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舞踏会の翌日。
いつも通りに出勤して、ちょうど姫様の紅茶を注いでいる時だった。
「そういえばビビ、グレイ公爵から婚約の申し込みが来てるわよ。」
優雅にお茶を飲みながら、まるで世間話をするかのように、そう伝えられた。
この5年間で身についたマナーのおかげで、取り乱さずにポットをそっと戻す。
「…グレイ公爵様、ですか。」
「そうよ。今朝早くに私のところに届いたの。」
貴女達面識あったのね、なんてコロコロと笑う姫様に冷や汗が噴き出る。
「面識なんてありません。昨日の舞踏会の時に初めて、ほんの少しお話ししたくらいです。」
「まあ、それじゃあ彼の一目惚れかしら?」
ロマンチックね、なんて姫様は楽しそうに笑っている。
「…何かの間違いだと思います。」
グレイ公爵といば、昨日薬草園で会った、あの“ツギハギ騎士”様のことだ。
没落しかけてる伯爵家の娘と、元王女様の母を持つ由緒正しい公爵様では、あまりに身分が違いすぎる。
第一、一目惚れされるような出来事もなかったし、そんなに目を引く容姿でもないし。
どうしよう、すごく嫌な予感がする。
冷や汗が止まらない。
「まあ、何にせよ。一度会ってお話ししなさいな。」
いいお話ではあるでしょう、と小さな唇でこくりと紅茶を飲みながら姫様が言った。
会って話したところで、もしこれが間違いでなければ、格下の私から断ることはできない。
相手は準王族だし、実家の両親は文句なんて言わないだろうけど。
相手なんて選び放題の公爵様が私のような令嬢を選ぶ、という事実に、嫌な予感が止まらない。
やばい性癖持ちとか??昨日話した感じだと普通そうだったけど…それか男の人しか愛せないから嫁なんて誰でも良いとか???
茶器を片付けながらぐるぐる考えていると、背中越しに姫様がくすりと笑うのが聞こえた。
「ビビの現実的なところは長所だと思うけれど、もう少し良い方に捉えてもいいんじゃないかしら。貴女は魅力的よ。グレイ公爵は私の従兄弟だし、癖はあるけれどそんなに悪人じゃないわ。」
コロコロと鈴が鳴るように姫様が笑う。
病弱な身体をものともせずに長年公務をこなし、隣国の王子との政略結婚も笑顔ひとつでサラッと受け入れてしまうような、そんな豪胆な姫様には敵わないなと感じてそっと息を吐いた。




