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結局、グレイ公爵と会ったのは姫様から婚約の話を聞いた日から1週間後だった。
仕事終わりに王宮に迎えにきた公爵家の馬車に乗る。
私は侍女服から、いつも通りのシンプルな紺色のワンピースに着替えた。
緊張で両掌にはずっとぐっしょりと汗をかいている。
一体どんな理不尽な要求をされるのか、公爵はどんな冷酷な男なのか。舞踏会の日薬草園で会った時は、作り物のように美しいけれど、普通の男だと感じたのに。
この1週間、私はできうる限り公爵の人柄について情報を集めた。
姫様の侍女として私は今まで王宮や社交界での噂話に気を配るようにはしていたけど、そのどれにも興味はなかった。
でも、今回はそうはいかない。
たった一回しかまとも会ったことのない、得体の知れない公爵様が、自分の人生に大きく関わることになるかも知れないのだ。
彼の社交界での評判と、戦場での評判は両極端だった。
貴婦人やご令嬢は皆んな口々に彼を褒め称えた。
長身で鍛え抜かれた立派な体躯に、キラキラと宝石のように輝く紫の瞳と、端正な顔。
その体型や戦場で名を馳せる騎士という肩書きからは想像できないくらい、彼の所作は洗練されていて女性に礼儀正しかった。
彼が社交界に顔を出すことは本当に稀だったけど、社交界では1、2を争うほど人気の男性であったらしい。
一方で、彼と仕事で関わっている人や戦場での彼を知っている人達は、彼は冷酷無情だ、人の心がないと口々に話し恐れていた。
彼の仇名である“ツギハギ”騎士というのも、戦場で付けられたものだった。




