表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/133

第42話 二人に挟まれ大ピンチ

 ドアを開けた俺は、シエルとばったり顔を合わせた。

 こいつ、まさか盗み聞きしてたのか?


「どうしたの、壮太君?」


 後から蜷川にながわさんの声が聞こえて、とっさに俺は体でドアをガードした。


「な、何でもない。ちょっと考え事を」


 そう言いながらシエルに目で合図をする。すぐ部屋に戻れと。


 コクッ!


 頷いたシエルは、何を思ったのか一階へと降りてゆくではないか。


 待てこら! そっちじゃない!

 俺たちが一階に行こうとしているのに、そっちに逃げてどうするんだよ!


 どうやらアイコンタクトは失敗したようだ。


「何かあったの? 誰か居るの?」


 蜷川にながわさんが不思議そうな顔をしている。

 さすがに足音や気配でバレるだろう。


「えっと、そう、母親がね」

「お母様が?」

「そうそう、きっと俺たちが不純異性交遊してないかチェックに来たのかも」


 ごめん、莉羅りらさん。不純異性交遊に厳しい母親ということにしてくれ。


 かぁああああああ――

 蜷川にながわさんの顔が赤くなってゆく。


「どうしよう……。わ、私、壮太君のお母さんに、性にふしだらな娘さんって思われちゃったかも」


 その自覚はあったのかい!


「だ、大丈夫だよ。俺の母親って、意外と性に大らかだから……って、俺は何を言ってんだ」

「そそ、そうだよね。お母様も早く孫の顔が見たいよね」


 それはどういう意味だよ!?


「わ、私、頑張るね!」


 両手をギュッとして覚悟を決めた顔になる蜷川にながわさん。何を頑張るんだ。何を?


「あっ♡ そ、その、お手洗い」

「そうだった」


 俺はモジモジする蜷川にながわさんを連れ一階へと降りる。


 ササッ!


 おい! 今、一瞬だけシエルの影が横切ったぞ。あいつは何をしているんだ?


「きゃ! あ、あの……壮太君?」


 蜷川にながわさんの顔が引きっている。


「な、何だろう?」

「あのね、今、誰か居た気がするの」

「気のせいだよ」

「気のせいじゃないよ。何かが横切った気がして」


 マズい。もう心霊現象にするしかない。


蜷川にながわさん、落ち着いて聞いてくれ」

「な、なに?」

「この家には悪霊が住み着いているんだ」

「じょ、冗談やめてよぉ」


 蜷川さんが下腹部を抑えながらモジモジする。

 何だかオモラシしそうなのを我慢させているみたいでドキドキするぞ。


「冗談だよね?」

「実はトイレの悪霊がね」

「きゃああぁああぁぁ……」


 まるでオカルト映画のワンシーンみたいな蜷川にながわさんだ。両手を顔に当て変な声を上げている。


 この子、面白いな。

 冗談を信じちゃってるじゃないか。真面目というのか騙されやすいというのか。


「ごめん、冗談だから」

「も、もうっ! 壮太君のばかぁ」


 しまった。蜷川にながわさんが面白い子過ぎて悪乗りしちゃったぞ。

 早くトイレに連れて行かないと。


「ここだよ」


 俺はトイレの扉を指さす。

 しかし蜷川にながわさんは訴えかけるような目で俺を見つめるのだが。


「お、お願い。ここで待ってて」

「ええっ!」

「一人じゃ怖くて」

「気まずいって」

「お、おお、音、聞いちゃダメだからね」


 トイレに入った蜷川にながわさんが、扉から顔だけ出して念を押す。

 そんな対応に困ることを言われましても。


 バタンッ!


 何だコレ? 蜷川にながわさんって、意外と子供っぽいのかな? 心霊が怖いだなんて。

 って、そんな場合じゃねえ! シエルを何とかしないと。


 ちょうどその時、ダイニングからシエルが顔を出した。


「壮太……」

「シエル、部屋に居ろって言っただろ」

「壮太、蜷川にながわさんと何してたの?」

「何もしてないって」

「手でするとか聞こえた」


 アウトぉおおおおおおおお!


「しし、しねーから」

「手でするのが好きなんだ?」

「だからしねーって」

「壮太のバカ、スケベ、ヘンタイ」


 その時、トイレの中から俺を呼ぶ声が――


「壮太君、居る?」


 マズい。誤魔化さないと。


「ちゃんと居るよ」

「きゃ! 音聞いちゃだめぇ」


 どうしろってんだよ!

 それよりシエルを。


「シエル、部屋に戻ってろって」

蜷川にながわさんに名前で呼ばれてるんだ? てか、お姉ちゃんでしょ」

「今はそれどころじゃねえって。バレちゃうだろ」

「重要なの! 壮太を名前で呼んで良いのは私だけなの。あと、お姉ちゃんなの」


 困った。シエルが一歩も引かない。

 お姉ちゃん呼びは後にしてくれ。


「あ、安心しろよ。俺はシエルが大切だって言っただろ」


 恥ずかしい。これじゃ告白みたいじゃないか。

 ああぁ、俺、昨日の雨の中で……凄いこと言ったような……。でも、シエルを大切に想ってるのは本当なんだ。

 少しだけ昔の記憶を思い出した気がして。


 かぁああああああ――


「そ、そなんだ……ううっ♡」


 シエルの顔が赤い。

 たぶん俺もだ。これは照れる。


 ジャバァアアアアアア!

 ガチャ!


 水洗の音とドアの開く気配がした。


「と、とりあえず隠れろって」

「ちょ、ちょっと、壮太」


 俺はシエルを押してカウンター裏の流し台(シンク)に押し込む。


「壮太君? どうしたの、そんなところで」


 紙一重だった。シエルを押し込むのと、蜷川にながわさんが出てくるのが。

 俺はシエルの頭を押さえながら、顔だけ蜷川にながわさんの方を向いた。


「え、えっと、ちょっと夕食の準備とか……」

「凄いね、壮太君って♡ 何でもできちゃう」

「何でもはできないよ」

「でもまだ安静にしてた方が良いよ。病み上がりだから」

「そうだよね。ははっ」


 ガシッ! ガシッ!


 腹に鈍い痛みが走る。

 シエルが俺に腹パンしていた。


 ガシッ! ガシッ!


 おいこら、何をしているんだ? シエルめ。


 ふと下を向くと、俺の下半身にシエルの顔が……。


 ヤベッ!

 むっすぅうううう――


 シエルがジト目で俺をにらんでいる。

 それもそのはず。無理やりシエルを押し込んだカウンターは狭く、俺の体にシエルが抱きつくような形になっているのだから。

 これは緊急事態だぞ!


 ああぁ、俺の下半身にシエルが! わざとじゃないんだぁああ!


「壮太のエッチ……」


 小声でシエルがつぶやく。

 しかも叩いている腹パンチが、だんだん下がってくるのだが。

 おいヤメロ! それは反則だ!


「壮太君、ホントに大丈夫?」


 しかも蜷川にながわさんが近寄ってきた。もう万事休すだ。


 カウンターを挟んで俺と蜷川にながわさんが向かい合う。そして流し台(シンク)の下にはシエルだ。

 蜷川にながわさん側から見えていないとはいえ、こんな近くに三人が一緒などありえない。


「壮太君……」


 キラキラした目で俺を見つめる蜷川にながわさん。その顔は、何か夢見心地な感じで。


「わ、私ね。そ、壮太君のこと尊敬してるんだ」

「えっ?」


 それは突然だった。


「壮太君は凄いよ。だって、姫川さんが陰口を叩かれてたら、すぐにフォローしに行ったし。私が脅されてたら、自分が被害を受けるかもしれないのに助けてくれた。す、素敵な人だよ」


 蜷川にながわさんが止まらない。


「何の見返りもなく他人のために動ける人なんて、そうは居ないよね。でも壮太君は違う。損得じゃないんだよね。私……壮太君に憧れてるの」


 そ、そんな、俺を美化し過ぎだって。俺なんてエロいことばかり考えてる普通の男だぞ。

 尊敬とか憧れとかされても困っちゃうだろ。


「壮太君♡」

 ぴとっ!


 俺の手に蜷川にながわさんの手が重なる。


「えっ、そ、それは?」

「壮太君♡ あ、あのね、わ、私……」


 ギュゥウウウウッ!


 ああああぁ! シエル、俺を締め付けるんじゃない!

 上半身は蜷川にながわさんに掴まれて、下半身はシエルに抱きつかれてるんですけど!


 詰んだ。これ、詰んだ。俺はどうなっちゃうんだぁああ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

書籍情報
ブレイブ文庫 第1巻
ブレイブ文庫 第2巻
COMICノヴァ

-

Amazonリンク

i903249
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ