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なんでもすると言ったのは嘘じゃなかった。
私が王宮でずっと働いてきたのは、クック領と家族のため。
今回の彼との婚約は、間違いなくチャンスだった。
「…何でもね。君ができることなんて、誰でもできる。私に要求するなんて思ったよりも随分と大胆なんだな、君。でも、自分の立場をわかってないんじゃないかな?私は今すぐに君や家族全員の首を刎ねることだってできる。誰にも見つからない方法でね。」
彼の美しい顔が、微かに顰められている。
私が噛みついてきたのが気に食わないらしい。
トントンと不機嫌そうに人差し指でソファの縁を叩く音がする。
でも、私もここで折れる訳にはいかない。
「…私を殺しますか?
私はこの計略についてを手紙に書いています。
私が死んだり、一定期間連絡が取れなければ、それが必ず姫様の手に渡るように手配もしています。姫様がどう動くのか試してみますか?
王族の方達と揉めて、貴方の計画に支障がないと良いですね。」
私はゆっくりと微笑んだ。
引いたはずの冷汗がまた全身をぐっしょりと濡らしている。
彼はくだらないことだと言わんばかりに、ふんと鼻で笑った。
「私の計画?計略とは一体何のことですか?」
私の脈は早くなり、口から心臓が出そうだった。
不快感以外読み取れない目の前の男が、怖くて堪らなかった。
「詳細は分かりませんが、貴方の命を狙う人がいるんじゃないですか?
それを炙り出すために、婚約者という自分の弱点に見える存在を作った。だからあれだけ人目に付く場所で態とらしく私と会っていたんでしょう?」
彼は無表情だった。
でも私を見つめる紫の瞳が深まった気がした。
「へえ、これは驚いたな。」
彼はゆっくりと立ち上がり、私の方に向かってくる。
わからない。交渉は失敗したのか。
何をされるんだろう。怖い。
本当に私の首を刎ねるつもりなの?
ずっと握りしめている掌が、震えてしまいそうだった。
彼の手が顔に伸びてきて驚き、私は思わず瞳を瞑って自分を守るように両手で庇った。
もう少しで悲鳴も口から出そうだった。
彼から少しでも距離を取るようにソファの上で仰け反れば、目の前の彼は少し驚いた様子だった。
もう隠せないくらい怯えて微かに震えている私を見て、ゆっくり楽しそうに彼が笑った。
「…ホコリが髪に付いていたんですよ。」
私の目の前に立ち、見下ろす壁みたいな男に全力で警戒した。




