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3


王宮の薬草園は、許可のある者以外は立ち入り禁止だ。


だから人で溢れている舞踏会の夜でも、ここだけは静かに過ごすことができる。



いつも通り帰りの時間まで、薬草園の隅に置いてあるベンチに腰掛けて休んでいた。


静かな空間だとさっきの光景が思い浮かんで、またポロポロと涙が出る。


生まれて初めての恋で、初めての失恋だった。


「思ってたより、失恋ってきついのね。」


1人で呟くと、後ろからガサっと物音がした。


びっくりして振り返ると、薬草をかき分けるようにして、1人の男が出てきた。



「誰?!」


急いで声をかけながら、距離を取る。

暗殺者の類いなら早く大声を出して知らせないと。


「あー… 失礼。驚かせるつもりはなかったんです。」


気まずそうな表情で、出てきた男を見て私はさらに驚いた。



(この人、戦争の英雄って言われてる騎士だわ。たしか、“ツギハギ騎士”って皆が言ってたような…)



薄い月明かりの下でもわかる、整った顔に鍛えられた長身の体躯。


彼のアメジストのような美しい瞳がキラキラと輝いていた。


なんでこんなところに、と思ったところで、右腕からポタポタと血が滴っているのが見えた。


「怪我を、されたのですか?」


とりあえず不審者ではなさそうで、ゆっくりと近づけば、彼は少し驚いたような表情を浮かべた。


「いえ、今日の傷ではありません。ダンスをしていたら包帯が緩んで傷が開いてしまったみたいでして…大事になるのも面倒なので、止血用の薬草を詰みに来たんです。」


腕を隠すように庇いながら、彼が薄らと笑う。


「そうでしたか。でしたら私がお手伝い致します。あ、私は怪しい者ではありません。第2王女付き侍女、ヴィヴィアンと申します。」


「ああ、はい。知っていますよ。」


挨拶をすればそう返されて、少し首を傾げる。

大きな式典などで彼を見かけることはあったが、ちゃんと挨拶したのは初めてだったはず。


とにかく傷の手当てが先だと思い、彼をベンチに座らせて傷の様子を見る。


「傷や血なんて、ご令嬢は見慣れていないのではないですか?」


静かな声で尋ねられた。

彼はきっと私がただの令嬢のように、繊細で血なんて見たら倒れると思っているんだろう。


「平気です。見慣れているので。私の実家は辺境のクック伯爵領ですから。」



テキパキと薬を塗って包帯を巻き直す。


「ああ、辺境の…クック伯爵領ですか。」


彼のように、戦争で実際に前線で戦っていた人ならなおさら、辺境にある領地が戦争中にどのような状態であったかわかっているだろう。


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