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第103話 ずっと忘れない約束

 目をパチクリさせていたかと思えば、今度はマジマジと俺を見つめている莉羅りらさん。俺の一言が、よほど衝撃的だったのだろうか。


「そ、壮太君。本当に記憶を……」


 莉羅りらさんが心配そうな顔になった。


「ぜ、全部……思い出したの?」

「はい。たぶん全部思い出しました」

「そう……なのね」


 莉羅さんは、優しくハグをしてくれた。いつものエッチなハグではない。安心するハグだ。


莉羅りらさん、俺……」

「ありがとう。本当にありがとう、壮太君。娘を救ってくれて」


 莉羅りらさんの体からは、娘に対する愛情と、俺への感謝が伝わってくる。


「壮太君は、娘の命の恩人よ。だから、今度は私が壮太君のために生きようと思ったの」

莉羅りらさん……」


 俺のために……。だから莉羅りらさんは、こんなに優しかったのか。


「壮太君、大丈夫? 辛くない?」

「えっ、だ、大丈夫ですよ」


 突然聞かれたので慌ててしまった。

 でも大丈夫だ。俺は省エネモードだから。


「壮太君」


 でも、莉羅りらさんの瞳は俺を捕らえて離さない。本音を言えと迫るように。


「壮太君、辛い時は辛いって言えば良いのよ。悲しい時は泣いたって良いのよ。壮太君は、小さい時からずっと我慢して生きてきたのよね。だって、命の恩人の壮太君を、私たちは置き去りにして……。それに、ご両親の離婚だって……」


 莉羅りらさんの言葉が、俺の中に染み込んでくる。

 そうか、俺は悲しかったのか。寂しかったのか。

 自分の寂しさを誤魔化そうとして。だから省エネモードって言いながら忘れようとしたんだ。

 大切な気持ちを…………。


「莉羅さん、俺は……」

「壮太君」


 ああ、誰かに抱きしめられているだけで温かな気持ちになるな。前に莉羅りらさんが言ってたのはこれか。


 癒されると同時に、莉羅りらさんや姉妹のことが心配になる。きっと苦労をしてきたのだと。


莉羅りらさんも大変だったんですよね。俺で良かったら話を聞きますよ」

「もうっ、壮太君ったら♡ リラちゃんを狙ってる?」

「狙ってません」


 いつもの莉羅りらさんに戻った。待てよ、実は莉羅りらさんって人一倍気を遣っていて、冗談で場を和ませようとしてるのかも。


 ぎゅっ!


 いつの間にか、俺の腕に力が入っていたようだ。莉羅りらさんの腰を強く抱きしめていた。


「あっ♡ ダメよ♡ 壮太君♡ それ以上されるとぉ、歯止めが利かなくなりそうなのぉ♡」

「ええええ……」


 やっぱり莉羅りらさんは莉羅りらさんだった。


「壮太君、この際だから話しておくわね」


 蕩け顔を無理やり引き締めた莉羅りらさんが、襟を正して向き直る。


「実は私、しげるさんと再婚してないのよ」

「は?」


 それは衝撃の告白だった。今まで義母だと思っていた人は、義母ではなかったのだから。


「真実を話すから聞いてちょうだい――」


 莉羅りらさんの話はこうだ。

 駅前の喫茶店で親父と偶然再会し、恋に落ちたというのは作り話だった。

 最初から俺に恩返しと罪滅ぼしがしたかったから帰ってきたのだと。


 離婚して藤倉市に戻ってきた莉羅りらさんは、すぐ親父に連絡をしたそうだ。

 ちょうど親父がタイに転勤になる話を聞いた莉羅りらさんは、自分が家の手伝いと俺の面倒を見ると言い出したとか。


 こうして、再婚したというていで安曇家に入った莉羅りらさんは、俺と姫川姉妹を再会させたり、仲良くさせたり。たまに自分がモーションを掛けたり……って、それは問題だぞ。


 つまり家事をしながら俺を陰ながらサポートしていたという訳か。


「それでね……」


 莉羅りらさんの話には続きがあった。


「これはシエルやノエルに頼まれたことなのよ。壮太君と別れてすぐの頃から」

「えっ? それって」

「特にシエルから、壮太君と家族になって欲しいって」


 それ、人妻サルベージ作戦初号機じゃないか!

 シエル、ずっと俺の作戦を遂行してたのかよ!

 あんな……子供の考えた……いい加減な作戦を……。


「ははっ、はははっ……。そうなんだ。シエル、俺との約束を……ずっと……」


 何だよこれ。健気すぎるだろ。小さい頃の約束を、シエルはずっと覚えてたのかよ。


「シエル……自分も辛かったはずなのに、ずっと俺との約束を……」

「壮太君……」


 莉羅りらさんの体が心地いい。子供の頃に得られなかった安心感のような。

 今日くらいリラちゃんを『ママァ』と呼んでも良いかもしれないな。


「壮太君、もう大丈夫そう?」

「はい、ママァ」

「えっ?」

「あっ、ヤベッ」


 本当に口に出してしまった。

 ママと呼ばれて、莉羅りらさんの顔が喜びに満ち満ちている。


「まあっ♡ まあまあまあまあ♡ ついに私をママと認めてくれたのね♡ そうよ、私がママァよ♡ ついでに彼女にしてくれても良いのよぉ♡」

「お断りします」


 ガァアアアアーン!


「およよよぉ……」


 また莉羅りらさんが沈んでしまった。

 俺も優しくしたいけど、この色っぽさとパイ圧で来られると引いてしまう。受け入れたら間違いを起こしそうだから。


「と、ところで、このことは娘に話したのかしら?」


 すぐに復活した莉羅りらさんが小声になった。


「まだ……どう切り出したら良いのか」

「大丈夫よぉ。きっと娘たちも喜んでくれるはずよ」

「ですよね」


 それは分かっているのだが、別の問題を引き起こしそうな気がして……。


「俺……結婚の約束をしてるみたいです」

「ええっ!」

「しかも二人と」

「ええええっ!」


 莉羅りらさんは目を丸くする。


 我ながらアホだと思う。今は女子に奥手な俺だが、小さい頃は軽々しく結婚に同意して。

 まあ、子供ってのはそういうものかもしれないけどな。というか、子供の頃の約束って有効なのか?


「もう、ダメじゃない。壮太君ったら。二人同時はダメよって言ったでしょ」


 困惑の表情になる莉羅りらさん。大事な娘を姉妹丼なんかされたら卒倒しそうだ。

 しかし途中から、あごに手を当て考え込む。


「で、でも、娘が幸せなら良いのかしら?」

「は?」

「そうよね。本人が望むなら3(ピー)でも」


 おいおいおいおい! 莉羅りらさん?


「はっ、姉妹同時がOKなら、もしかしてリラちゃんもOKとか?」

「おいっ!」

「母娘丼で4(ピー)もできちゃう?」

「やりません!」


 ぽこっ!

 つい莉羅りらさんの頭にチョップを入れてしまった。


「いったぁ~い!」

「このドスケベ人妻め」

「ちょっと、リラちゃんはママなのよ」


 ぽこっ! ぽこっ! ぽこっ!


「親父と関係してないなら問題無いですよね。これからはビシバシ躾けて行きますから覚悟してください」

「ひぃ~ん♡」


 俺にチョップされて莉羅りらさんが嬉しそうだ。

 ちょっとイケナイ気持ちになってしまう。

 って、ちょっと待て!

 親父と再婚してないならフリーなんだよな? それって俺が手を出してもOKなのか?

 いやいやいやいや、ダメに決まってるだろ!


「まったく、困った人だな。で、結局再婚はどうなるんだろ?」

「壮太君が望むのなら、このままでも籍を入れても良いわよ」


 家族に成れたのは嬉しいけど……。


「リラちゃんを親父に取られるのは何か嫌だな」

「まあまあまあまあ♡♡♡」

「冗談ですよ」


 正直、莉羅りらさんが親父と夫婦しているのを想像すると何か嫌だ。ずっと俺だけのママでいて欲しい。


「壮太君♡ リラちゃん、いっとく?」

「行きません」

「もうっ♡ 壮太君さえ良ければ、リラちゃんはいつでもOKだからね♡」

「ちょっと! こんなの誰かに見られたら――」


 ぐぬぬぬぬぬぬ!

 ぐぬぬぬぬぬぬ!


 莉羅りらさんとじゃれ合っている途中で気付いた。リビングの窓からド迫力の金髪美人姉妹が覗いていることに。


「壮太ぁああ! 息の根止めるよ!」

「そうちゃん! 息の根止めるわよ!」


 姉妹でお仕置きシンクロした。

 ドSな女王顔のシエルと、Gカップを揺らしたノエルねえが俺に迫る。若干ご褒美っぽいけど。


「ひぃいいっ! 話せば分かる!」

「「問答無用!」」


 嫉妬率200%の姉妹に挟まれる俺。まさか嫉妬相手が姉妹の母親になるなんてな。


「壮太! 何ヘラヘラしてるの! お仕置きするから。そ、そうだ、深夜の催眠を……ごにょごにょ」


 シエル、まさか催眠を強化する気じゃ? 毎晩のように耳元で甘々ボイスを聞かされる身にもなってくれ。


「そうちゃん! 昨日からお母さんと仲良すぎるよね? わ、私とも仲良くしてもらうからね。そ、添い寝とかで♡」


 ノエルねえは何も隠していない。堂々と添い寝する気だぞ。


「壮太ぁああ! こっち来なさい! お仕置きするから」

「そうちゃん! メッだよ。私もお仕置きだよ。膝枕とか」

「ひいいいいっ! お助けぇ! って、ノエルねえのはご褒美だよね?」


 姉妹二人に密着されながら部屋に連行されてしまう。

 そんな俺を、莉羅りらさんは笑顔で見送っている。


「あらあら♡ 壮太君って、結婚したら尻に敷かれそうよね」


 笑い話じゃねー! この超可愛い姉妹の尻に敷かれるとか、俺の理性がもたねえから。

 物理的に敷かれそうな気もするけどな。



 ついに記憶が戻り、姉妹との関係にも変化の兆し?

 どうなっちゃうのか?

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