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第101話 共犯者

 そうだ。あの時、俺は車に轢かれて……。

 全部思い出したよ。


 それは姫川姉妹が引っ越す前日のこと――――



『やっぱりヤダよぉ。そうちゃんと離れたくないよぉ』


 目に涙を溜めたシエルが肩を落としている。

 いつもの公園。いつものブランコに座り。いつものように小さな体をすぼめて。


『結婚してくれるのって高校生でしょ。そんなに待てないよぉ』


 シエルは結婚を口にする。

 ん? 結婚? 考えておくって話が飛躍してないか?


『俺、結婚するって言ったっけ?』

『むぅううううっ!』


 冷静に聞き返した俺に、ふくれっ面になったシエルは拳をブンブン振る。


『もうっ! もうもうもうっ! そうちゃんのイジワルぅ。やっぱり、おねえと結婚する気なんだ』


 ノエルねえと結婚した未来を考えると、子供ながらに体が熱くなる。俺にとって憧れのお姉ちゃんだったから。

 まさかあのお姉ちゃんが、汚部屋(ねえ)になるとは思わなかったがな。


『むぅううっ!』


 まだシエルはプリプリしていた。

 でも、辛いのは俺だけだと思っていたけど、シエルやノエルねえも大変だったんだよな。


『それより、あのオジサン……お父さんと一緒で大丈夫なのか?』

『ううぅ……わかんない』

『まったく、大人は勝手だよな』


 俺の中では、大人に対する怒りが渦巻いていたんだ。


『大人なんか嫌いだ。好きで結婚したのに、喧嘩ばかりだったり、機嫌が悪くてイライラしたり。ちくしょう、いつだって俺たち子供が迷惑するんだ……』

『そうちゃん……』


 シエルはすがる様な目で、俺を見つめている。


『断罪天使は弱い者をイジメたりしないのに。でも大人は勝手だよな。子供には勉強しろとか言うくせに、自分たちは文句ばっかで』

『うん、だよね』

『俺の母さんもシエルのオジサンも要らないよ』


 俺の中に微かに浮かぶ母親像がある。

 それは優しく温かい手をした人。


 ――――ふふっ、壮太君。もし壮太君に何かあったら、私が家族になってあげるわ――――


 あの人の言葉が脳裏に流れた。


『そうだ、シエル!』


 俺はシエルの肩を掴む。


『俺の母さんとシエルのオジサンが両方離婚すれば良いんだよ。そんで、莉羅りらオバサンが俺の母さんになるんだ。そうすれば、俺とシエルはずっと一緒だぞ』

『ずっと一緒……ずっと一緒だぁ』


 最初は半信半疑だったシエルの顔が、パッと花が咲くように明るくなった。


『そうすれば、ずっとずっと、そうちゃんと一緒なの?』

『ああ、そうだぞ。今から俺たちは共犯者だぜ。お互いの親を離婚させる計画のな』

『そうちゃんすごぉーい!』

『人妻サルベージ作戦初号機だ!』


 なぜ初号機なのか分からないが、たぶんテレビアニメ版の超創生歴ドルバンゲインが始まった頃なのかもしれない。


『そうちゃん、どうやって親をリコンさせるの?』

『それなら簡単だぜ。虐待する親は、ジソーに通報するとだな』

『ジソーって何?』

『えっと、その、何だっけ? あっ、そうそう、子供を救出する国家の特務機関だぞ』

『すごぉおおぉい!』


 やっぱり超創生歴ドルバンゲインに影響されているようだ。


『そうちゃんと家族になれば、ずーっと一緒だね』


 シエルは真っ直ぐな目で俺を見る。その瞳は俺を信じ切っていて。


 実際にそんな計画が成功するはずないのにな。

 でも、あの頃の俺は信じていたんだ。俺とシエルとノエルねえが幸せになる未来を。

 ついでに不幸体質っぽい莉羅りらさんも一緒に。


 俺とシエルは共犯だ。お互いの邪魔な親を排除する作戦の。

 まあ、何も知らない浅はかな子供の戯言かもしれないがな。


『むぅううっ!』


 目を輝かせていたシエルだが、途中からまた口を尖らせてしまう。


『どうしたシエル?』

『それで、私とおねえと、どっちと結婚するの?』

『またそれかよ。高校生になってからって言ったろ』

『じゃ、じゃあね……』


 シエルは両手の指をツンツン合わせながらモジモジしだす。


『わ、私ね、そうちゃんと付き合うまで誰とも付き合わないから』

『えっ?』

『お、女の子の大事なもの……ずっと守っておくからね。うくぅ♡』

『何だそれ? 食えるのか?』


 俺(子供)のバカぁああ! 全然分かってないだろ。

 それ、処〇でいるってことだよな。美少女ゲームで女心を学んだ今の俺なら分かるぜ。


『だから、そうちゃんも彼女つくっちゃダメだからね』

『えっ、何で?』

『いいから! はい、約束!』


 シエルが俺に向け小指を突き付けた。

 俺も渋々小指を出すのだが。


『指切りげんまん嘘ついたら息の根とぉーめる!』

『止めるんじゃねえ!』


 子供なのに妙に生々しい指切りをする俺たち。確かに俺が浮気したら息の根止められそうだ。


『あははっ! 絶対だよ、そうちゃん!』


 助走を付けたブランコを飛び降りたシエルは、道路に向かって走り出した。はしゃぐように。


『おい、シエル、危ないぞ』


 俺はシエルの後を追いかける。


 ドクンッ!

 そうだ、ここだ。ここで俺たちの運命が変わったんだ。


 プププゥウウウウ――――――――!!

 キィイイイイイイィィーッ!


 鳴り響くクラクションとブレーキの音。

 スローモーションのように迫りくる車のバンパー。

 俺は全力で地面を蹴った。


『シエルぅううううううううううっ!』


 ドンッ!

 ガシャァアアアアアアアアアーン!


 間一髪でシエルを突き飛ばした俺は、頭に衝撃を受け意識が遠くなる。

 薄れゆく意識の中で辺りが騒然となり、周囲の人が慌てる様子だけが聞こえていた。


『子供が轢かれたぞ!』

『誰か救急車を!』


 俺は轢かれたのか。でも……シエルを守れたんだ。

 そうだ、大切な人を守れたんだ。


 ――――――――――――

 ――――――――

 ――――



 白い天井と壁が見える。

 ここは病院か。


『幸いにも脳に異常はありませんでした。多少の記憶の混濁こんだくがありますが、時間が経てば回復するかと思われます』


 説明をする医師の話を聞いた両親が、何度もお礼を言っている。母さんは何かゴチャゴチャ言っているけど。

 横を向くと、何度も頭を下げる莉羅りらさんが見えた。自分の娘を助けるために俺が怪我をして、責任を感じているのだろう。


『そうちゃん……』


 ノエルねえに手を引かれたシエルが俺を見る。


『えっ、誰?』


 俺の口から信じられない言葉が出た。

 その言葉を聞いたシエルの顔が、涙でクシャクシャに歪んでゆく。


『そうちゃん……そうちゃん、そうちゃんそうちゃん! やだよぉ! そうちゃんが私を忘れちゃったぁああ!』


 大泣きするシエルを、父親のオジサンが連れ出そうとしている。


『ほら、もう行こう詩愛瑠しえる。引っ越し先の住居も仕事も決まってるんだ。壮太君とはまた会えるだろ』


 シエルを連れて行くな! くそジジイ!

 俺は……シエルを悲しませたくなかったのに。

 それなのに、子供の俺はシエルを忘れてしまっただなんて。


 行かないでくれ! シエル! ノエルねえ! 莉羅りらさん! 俺を一人にしないでくれ!

 俺は………………。




 それからの俺は、まるで世界が違って見えたようだった。それまで鮮やかだった景色が、まるで灰色になったような。


 中学に入ってすぐ、母さんは俺を捨て出て行った。

 裏切られた失望もあったが、やっと解放されたという気持ちの方が多かったな。


 もう燃え上がるような情熱も無い。全てが面倒くさい。人付き合いも何もかも。


 一度だけ仲の良かった女子に告白してみた。勇気を出して。

 でも振られた。

 俺には恋愛は向いてないんだ。女心を読み取るのは難しいからな。


 そうだ、省エネモードで生きれば良いんだ。それが一番だよ。




「壮太君! 壮太君! 壮太君! 目を覚まして! 壮太君! 壮太君!」


 あれっ? 誰かの声が聞こえる。

 この声は……俺の官能を揺さぶる悪い人妻……。


莉羅りらさん?」


 目を開けると、血相を変えた莉羅りらさんが、鬼気迫る感じに覆いかぶさっているところだった。


 あれっ? 俺はがけから落ちて……。そうだ、頭を打ったんだよな。ここは病院か。

 ベッドの周りには、皆が勢揃いして心配そうな顔をしている。

 莉羅りらさんは……駆け付けたのか?


「壮太君! 大丈夫なの!?」


 莉羅りらさんは、心配そうな顔で俺を見つめる。


「俺、思い出しました。リラちゃんが俺の彼女だったんですね」

「「「ええええええええええっ!」」」


 何気なく言った俺の言葉で、その場に居る全員がパニックになった。

 冗談のつもりだったのに。



 冗談言ってる場合じゃねー!

 記憶を取り戻した壮太の決断は?

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姉喰い勇者と貞操逆転帝国のお姉ちゃん!

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ブレイブ文庫 第1巻
ブレイブ文庫 第2巻
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