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彼は騎士団長で、この王宮の構造を熟知しているけれど、第二王女の王宮についてはそこで働く侍女の方がやっぱり詳しい。
おまけに私は気配を消すのは得意だから、毎回うまい具合に逃げられていて、内心安心していた。
次に彼と正式に会うのは1ヶ月後だった。
グレイ公爵邸で、婚約式の日取りや婚前契約についてまとめる予定であった。
私はそれまで王宮で彼と接触するのを避けていれば、大丈夫だと思い込んでいた。
「ビビ、今日の午後はお休みで良いわよ。」
いつものように姫様にお茶を入れてカップを目の前に置いた時、書類を読んでいた姫様が唐突に告げた。
急に休みを貰う理由がわからず、首を傾げる。
「何故ですか?何か問題がありましたか?」
「違うわ。グレイ公爵からお願いされたのよ。貴女とちっとも王宮で会えないって。貴女とゆっくり会える時間が欲しいんですって。」
だから、とりあえず今日の午後はお休みで良いわよ、とどこか楽しそうに笑いながら姫様が話した。
優雅にカップを持ってこくりと紅茶を飲む姫様は今日も美しい。
私は彼に対して芽生えた怒りを押し殺して、「わかりました。ご配慮ありがとうございます。」と答えた。
私はこの仕事に誇りを持っているし、毎日やりがいも感じている。それを、こんな理由で奪われるなんて許せない。
彼が何をしたいのかわからないけど、私に直接言うのではなく、姫様に言うなんてなんだか卑怯だ。
昼休憩に姫様の執務室まで公爵家の執事が迎えに来た。
その後ろをついて歩きながら、私は頬が膨れて不機嫌な顔になるのを我慢できなかった。




