗談じゃなく完全にエッチじゃないか!
「そういうことはしないから。俺は女子とは一定の距離をだな」
俺は節度を保ちたいのに、それを姉妹は許してくれない。
「でも、蜷川さんとエッチなことしようとした」
「今日も星奈ちゃんの胸を見てたわよね?」
二人がグイグイ来る。同級生女子の来訪が原因なのだろうか。
いつの間にかシエルまで距離が縮まっている。もう俺の両肩に柔らかな体が密着していた。
「壮太、他の女に手を出すのは許さない。裏切ったら息の根を止める」
「そうよね。そうちゃんが他の子とエッチしたら息の根止めないとよね」
怖い発言をするシエルに、ノエル姉まで同調し始めた。
「だから息の根は止めるなぁああああ!」
グイグイッ! グイグイッ!
両側からの圧が凄い。
「もう、そうちゃんにお仕置きしないとだよ!」
「何かムカつく。私もお仕置きする!」
二人が俺の腕を掴んで離さない。
もう逃げられない。
何故だか分からんが、俺は二人の嫉妬に火を付けてしまったようなのだ。
「ま、待て! 何をする気だ?」
「こらぁ、問答無用!」
「そうちゃぁん♡」
「ああああぁ! もうこんなの耐えられない!」
俺はお仕置きと称した密着攻撃を受け続けるのだった。しかも両側から。
同級生女子の訪問で嫉妬の炎がメラメラと。
これはお仕置き確定です。
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