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クック伯爵領は本当に小さな小さな領地だった。

高い山が一つあってあとは畑と牧場があるだけ。


この領地内の山の反対側の麓は隣国と接していた。しかしこの険しい山を隣国の軍が降りてくることは一度もなく、戦争の度に隣にある大領地のフォックス領の平地を進軍して来ていた。


6年前、隣国が戦争を仕掛けてきた時も、いつも通りフォックス領の平地を進軍してくるだろうと思っていたけど、小隊がクック領の山を降りて来たのだ。


父はすぐに自警団を向かわせて対応したけど、犯罪なんてろくに起きない小さな領地の自警団では太刀打ちできず、隣のフォックス領からの援軍や王都からの支援軍が着くまでに、領地では多大な犠牲が出た。


その時に屋敷を解放し救護所として、私も母も怪我人の治療あたっていた。


「王族や、王都の騎士を恨んでいますか?」


逆光になっていて彼の表情は見えなかったけれど、静かな声だった。


「まさか、そんなわけありません。誰も予想していなかったことです。」


私はすこし微笑みながら返事をする。

6年前の戦争は、恐ろしかったし悲しかった。

今も領地の立て直しに苦労してはいるけど、誰のことも恨んでないのは本心だった。


ちょうど手当が終わり、「それでは失礼します。」と彼に挨拶をして会場に戻る。



この時は、身分の違う彼とこんなに近くで話すことはもうないだろう思っていた。



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