6
怒りで声が震えそうだった。
私は今日、彼の計略のせいで死にかけた。
彼にとっては取るに足らない弱小貴族の、ただの令嬢1人の命でも、私の毎月の仕送りや、これから私が結婚することでもたらす資金は、家族や領地民には死活問題だった。
「ヴィヴィアン嬢、怖かったんですね。大丈夫ですよ、これからは僕がしっかり守りますから。」
優しげに微笑んでいる目の前の男に、腹が立って思わず怒鳴りそうになった。
息を吸い込んで口を開いたところで、グッと手を握って堪える。
彼と私には身分差がある。
表向き婚約者となって対等かのように振る舞っても、その事実は変わらない。
この男だって、気に入らなければ私をいつだって殺すことができる。
掌に爪が食い込んで、血が滲むのがわかった。
握りしめすぎて、手の関節が白くなっている。
「…もう誤魔化すのはやめてください。貴方の考えはわかっています。私は今日死にかけて、貴方が望む餌の役割をちゃんと果たしましたよね?婚約も結婚も契約です。私はもうすでに望みを叶えたのだから、報酬を頂きます。」
私は微笑まなかった。
彼は私を見ながら、少し考えるように口元に手を持っていき、ゆっくり口を開いた。
「…何が望みなんだ?」
「お金です。黒幕を突き止めるまで、毎月50ルークと別途危険手当、私の実家への資金援助。それと、もうすぐ冬が来ますから、物資の購入や搬送もクック領を融通してください。」
だいたい1ルークで平民の1ヶ月分の給料だ。
侍女の給料も、毎月5ルークほど。
それを婚約者でいるだけで毎月50ルークだなんて、一瞬盛りすぎかと思ったけど、すぐに当然だと思い直した。
私は今、自分の命に金額をつけている。
冷静な自分の声が、まるで他人のように感じた。
「毎月50ルークね。自分の命にそんなに価値があると思っているのか?君は思ったよりずっと冷静で頭が良いようだけど、そんな要求が通るとでも?」
意地悪く、彼の口角が上がる。
彼が戦場で、冷酷無情だと恐れられていたのを思い出した。
「この契約にご不満でしたら、私は今すぐ婚約を取りやめます。また別の令嬢をご準備なさればいいですわ。今度の令嬢も私のように簡単には死なないといいですわね。」
にっこりと微笑む。
彼だって今日のことでわかっているはずだ。
私が今日死ななかったのは、私にたまたま自衛するだけの知恵があったからで、そうでなければ最初の人刺しでとっくに死んでいた。
きっと何も知らない普通のご令嬢では、生き残るのは困難だろう。
黒幕が誰なのか今回の一件ではっきりするとは考えられないし、まだ私の存在は必要なはず。
「婚約を取りやめる?君の立場で準王族からの申し出を断ることなんてできないだろ。…仮に私がその条件をのんだとして、君は私に何をしてくれるんだ?」
「私は姫様に13歳から仕えています。姫様は慈悲深く、公明正大なお方です。きっと私の力になってくださることでしょう。」
正直、第二王女よりも彼の公爵家という肩書きの方が力がある。
姫様が彼より優っているのは王族という身分だけだ。
本当に私が婚約を破棄して彼らと対立すれば、姫様でも私を助けることは難しいだろう。
だからといって従順にして犬死になんてごめんだった。
「契約をのんで頂けるなら、私にできることはなんでも致します。私はある程度自衛の手段を心得ていますし、頭も悪くありません。きっと貴方の駒として役に立ちます。」




