第116話 姉妹でデレ攻防
ガチャ!
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ――
時刻は午前零時を回った頃、部屋のドアが開き誰かが入ってきた。
まさか、これは久しぶりの……。
そのまさかだ。これは姉妹の夜這いだな。
足音は俺の枕元で止まり、誰かが顔を覗き込んでいる気配がする。
どっちだ? シエルなのか? それともノエル姉?
「壮太ぁ♡」
シエルだったぁああああ!
もしかして、俺がノエル姉とイチャイチャしてたから、嫉妬して夜這いにきたのか?
「壮太、もう容赦しないよ。私の催眠とテクで堕としてみせる」
こいつは何を言ってるんだ?
告白までしたのに、まだ寝込みを襲ったり催眠しようとしてるのかよ。やっぱり変わった女だな。
ゴソゴソゴソ――
そのシエルだが、俺が寝たふりしているのも知らず、ベッドに入り抱きついてきたのだが。
「ふふっ♡ 壮太ぁ♡ しゅきしゅきぃ♡」
グハッ! ししし、シエル? いきなり何をやってるんだ!
そんな俺の動揺など知らないシエルは、ますます行為をエスカレートさせる。
手足を絡め、俺の耳に口を押し付けて。
「壮太、好き♡ 大好き♡ んふぅ♡ しゅきしゅきぃ♡」
シエルがぶっ壊れた!
何だその甘々ぶっ壊れボイスは!?
「壮太はシエルと結婚したくなる♡ 壮太はシエルと結婚したくなる♡ 壮太はシエルと結婚したくなる♡」
ぎゃあああああああああああ! 催眠がグレードアップされてる!
「よし、今夜は新婚さんプレイにしよう」
何が新婚さんプレイだ!? ぶっ飛び過ぎだろ!
俺の動揺を知らずに、シエルは新婚さんプレイを始めてしまう。ラブコメアニメでよくあるアレだ。
「あ、あなたぁ♡ ご飯にする? お風呂にする? それともぉ、わ・た・し♡ きゃあぁああぁ♡」
お、おい、もうそろそろ止めた方が良いのか? これ以上シエルの傷を増やす前に。
しかしシエルは止まらない。やはり深夜になると暴走する女なのか?
「そ、そうだ。やっぱり三択はこうじゃないよね。どの選択肢でもエッチするように仕向けるとか? きゃっ♡」
は? 何のことだ?
「よしっ! あなたぁ♡ 同級生妻にする? 義姉嫁にする? それともぉ、シ・エ・ル♡」
「それ全部シエルだろ!」
しまった。シエルがおもしれー女すぎて、つい声ありでツッコんでしまった。
俺が眠っていると思っていたシエルが、恥ずかしさで悶えているぞ。
「うくぅ♡ そ、壮太に騙された。寝たふりして私を嵌めるとか最悪」
「お前が勝手にやったんだろ。『シ・エ・ル♡』って」
「うくぅううぅ♡」
両手で顔を押さえたシエルが、体をモジモジさせて恥ずかしがる。
さっきから柔らかな体がムギュムギュ当たってヤバいのだが。やめろ、それ以上は。
「たく、相変わらずシエルは面白いな。新婚さんプレイ……凄かったぜ」
「もうやめてぇ~!」
「特に『同級生妻にする?』とか」
「わぁああああぁああっ!」
遂にシエルがブチギレた。
ちょっとからかい過ぎたようだ。
「もうっ! 壮太のバカっ! もう知らない!」
布団を飛び出たシエルが、顔を手で押さえて逃げ出した。
俺はシエルの背中に声をかけるのだが。
「おい、もう催眠はしないんじゃなかったのかよ?」
俺の問いに、シエルは振り向きキョトンとした顔をする。
「ん? するに決まってるでしょ。壮太が私と結婚するまで」
「結婚しないと催眠やめないのかよ!」
「当然」
ええええ……。当然と言われましても。
もしかして、俺がシエルを選ばないと、ずっと甘々攻撃で寝かせてもらえないのか? こんなのエッチ過ぎて耐えられねえぞ。
「シエル、さっきも言ったけどな、俺たちは義理の姉弟だし一つ屋根の下に住んでるから、やはり節度ある付き合いをだな……」
お決まりの文句を言ってみたが、シエルはジト目で俺を睨むばかりだ。
「お姉とはイチャイチャしてるのに」
「ぐっ」
痛いところを突かれた。確かにノエル姉とはイチャイチャしている。
「あ、あれは……ノエル姉マジックと言いますか、ついプロレスごっこしたくなると言いますか……」
「お姉ばかりズルい。私にもプロレスごっこプリーズ」
「プリーズとか言われてもな」
試しにシエルの頭にチョップを入れてみようとする。
で、できない……。面と向かってやろうとすると、シエルの高貴な女王オーラや鋭い雰囲気の美人顔で躊躇してしまう。
ノエル姉や莉羅さんならポコポコ叩けるのに。
「くっ、クレオパトラは、その美貌でカエサルとアントニウスを虜にし、楊貴妃は玄宗皇帝が寵愛し過ぎて傾国の美女と呼ばれ、ヘレネは美貌で戦争を引き起こしたという……」
「は? 何のこと?」
突拍子もない俺の話で、シエルがキョトンとする。
「つまりだな、シエルは傾国の美女に匹敵する――」
「ちょ、ば、バカなの? ふざけてる?」
「ふざけてないぞ。シエルはクレオパトラ、楊貴妃、ヘレネと並び世界四大美女に――」
「も、もうっ♡ ばかばかぁ♡ そんなこと言っても誤魔化されないから♡」
トタトタトタ、バタンッ!
恥ずかしさが限界に達したのか、シエルは逃げ出してしまった。やっぱりオコチャマだぜ。
「って、待てよ。俺も超恥ずかしいことを言ったような? くっ、シエルが超美人なのは周知の事実だと思ってたけど、本人に自覚は無いのか?」
恥ずかしくてシエルと顔を合わせづらい気もするが、朝になれば忘れているのを願って寝ることにした。
「ふぅ……シエルは俺の嫁…………」
独占欲丸出しの俺は、問題発言しながら眠りの世界に落ちていった。
◆ ◇ ◆
「んっ……朝か……」
天国のように心地いい匂いと感触で目を覚ました俺は、体の上に乗っている抱き枕を引き寄せる。
ぎゅっ!
「ふぁあぁ♡ そうちゃぁん♡」
「って、抱き枕じゃねえ!」
俺が抱いていたのはノエル姉だった。
また寂しがり屋お姉の夜這いだったか。
「こ、こら、スケベ姉、朝だぞ。起きろ」
「んんっ……そうちゃん♡ もっとぉ♡」
ノエル姉の口から色っぽい寝言が漏れる。
「こら、何の夢を見てるんだ? エッチかよ」
「あふぅん♡ エッチじゃないもん」
「起きろ、スケベ姉」
ポコポコポコ!
ノエル姉の頭にチョップを入れてやった。お仕置きされたそうな顔しやがって。
「やぁん♡ そ、そうちゃんダメぇ」
「起きたか? ノエル姉」
「も、もうっ、そうちゃん。女の子の頭を叩いちゃダメなんだよ。メッだよ」
さっきまで甘えん坊だったのに、起きたら年上ぶるノエル姉だ。
「メッなのはノエル姉だろ。また夜這いして」
「よ、夜這いはしょうがないんだよ♡ だって、夜中はシエルちゃんとイチャイチャしてたでしょ」
「聞かれてたのかぁ……」
三大美女だか四大美女の話をした記憶があるが、つい声も大きくなっていたのだろう。
「シエルちゃんばかりずるいよぉ♡」
ノエル姉がシエルと同じことを言う。
お互いに相手のイチャイチャで嫉妬しているようだ。
どうしたものか。
これ、どんどんエスカレートしそうな気がするぞ。
「ねえ、夜中もシエルちゃんとキスしたの?」
俺の上に乗ったノエル姉が、グイッと顔を寄せる。柔らかなのがムギュッと当たって全く動けない。
「し、してないよ……」
「そうなの?」
ノエル姉の顔が、ホッとしたような嫉妬のようなもの欲しそうな感じになる。
「そうちゃん♡ 私もキスしたいな♡」
「えっ、あ、あの、ノエル姉?」
「だって、結局お風呂でも部屋でもキスしてくれなかったでしょ」
そうだった。お風呂ではシエルの乱入で、部屋では恥ずかしくて俺が止めたんだった。
「ねえ、キス……お願い♡」
ノエル姉の顔が迫る。S級美少女でありながら、どことなく愛嬌がある顔が。




