第120話 浴衣姉
「そうちゃん♡ どうどう? 似合ってるかな?」
夕食の時間になりダイニングの扉を開けると、そこに現れたのはノエル姉改め浴衣姉だ。
いつものダークブロンドの髪や煌めく瞳から溢れ出す洋風感と違い、今日は清楚な和風感が漂っている淑やかお姉が。
「な、なな、何だと……」
あまりの美しさに、俺は絶句してしまった。
きなり地に色鮮やかな朝顔が描かれた浴衣が、ノエル姉の体にぴったりフィットして滅茶苦茶色っぽい。
うっすら化粧をしているのも可愛さに磨きをかけている。
アップにした髪型が大人っぽく、うなじが見えているのもセクシーポイントだ。
「そうちゃん! 何か言ってよぉ。もうっ、そういうとこだよ」
俺が何も言わないものだから、ノエル姉がプリプリと口を尖らせ始めた。ちょっと面白い。
「ごめん、いつもダサジャージのお姉が、珍しく可愛い格好だから見惚れてたよ」
「もぉ♡ そうちゃんたら♡ って、いつもダサいとか言っちゃダメだよ。メッだよ」
人差し指を立て、お姉ちゃんみたいな顔でメッをしている。お姉ちゃんなんだけど。
「それでどうしたの? 急におめかししちゃって」
「そうちゃん、今日がお祭りなのを知らないの?」
ノエル姉に言われて気づいたけど、確かに今日はお祭りだったような。
「えへへぇ♡ それでね、前に約束したそうちゃんとのデートを、今日のお祭りにしようと思ったの♡」
グイッと俺の顔を覗き込むように上目遣いになるノエル姉。滅茶苦茶可愛い。超可愛い。
もうギュッと抱きしめてキスをしたいくらいに。
「い、良いね」
「もうっ、何で逃げるの?」
あまりの可愛さでビビった俺が一歩下がると、ノエル姉が一歩踏み込んできた。
こやつ、進撃の巨乳か!
「つ、ついGカップの圧力に」
「もぉ♡ 胸ばっか見ちゃダメだよ♡」
ノエル姉が両手で胸を隠す。
だからそのリアクションが余計にエッチなんだよ。
「もぉ、そうちゃんてば」
「ノエル、壮太君は照れているのよ」
そこに莉羅さんの支援が入り、ノエル姉のGパワーが更に高まった。
「そうなんだ? そうちゃんってば、照れてたんだ♡」
「待て待て、それ以上近づくとヤバいって」
ノエル姉が、手をニギニギしながら近づいて来る。
「そうちゃぁ~ん♡」
うぎゃぁああああ! 凄い魅力だ! これが俗にいう浴衣バフ効果なのか!?
ただでさえ魅力的なノエル姉が、レベルカンストみたいに戦闘力激増なのだが!
「わ、分かった、お祭りに行こう。だからそれ以上は……」
「やったぁー! そうちゃんとデートだ♡」
ぼよんっ!
結局ノエル姉が抱き付いてきて、柔らかな体に包まれてしまった。もう俺の胸がオーバーヒートしそうだ。
これ、完全に間違いを起こしそうな流れなのだが。
「ほらほら、早く行こうよ♡」
「わ、分かったから抱き付くな。Gカップが」
「だからGカップって言わないで。Gカップ禁止ぃ」
ガチャ!
デデーン!
俺とノエル姉がダイニングを出ようとしたその時、突然ドアが開いて浴衣女王が現れた。
「壮太、お姉! ちょっと待った!」
「な、なな、何だと……」
あまりの美しさに、またしても俺は絶句してしまった。
紺色地に大輪の牡丹が描かれた浴衣が、シエルの体にぴったりフィットして滅茶苦茶神々しい。
うっすら化粧をしているのも美しさに磨きをかけている。
いつもより高い位置で結んだポニーテールが新鮮で、動くたびに揺れる髪を目で追ってしまう。
「どう、壮太?」
「えっと……」
「むぅ、何か感想はないの?」
シエルの目が鋭くなり、益々女王感が増す。
だから怖いからその目はやめろって。
「そうちゃん、さっきも言ったでしょ。女の子が着飾ったら褒めるんだよ。メッだよ」
ノエル姉までご立腹だ。
そういえば前にも言われたな。照れ臭いんだよ。
「えっと、か、かわ、可愛いぞ」
「んふっ♡」
俺が褒めると、シエルの顔が緩んだ。
意外とチョロい。
って、今日はノエル姉とデートじゃなかったのか? 何でシエルまで行く気になってるんだ?
「あれっ、ちょっと待って!」
俺の疑問に答えるように、ノエル姉が何か気づいた。
「今日は私がそうちゃんとデートする番だよね? 何でシエルちゃんも行こうとしてるの?」
「何でって、さっき一緒に浴衣を着付けてもらったのに」
当然とばかりにシエルが胸を張る。スレンダーに見えるけど、実は着痩せするタイプなのか、突き出た胸のふくらみがヤバい。
くびれた腰から流れるような体のラインが美しすぎるぞ。
てか、莉羅さんに着付けてもらったのか。
「ええぇ~! シエルちゃんも、そうちゃんに浴衣姿を見てもらいたいのかと思ったんだよぉ」
「それは……見てもらいたいけど」
ノエル姉は、手をブンブン振って力説している。今日のデートは自分の番だと。
これ、どうなるんだ?
「もうもうっ! シエルちゃんはデートしたでしょ」
「お姉のものは私のもの。私のものはお姉のもの」
「それじゃ全部シエルちゃんのものだよぉ……って、あれっ? 合ってる?」
合っていた。
「だから私もお祭り行っても良いよね」
「う、うん、そうだよね。あれっ?」
いつも抜け目ないノエル姉がシエルに言いくるめられている。
やっぱりシエルには甘いんだよな。
「ノエル姉は、それで良いの?」
俺が確認すると、ノエル姉は渋々頷いた。
「うん、シエルちゃんもお祭り行きたいもんね。一人だけ置いてけぼりは可哀そうだよね」
お姉ちゃんの顔になるノエル姉だ。
やっぱりシエルには甘かった。ただ、デートが三人になり泣きそうだけど。
「ふえぇ~ん! 私のデートがぁ」
「ノエル姉には今度サービスするから」
「絶対だよ。絶対だからね」
ジッと俺を見つめたノエル姉が、腕に抱きついてきた。
反対側の腕にはシエルが寄り添う。
何だこれ、両手に花状態なのだが。
「おい、シエル。たまにはノエル姉に譲ってやれよ。俺が言うのもアレだけど……」
二股状態の俺が言える立場じゃないけどな。
「分かってる。お姉は大好きだから。でも壮太のことは譲れない」
シエルの目がマジだ。
これ、どちらかを選んだら完全に修羅場確定なのでは?
「ほら壮太、行くよ」
「もう今日は楽しむしかないよね♡ そうちゃん♡」
もう仲直りした姉妹に俺は両手を引かれる。
待て、この状態で同級生に会ったらヤバいだろ。
「ちょっと待って、壮太君!」
ドドドーン!
「えっ…………」
目の前にセクシー浴衣人妻が現れ、俺は今日三度目の絶句をした。
「どうかしら壮太君♡ 私も着替えてみたのよ♡」
滅茶苦茶エロい浴衣姿の莉羅さんが、体をくねらせ品を作る。
えっ、何でこのママ、娘に対抗意識を燃やしてるの?
「壮太くぅん♡ ここはリラちゃんも含め四人でお出かけはどうかしら?」
「お断りします。さすがに親と一緒は恥ずかしいので」
ガァァァァーン!
「およよよぉ……」
いつものように沈んだ莉羅さんだが、急に顔をパアッと明るくする。
「えっ? 壮太君……今、私を親って言ったわよね?」
「わりと前から認めてますよ」
莉羅さんは本当の親より親らしい。子供の頃から少し憧れのようなものがあったからな。
その莉羅さんだが、両手を広げ俺に迫ってくる。
「ママァって甘えてくれても良いのよぉ♡」
「それはちょっと」
「私も壮太君とデートしたいのよぉ♡」
「お土産買ってくるから留守番しててください」
結局、浴衣人妻は置いてけぼりになった。
さすがに人妻とイチャイチャしているのを誰かに見られたらマズい。
臨時でお小遣いも貰えたのでオッケーだ。
「じゃあ、行ってきます」
玄関に向かう俺に、莉羅さんが声をかける。
「行ってらっしゃい、壮太君。お祭り楽しんできてね。あと、娘をお願いね」
「はい、任せてください」
莉羅さんが俺の耳元に顔を寄せてきた。
「あとね、学生のうちは避妊するのよ。娘が本気みたいだから、もう止めたりしないわ。でもね、二人同時に妊娠だけはダメよ」
莉羅さんの話がドストレートだった。
「あ、安心してください。まだエッチしてませんから。俺はシエルもノエル姉も大切に想ってますから」
「そうよね。壮太君になら任せられるわ」
「じゃあ、行ってきます」
今度こそ出ようとした時に、後ろからとんでもない話が聞こえてきた。
「はぁ♡ 娘が壮太君と3○とか複雑だわ」
しないから! アブノーマルなのはしないから!