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「公爵様、お話があります。」
聴取が終わった後、私は静かに彼に話しかけた。
疲労と、この理不尽な出来事に対する怒りが渦巻いて、私は無表情だった。
腹芸は元から得意じゃない。
彼は相変わらず優しげに微笑んでいたけど、私の顔を見て少しだけ面白そうに口角を上げた。
「わかりました。ここでは落ち着かないでしょうから、一度私の屋敷に行きましょう。」
私は大人しく従った。
公爵家に向かう馬車の中は、恐ろしいほど冷え切った空気が流れていた。
差し出された手を取って馬車を降りれば、彼は氷のように冷たい私の手に少し眉を顰めた。
よく見れば私の着ている薄手の白いワンピースは湿っているし、顔色は紙のように真っ白だった。
私の様子に今気が付いたかのように驚き、目を微かに見開いた彼に、なんだか笑ってしまった。
彼が私に興味がないことなんてとっくに知っていたけど、彼は女性に親切だと聞いていた。
だとしたら、彼には私が女性どころか人間にすら見えていないのかもしれない。
またこの前の応接室に通されて、彼は静かに暖炉に火を入れた。
すぐに目の前に暖かい紅茶が置かれ、メイドがふかふかなブランケットを持ってきてくれた。
寒さは感じなかったけど、私は有り難く借りておいた。
「それで、話って?」
柔らかい口調で、彼が切り出した。
「婚前契約書を、今すぐ作ってください。」
「…なぜ?」
彼はもう無表情だった。
「死にかけたからです。」




