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唐突に腕を引かれて、起こされる。
すぐに私の上から公爵が降りて、距離を取るように立ち上がった。
ベッドの上で座ったままの私はぽかんとしてしまう。
さっきまであんなに冷たい表情で怒っていたのに、急に何なの?
怪訝な表情で見つめれば、公爵は何故か気まずそうな顔をしていた。
「…さっきのは、その、冗談だ。君があまりに頑固だから、少し解らせようとしただけで。ただの駒だとは思ってないよ。」
「…そうですか。」
たしかに、私も意地を張っていた部分はあると自覚しているため、素直に受け入れた。
初めて見る彼の気まずそうな表情に緊張が解けて、ほっとする。
「何故そんなに彼女たちを庇うんだ?君の立場なら、護衛か私に一言助けを求めれば簡単に嫌がらせなんて無くなるだろう。」
「貴方の命を狙っている敵を炙り出す為に婚約したんですよ?嫌がらせにいちいち護衛や貴方が対応して私を守っていたら、いつになっても黒幕なんて突き止められません。それに、彼女たちに殺意は無いですから。些細なことです。私が適当に受け流していれば、いずれ彼女たちも飽きて収まりますよ。」
傷や痣が少し痛々しく見えるけれど、実際怪我自体は大したことない。
「君がそこまで身体を張る必要はない。本当に私を殺したいと思っている人間は、結局どんな手を使っても殺しに来る。彼女たちに殺意は無かったにしろ、君はもうすぐグレイ公爵夫人になる女性なんだ。それ相応の対応はさせてもらうよ。」
冷静になると、その通りだと納得できた。
私は小さく頷いた。
「公爵様。公爵様は誰かを愛したことがありますか?」
静かに尋ねれば、急に彼の顔が歪む。
「……愛?そんな物を感じたことは一度もない。」
あれだけ社交界で人気の公爵様に今まで婚約者がいなかったのがずっと不思議だった。
彼はいつも令嬢に囲まれていて、常に優しく丁寧だったけれど彼女たちを平等に扱っていて誰か1人と親しくなることは無かった。
本当は優しくしているように見えていただけで、どうでもよかっただけなのかもしれないと思えた。
「そうですか。私に嫌がらせをしていたご令嬢達は、皆んな貴方を好きだった方達ですよ。愛されたくて必死になって、選ばれなくて傷ついているんです。」
公爵の表情は歪んだままだ。
「愛していたからと、他人に危害を加えて良いわけじゃない。君は彼女たちに同情したから庇っていたのか?」
私の頭の中にはジョージとアリスの顔が浮かんでいた。
「そうかもしれません。それに彼女たちに対して罪悪感もあります。貴方と私の間に愛があると嘘を吐いているわけですから。」
「…君は好きな男がいるのか?」
「以前は居ました。私も失恋の辛さはわかります。」
彼に対してこんなに本音で話したのは初めてだった。




