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ユリウス・グレイという男



計画通り、婚約発表は2日前に終わった。



今まで探ってきていた者もヴィヴィアンとの婚約を本気だと捉え始めた様で、ヴィヴィアンの元には暗殺者が送り込まれてきていた。


「それで、捉えたのか?」



音もなく側に控えていた男が答える。


「捉えた者は地下牢に入れてあります。何人かは捕まる前に自害しました。」


「そうか。」


目は手元の書類に落とされたままだった。


側に控えていた男ーーー公爵家執事のノアは、主人があの舞踏会からずっと不機嫌であるのに気がついていた。


「ヴィヴィアン令嬢のドレス、とても素敵でしたね。」


ぽつりと呟けば、書類を持っていた手がぴくりと動いた。


視線はもう文字を追ってはいなくて、益々不機嫌な雰囲気が漂ってくる。



「あれだけ美しいドレスを着こなしていたのに、装飾品がひとつだけなんて、随分寂しいと思いませんか?」



「…何が言いたいんだ?」


ゆっくりと顔をあげてこちらを向いた公爵の瞳は、暗く澱んでいる。


長年裏でも表でも仕えてきた執事でさえ、恐ろしいと感じた。



「彼女が他人からの贈り物を身につけるのが気に入らないのなら、ドレスもアクセサリーも素直にお送りすれば良いのです。」



ノアは舞踏会前に、主人にドレスや装飾品を彼女に贈るように助言していた。


勿論公爵家の婚約者として体裁を保つためであったが、そんなことは必要ないと彼に断られてしまった。


「何を言っているんだ。そんなことは契約に含まれていない。」


彼は相変わらず無表情だったけど、指でトントンと椅子を叩く姿は不機嫌を現していた。


「ですが、これから2年間はこのグレイ公爵家の奥様となられる方ですよ。品位を保つことも必要です。それに貴方が彼女を愛していると思わせないと、敵も信じないのでは?」


「…愛?全く馬鹿げているな。信頼関係すら無いというのに。」



馬鹿にするように笑っていたけど、彼から否定する言葉は出てこなかった。



公爵はある出来事から、恋愛というものを嫌悪していて、女性を信じていない。



ノアは公爵は一生結婚などしないと思っていたため、今回の計画を聞いてとても驚いた。



それに彼女との契約内容も、厳格な主人にしては珍しく破格だった。



ノアから見ても、今のことろ彼女にも主人にも恋愛感情なんてモノが芽生えているように見えないけれど、もしかしたら公爵の女性不審を、彼女なら治せるかもしれないと感じていた。


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