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舞踏会の日は朝から慌しかった。
姫様が手配してくれて、私の準備を同僚の皆んなが手伝ってくれる。
ドレスは姫様が見繕ってくれた薄ピンク色の物を着ることになった。
普段私が着ることのないデコルテの開いた大胆なドレスだったけど、柔らかい色と上品なデザインで品よく見える物だった。
「このドレス私には着こなせなかったけれど、貴女なら完璧ね。素敵よ、ビビ。」
薄水色のドレスを見に纏った女神の様に美しい姫様が隣で準備を見守っていた。
公爵とは会場の入り口で待ち合わせていた。
会場に着いた時、彼の姿はすぐに見つけられた。
人だかりができていて、彼はその中心で令嬢たちに囲まれていた。
穏やかな微笑で対応している彼が、あの日の冷酷な男と同一人物とは思えなかった。
「公爵様。」
ゆっくり近づいて声をかければ、彼はすぐに顔を上げた。
一瞬目を見開いてから、いつも通りの微笑を浮かべた。
事前にドレスの色を伝えていたから、彼の衣服のあちこちに揃いの薄ピンク色が使われていた。
エスコートされて会場に入る。
「そのドレス素敵ですね。どちらで準備されたんですか?」
耳元で囁く様に彼が尋ねてくる。
「私はドレスを一着しか持っていませんので、姫様がご厚意で下賜してくださいました。婚約祝いだそうです。」
近さに少し顔を顰めて、淡々と答える。
私のドレスは見るからに高級そうで、たしかに私が自分で用意したとはとても考えられないだろう。
「…そうですか。しかし、ちょっと大胆すぎるのでは?」
意外なことに、彼にはこのドレスが気に入らなかったらしい。
女の服になんて全く興味ないだろうに。
その顔を見れば、微笑んでいるけど微かに不機嫌そうに瞳が細められていた。
「そうですか?皆のドレスとあまり変わらないデザインだと思いますけど。ご不快ならなるべく視界に入らない様に致します。」
婚約発表の日に怒らせるのは得策じゃないと思い、私は彼からそっと離れようとした。
発表の時までずっと一緒にいる必要はない。
適当に兄や両親のところに居ればいい。
離そうとした手を、がっしりと掴まれる。
「…いや、そういう訳じゃない。側に居てくれ、離れないで。」
彼は相変わらず微笑んでいるけど瞳は笑っていない。




