深淵の勇者
「異界の勇者たちよ、よくぞ魔王を倒してくれた!さあ、どんな望みも叶えよう、願うがよい!」
魔王を倒した大広間に、私たちを呼び出した自称神様が現れた。
私の望みはただ一つ、
「元の世界の家族のもとに帰してください、今すぐに」
「え?ちょ、深淵の勇者ちょっと待っていきなり?」嘗ては紅顔の中学男子だった同級生A、光輪の勇者がなぜか慌ててる。
「10年頑張ったんだよ、ご褒美もらいに行こう、な?」もうすっかりオジサンな同級生B、真眼の勇者が宥めにかかる。
「私は嫌よ!戻って王太子と結婚して王妃になるのよ!今更戻って元の世界でどう暮らすのよ!もう27歳よ!」まだまだ美しいですよ、性格はどうにもならないけれど。唯一の女子同級生、浄化の勇者。
「案ずるな、それぞれの望みを叶えて進ぜよう。
深淵の勇者よ。家に帰るとよい、家族は待っている」
「「「ここからお前無しで帰るの大変なんだけど!」」」知るか。
私は家に帰った。
私は深淵の勇者、異世界に誘拐されてやっと帰ってきた。
10年行方不明の娘が帰ってきて、大騒ぎだった。一緒に消えた3人の行方なども聞かれたが記憶喪失の振りをした。
勇者の装備そのままだったけど、とぼけといた。私の武器は小さな短剣だから銃刀法違反に問われなかった、助かったー。
両親は泣いて喜んでくれた、そして私以外の3人が行方不明だとまた泣いた。
あの3人は帰る気ないのか?まあいいか、私には関係ない。
私はひっそりと一人暮らしをすることにした。幸い体は丈夫! なんたって勇者のスキルがそのまんま……まあ気にしない。
そのうちに両親も落ち着いた、職も見つけた。
そして10年後……
町を歩いている女子高生らしき2人の会話を耳にした。
「ねえ聞いた?異世界から戻った人の話」
「なに?」
「その人の知り合いがね、異世界で結婚することになったって」
「え?」
「それがね、お城に招待されて結婚式も挙げたんだって、幸せだよね」
「ちょっと内容がついてけないんだけど?なにって?」
「だから、異世界に召喚されて魔王を倒した勇者とその一行で、光輪の勇者様と浄化の勇者様、真眼の勇者様、深淵の勇者様だよ。みんな行方不明だったんだけど」
「大丈夫?変な夢でも見た?魔王とか勇者とか、私ゲームやったことないからわかんないや」
「夢じゃないよ!今月入ってから急に行方不明の3人が帰ってきて、国王陛下から王宮に呼ばれたんだって。結婚式はそれから1ヶ月後だって!」
女子高生が去っても私はしばらくその場に立ちつくしていた。
今の私が知ってる異世界の話だよね。なんで普通に学生が話題にしてる?話し相手はまともに取り合っていなかったといえども。
そしてまた女子高生が2人。
「なんかさあ、異世界から戻ってきた人の話って多くない?」
「この前も聞いたし!」
「だけどさ、行方不明になってた人が急に帰ってくるっておかしくない?」
「あ!もしかして!」
……それは、私のことですか? 私ですか!? 10年前帰って来てましたよ!! あとの3人は20年音沙汰無しですよ!! 今ごろ、異世界で幸せに暮らしてますよ!!
いや、あいつら帰ってきたのか?ご家族のことを思うと喜ばしいが、あいつらとはもう二度と関わりたくない。
だいたい真眼の勇者とか浄化の勇者ってなんだよ!厨二病か!? 私なんて深淵だよ、名前からしてもう恥ずかしいわ!!
女子高生よ。もし3人の関係者から話を振られても「そんな人達知りません」で通せよ?酷い目に会うこと間違いなし。