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あれこれ考えている間に馬車は公爵邸に着いた。


御者の手を借りて降りれば、実家とは比べ物にならないほど立派な屋敷が目に入った。



広々とした応接室に通され、メイドが紅茶を綺麗な所作で目の前に置いた。



紅茶の香りが漂い、ほんの少し冷静になれた。


カラカラの唇を潤そうと一口紅茶を飲んだ時、ドアをノックする音が聞こえた。



私はカップを戻してゆっくりと立ち上がる。



ドアを開けて入ってきたのは、あの日薬草園で会った、あのグレイ公爵だった。


相変わらず彼の紫の瞳もシルバーブランドもキラキラと輝いている。



「ヴィヴィアン・クック令嬢。今日はお越しくださりありがとうございます。」


薄い微笑を浮かべて、物腰柔らかく彼が挨拶をする。



「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ。」


にっこりと笑みを浮かべる。

両掌は相変わらずぐっしょりと濡れて指先は冷え切っていたけど、心から喜んでいるように見えるよう、細心の注意を払って表情を作る。



「あまり緊張しないでください。急な婚約の申し出に驚かれたでしょう?」


対面に腰掛け、優雅に彼が話し出す。


驚いたなんてもんじゃない。

正直、不気味すぎて今まで生きた心地がしなかった。



「ええ、驚きました。私には本当に勿体無いお話ですもの。なぜ、私を選んでくださったんですか?」



この5年で私は貴族の腹の探り合いについて学んだ。


社交界では本音を隠して表情を偽って、決して腹の内を見せてはいけない。


素直さや愚直さは、つけいられる隙を与えて命取りになるのだ。


それでも、私はあんまりそういった腹芸が得意ではなかった。


婉曲な表現はできず、せいぜい喜んで浮かれているように笑顔を作る。



「あの日、薬草園で手当をしてくださったことを覚えていますか?」


静かな声で彼が答える。


「ええ、覚えています。誰もいないと思っていたので私とても驚きました。」


にこにこと愛想よく答える。


彼は微笑を浮かべたままだ。それでも細められた紫の瞳が、何故だか私を探っているように感じてしまう。


「とても感謝しています。あれが、君に婚約を申し込んだ決め手でした。ヴィヴィアン嬢、僕と結婚してほしい。」


微笑んだまま、柔らかい声で彼が話す。


ジッと見つめられて、彼の透き通った紫の瞳に私が映っているのが見えた。


こんなに美しい男に見つめられて、婚約を申し込まれて、それはまるで愛を告白するかの様だった。



でも、彼は一言も愛や、好きと言った好意的な言葉を言わなかった。

つまり彼は私に好意を抱いているわけではないということだ。


あの薬草園での出来事で、彼が具体的にどう感じたのか、私に対してどう思っているのかさっぱりわからない。


今日、私は彼に直接会うことで彼が何を考えているのか腹内を探ることが目的だった。


どちらにしろこれが彼の冗談でなければ、私はこの婚約を受けざるを得ない。


でもこうして対面しても、彼が何を考えているのかさっぱりわからない。



「…嬉しいです。私でよければ、お受けします。」


思わず不安になって、一拍返答が遅れてしまった。

私はちゃんと嬉しそうに笑えていたかわからなかった。



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