第118話 ずっと好きだから
ヤンデレ目の明日美さんが迫ってくる。凄まじい威圧感で。
俺は止めようと手を伸ばすのだが。
「お、落ち着こう。明日美さん」
「落ち着いてるよ。変な壮太君♡」
「お、おお、落ち着いてないのは俺だった!」
カタッ! カタカタッ!
ドアから音がする。もしかしてシエルとノエル姉が聞き耳を立てているのか?
マズい! このままでは修羅場に!
「あ、ああ、明日美さん!」
「もうっ♡ 壮太君ったら触りすぎだよ♡」
「えっ!?」
しまった! 止めようとした俺の手が明日美さんの……を!
「わ、わわわ、わざとじゃないんだ!」
「うふふっ♡ 触っても良いよ♡ 壮太君♡」
「良くないから!」
「えっ? もしかして、私のじゃ小さいから触りたくないのかな?」
「ごごご、ごめんなさーい!」
マズい! マズい! マズい! どんどんヤバい方向に! 何で俺は明日美さんの……をタッチしてるんだ!
明日美さんと一緒だと、何故かラッキースケベがオート発動する気がするぞ!?
どど、どうすれば!?
もう正直に話すしかない! たとえ怒った明日美さんに拷問されようと……。
「明日美さん、聞いてくれ!」
「な、なにかな?」
俺は明日美さんの細い肩を掴み、真っ直ぐに見つめた。
「そ、その、勘違いだったら恥ずかしいし、自意識過剰だったら悪いんだけど……って、俺は何を……。そ、その、つまり……。ごめん。俺は……明日美さんとは付き合えない」
「へっ…………」
言った。俺にしては珍しくストレートに伝えた。
これなら……。
明日美さんに何発か殴られるのも覚悟しないと……。
「ぐっ…………」
目をつむり歯を食いしばっているが、明日美さんのパンチは飛んでこない。
薄っすらと目を開けると……。
「ううっ……ぐすっ……」
「あ、明日美さん……」
明日美さんは泣いていた。大粒の涙を零しながら。
「ひ、ヒドいよ。壮太君。私、まだ告白もしてないのに……。うわぁあああぁん!」
「えっと、どど、どうしよう……」
「やだよ。ぐすっ、絶対やだ。これっきりだなんて絶対やだ」
俺の腕の中で震える明日美さんは、華奢で繊細で壊れてしまいそうだ。
「私……他の人じゃダメなの。壮太君じゃないと。だって、私が触れるのは壮太君だけなんだよ」
「明日美さん……」
まだ男性恐怖症が直ってないのか……。
「俺なんかより、もっと良い男がいるよ。俺はダメなオタク男子だし」
「いないよ! 壮太君より良い人なんていないよ!」
涙で濡れた明日美さんの目が、真っ直ぐに俺を見つめる。
「壮太君は凄いよ! だって私を助けてくれたんだよ。自分が被害を受けちゃうかもしれないのに。あれは計算とか打算じゃないんだよね。自然に動いちゃうんだ。あの時ね、私思ったの。この人は他の男子と違うって。この人なら、私の全てを捧げられるって」
重い……。明日美さんの感情が重すぎる。
好きになってくれたのは嬉しいけど、俺にはシエルとノエル姉が……。
ここはキッパリと断るのが、明日美さんのためだよな。
その明日美さんだが、涙は止まり今は恥ずかしそうに頬を染めている。
「それにね、壮太君となら、どんなどぎついSMでもOKなの♡」
それは勘弁してください!
「ううぅ……毎晩、壮太君を徹底的に調教するSMプレイを練習してたのに」
せめてノーマルなのにしてぇええええ!
「壮太君♡ お願い♡ わ、私とエッチして♡」
「えっ、えええっ! だだだ、ダメに決まってるだろ」
「エッチしてくれるまで帰らない」
どどどどど、どうすれば!
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないけど」
「じゃあ♡」
明日美さんが服を脱ぎ始めた。
「だ、ダメだって!」
「何で? 私じゃダメなんだ……」
「そうじゃなくて」
「私を振ったら一生恨んでやる」
「ええええぇ!」
「ご、ごめん。ごめんね。今の態度悪かったよね。嘘だよ。一生愛するの間違い」
明日美さんが情緒不安定に!
「うふふっ♡ ずっとずっと大好きだよ♡ 壮太君♡ きゃ、言っちゃった♡」
ここで告白だとぉおおおお!
「もし付き合ってくれないなら許さない。壮太君の結婚式で、友人代表としてスピーチしちゃうから。私と壮太君の愛のSMダイアリーを朗読しちゃうからね」
地獄すぎるぅうううう!
あ、明日美さん……。
前から薄々感じてたけど、この子って地雷っぽいよな。
見た目は清楚で可憐なのに、やっぱり色々とヤバい娘だよ。淫乱黒髪ボブとはよく言ったものだぜ。
でも、地雷なのに放っておけない。あえて地雷原に突き進みたい魅力がある。
明日美さんは魔性の女だよ。
でも…………。
「ごめん、それでも付き合えない。明日美さんが気の済むまでSM小説を朗読してくれ」
「それじゃ私が痛い子だよぉおお!」
痛い子の自覚はあったのか……。
「はぁ……どうしてあの時にOKしなかったんだろ……。せっかく壮太君が告白してくれたのに……」
あの時というのは、中学卒業の時か。俺が明日美さんに告白した……。
「あの時はしょうがないよ。まだ明日美さんの男性恐怖症が……」
「だよね。はぁ……失敗しちゃったな。あの時、私が告白を受け入れていたら、今頃は壮太君をどぎついプレイで躾けられたのに」
だから怖いんだって!
「私ね、勉強したんだよ。拘束具と貞操帯で壮太君を調教してね。私以外とエッチできないようにさせるの♡」
「あ、あの……お手やらわかに……」
明日美さんと付き合う人は大変そうな気がする。
「でもね、最近は男子とも普通に話せるようになったんだよ」
「それは良かった。男性恐怖症が改善されてるんだよ。これから少しずつ慣れるはずだよ」
「でも壮太君は私を振ったけどね」
グサッ!
「やっぱり一生許さない。呪ってやる」
「ひぃいいいいっ!」
明日美さんの目が怖い。冗談のようでいて本気っぽい。
「うそうそ♡ 呪ったりしないよ♡ 一生付きまとうかもしれないけど♡」
「それストー……」
「ストーカーじゃないよ♡ 片思いだよぉ♡」
「ははは……そ、そうとも言うかな?」
言わないかもしれないけど。
「諦めたら恋愛終了だよね! 勇気、元気、正気、だよね! 少年ダンプでもそう言ってたよね!」
友情、努力、勝利じゃね?
「それで、壮太君の好きな人って誰?」
「ギクッ!」
「やっぱり姫川さんかな? それとも姫川先輩?」
「そ、それは……」
明日美さん鋭いな。気づいていたのか。
「やっぱりそれで嬬恋さんが元気なかったんだよね。電話で問い詰めても誤魔化されちゃったんだ」
星奈……ごめん。
「でもね」
明日美さんが顔を上げた。上目遣いの艶っぽい顔で。
「私は諦めないよ。お願い♡ 愛人でも二号さんでも良いの♡ 壮太君と一緒にいたいの♡」
「そんなのダメだよ! あ、愛人だなんて。もっと自分を大切にしないと」
「してるよ♡ 壮太君と一緒なのが私の幸せなの♡」
あああぁ! やっぱり明日美さんがぁ!
カタッ! カタカタカタッ!
さっきからドアがカタカタ震えている。やっぱり二人が聞き耳を立てているのか?
「姫川さん、そこに居るんでしょ?」
ガタッ!
明日美さんがドアに向かって声をかけた。
まさか、気づいてたのか?
ガチャ!
ドサドサッ!
明日美さんの声でビックリしたからなのか、ドアが開きシエルとノエル姉が倒れ込んできた。
シエルの上にノエル姉のGカップが乗り、ぼよんぼよんと跳ねまくる。団子姉妹かな。
「ちょっと、お姉! 重い」
「おおお、重くないよ! 重いって言っちゃダメなんだよ! 禁句なんだよ!」
覗いていたのを注意したいのに、この姉妹ときたら緊張感の欠片もないぞ。
「こら、その辺にしとけよ。ノエル姉が重いのは分かったから」
「分かっちゃダメだよ! 重くない! 重くないからね!」
必死に重くないを主張するノエル姉。そんなに気にしなくても。
この団子状態の姉妹に、明日美さんも笑顔を見せている。
「あははっ、あはははっ! やっぱり姫川先輩は面白いですね」
「ちょっと明日美ちゃん。普段はこんなんじゃないからね! 幻滅しないでぇええぇ」
団子姉は一旦置いておき、明日美さんは話を戻す。
「壮太君の好きな人って姫川先輩なんですか?」
「えっ、あの……」
ノエル姉がモジモジする。シエルの上で。
「やっぱり……。最初は姫川さんかとも思ったけど」
「うくぅ♡」
シエルがデレた。ノエル姉のGカップに潰されながら。
待て、今ここでそれはヤバい。
「壮太くぅん♡ 何で二人が照れてるのかなぁ? もしかして二股しちゃったのかな?」
明日美さんのヤンデレ感が危険水域に入った。