深淵の元勇者
「どうして私の実家に来る、自分の家に帰れ」
「勇者仲間だろ!助けてくれよ!」
40を前にした私の実家に、完全にオジサンな真眼の勇者がやってきた。勇者のコスプレで、しかも勇者の大剣を背負って。
困惑した老いた両親からの緊急の連絡、寿命が縮んだらどうしてくれる。警察に突き出してやろうか。
「自分の家に行ったよ、無くなってた。高校もなくて駐車場だわ、光輪の勇者の家は空き家で売り出されてた。浄化の勇者由来の場所なんか行きたくもねえ!あの淫乱メギツネが!」
「なら異世界に帰れ」
この馬鹿を客間に座らせて、私は両親と共に向かい合った。
「……そうだけどさあ……俺、光輪の勇者と帰りたいんだよね……」
「は?」
一瞬真眼の勇者が何を言ったのか分からなかったが、どうやら光輪の勇者は私と同じく戻っていたらしい。
「藍ちゃん、行方不明になってた子なの?大丈夫?警察呼ぶ?」
「お母さん、俺は怪しいものではありません。深淵の、とは10年勇者パーティを組んでいた仲です」
「勝手に母親と呼ぶな、馴れ馴れしい。お前たちと関わる気はない。出ていけ、そして自力でなんとかしろ」
「なんとかできないから助けてください!」
「まあまあ、真眼の勇者だったかしら?ご飯は食べた?藍と同い年くらいよね。お腹すいてたら言ってね」
「お気遣いなく」
この野郎……図々しくも母の手料理を食ってやがる。どうしてくれようこいつ……しかし両親の手前、追い出すわけにもいかない。
なぜこいつはこんなに図々しいのか。
10年行方不明になるわ、友人いない、恋人いない、人付き合い苦手な40前の一人娘に男の友人?が訪ねてきたのが両親はよほど嬉しかったようで、馬鹿は実家に居座っている。
仕方なく、光輪の勇者探しを手伝うことにした。さっさと見つけて異世界に送り返そう。