33/41
3
言い返そうとして顔を上げると、無表情だけど確かに怒っている公爵が見えた。
婚前契約の時も苛立っていたけど、今ほどじゃなかった。
私はこれ以上何か言い返すのは得策じゃないと思い、口を継ぐむ。
「君は私と契約した時点で私のものなんだよ。私に隠し事をすることも、勝手に傷を作ることも許されない。」
暗い紫の瞳がうっすらと微笑む。
言い聞かせるように優しい声が、すごく不気味に感じた。
「…私は、ものじゃありません。」
彼とは身分差があるけど、契約は対等なはずだった。私はずっと彼の協力者のつもりでいたのに。
「でも君は、その命を賭けて私の優秀な駒になってくれるんだろう?優秀な駒なら、主人に楯突いたり嘘を吐いたりはしないはずだ。」
それは、そうだけど。
じゃあ私の気持ちや考えは、全部必要ないということ?
彼が一言終わりだと言えば、この契約は簡単に終わる。
どれだけ正式な契約書を交わそうと、彼ならその存在をもみ消すことすらできるんだから、あんな契約書一枚には何の力もない。
こんなに虚しいことはないな、と感じた。
この国の全ての人に愛し愛されていると嘘をついて、その実、私はただの駒としての価値しかない。
ジョージやアリスのように愛が芽生えなくても、せめてお互い協力者として尊重し合えればと思っていのに。
悲しくて、悔しくて、涙が出そうだった。




