冤罪からの処刑一秒前、婚約破棄された悪女は龍に攫われました
断頭台の前に一人の令嬢が立っていた。
衛兵に両腕をきつく縛り上げられ、衣装は公爵家の令嬢という彼女の身分には相応しくないほど粗末だ。
薄汚れてもなお鮮やかな薔薇色の髪を風にたなびかせ、凛とした紫紺の瞳をまっすぐに観衆の方へと向けている。
彼女に睨まれるのは、観衆の中でも特別に目立った二人。
片や国の王太子。片や誰からも愛され慕われる聖女。彼らは他の観衆の視線が令嬢ただ一人に注がれているのをいいことに、直後に行われる処刑への期待から浮かぶ笑みを隠そうともしない。
あるいは期待だけではなく、令嬢を陥れることができた喜びによるものかも知れないが。
あまりの醜悪さに背筋がゾクゾクしそうなその笑みに、しかし令嬢は屈しない。
ギュッと唇を引き結び、最期の問いが投げかけられるのを待った。
「ロージー・グラザリーユ。何か言い残すことはあるかい?」
王太子ルカ・コランバイン・エルドュが憐れみと優越感をないまぜにしたような声で言う。
彼はつい先日まで令嬢――ロージーの婚約者であった人、そしてロージーが今こうして処刑されようとしている原因の一人でもある。
『聖女を殺そうとした挙句、国家の転覆をも目論んでいた』。
そんな身に覚えのない理由で婚約破棄を突きつけられたのが始まり。あれよあれよという間に牢へ放り込まれて稀代の悪女と呼ばれるようになってしまった。
確かに父であるグラザリーユ公爵は娘を王妃に据えようとするくらいには野心家だけれど、国家転覆を目論んだことなど一度もない。
ましてやロージーは王子妃教育を早々に済ませ、その上で王家に貢献すべく外交などを務めてきた。しかし結果的には何もかも無意味だったのだろう。
王太子ルカはきっとロージーが無実であると知っているはずだ。その上で、捨てたのである。
彼の隣にいる、愛しの聖女のために。
「わたくし、人として、そして未来の王太子妃として、間違った行いをした覚えは一切ございません。それでもわたくしの首を刎ねたいとおっしゃるのでしたら、どうぞお好きになさいませ」
「やはり反省の色はないのだね。マーガレットを殺めようとしておきながらそのような態度とは」
「聖女様が黒といえば白も黒になる。ただそれだけでしょう?」
伯爵家の令嬢にして聖女に選ばれたマーガレット・パーソンが毒殺未遂に遭った。
某お茶会にて注がれたカップに毒が塗られていたのだ。『神のお告げ』とやらによると、犯人はロージーだという。
聖女は神の使い。災害の予見や正しい未来への道筋などをお告げとして伝え、国の安寧を保つのが仕事。
マーガレットも何度も国難を言い当てたことがあり、それによって『神のお告げ』の信憑性は高い。
だから『お告げ』と言われてしまえば、誰も彼も疑いを持てなかったに違いなかった。
たとえ、それが聖女マーガレットの自作自演でしかないとしても。
『惨めですねぇ、ロージー様』
『ふふ。品行方正なだけで地位を守れるとお思いだったのですか? そんなのだから無様に嵌められるんです。あなたの積み上げてきた善行の数々でも、聖女たるわたしの言葉には到底勝てないんですよ』
『煌びやかさを失って、悪女として死ぬなんてお可哀想』
『あなたの代わりにわたしがルカ様を愛し慈しむ素敵なお妃様になりますからご安心くださいね』
『ねぇ今、どんな気持ち?』
婚約破棄され投獄された当日、ロージーが囚われていた監獄に訪れた彼女は次々と聞くに堪えない言葉を投げつけてきた。
彼女とルカ王太子は共謀していたのだ。二人はずっと前から恋仲だった、らしい。
どうして、と泣きたくならなかったわけではなかった。
二人がどこで知り合い、何度逢瀬を重ねていたのかは知らない……いや、知りたくないからあえて知らないままにしていたけれど、「どうしてそんな女に」とルカ王太子に詰め寄りたい気持ちは常にあった。
好きだったから。
王家と血縁がある故、王太子とは物心ついた時からの仲だ。金色に青の瞳、寝物語に出てくる王子様そのもののような彼に恋心を抱くようになったのは一体いつ頃からだっただろう。
『ルカはわたくしにとって、家族のようなものですわ。傍で支えて差し上げるのがわたくしの役目というだけでしてよ』
やがて結ばれた婚約は政略的な思惑によるものだと正しく理解していたので、過度な期待を抱かないようにと自分を律するための嘘を吐いていた。
家族に、あるいは友人たち、そして王太子本人にすらそんな風に言ってしまった手前、表立って嫉妬を見せることも、想いを伝えられるはずもなく。
そして今に至るのだった。
――もしもルカと心を通わせられていたなら、何か変わっていたでしょうか。
わかっている。いくら考えても今更だ。
ロージーにはもう、断頭台で命を散らす未来しかない。
「処刑人、刑を執行しろ」
「はっ」
どんと背中を押され、無理矢理に断頭台へ首を突っ込まれる。
そのまま刃が落ち、彼女の首は断たれるだろう。
そう、誰もが思った、瞬間。
ガアアァァァァァアアアアアッッッ!!!!!
轟いたのは咆哮だった。
耳をつんざくような雄叫びと共に、突如として降り注ぐ火の粉の雨。観衆は悲鳴を上げ、処刑人と衛兵たちが驚き飛び退く。
何事であろうかと首を突き出した状態でわずかに顔を上げたロージーは、あまりのことに息を呑む。
漆黒の鱗を全身に纏う大蛇のようなものが、空を覆い尽くすようにしてそこにいた。
あくまで『ようなもの』であって大蛇でないとわかるのは頭上に生えた二本のツノと太く逞しい四本の脚が見えたからだ。
「その娘は我が運命の番だ。即時、処刑を中止せよ」
ぐるりぐるりと円を描くようにして地に降り立つなり、低く痺れるような声で告げるそれ。
先ほどまで愉しげだった二人組――ルカ王太子は戸惑いを隠せず、聖女マーガレットはぽかんとしていて、現状への理解が追いつかないのか呆けるばかりであった。
この目で見たのは初めてだし、地理的に離れているので外交上の関わりがないものの、伝聞や文献や絵図では何度も見たり聞いたりしたものとよく似ている。
遥なる北国に住まう、人族とは比べ物にならないほどの強者。龍人と呼ばれる者で間違いない、と思う。
ただ、龍人はもう少し人に近しい姿のはずなので、おとぎ話に出てくる怪物である龍の方が印象的には近いだろうか。
そんなのが、どうしてよりによってこんなところに現れたのだろう?
「繰り返す。我が番の処刑中止を求む。応じなければ宣戦布告することになるが、私はそれを望まない」
理解不能でいるところに、さらに投げられる強烈な単語。
宣戦布告を仄めかされ、言葉にできない威圧感をかけられて、やっとルカ王太子が口を開いた。
「き、君は?」
「グリヴィス・ドレゴニア。ドレゴニア国の王だ。エルドュの王子、もう彼女は貴国にとって不要と切り捨てたのであろう? 首を縦に振るだけでいい」
急に現れた相手に意に沿わないことを命じられたルカ王太子は、いかなる気持ちで黙りこくっていたのか。恐怖よりは怒りの方が大きかったのではなかろうかと推測するが、真意はわからない。
どれほどの時間が過ぎただろう。一瞬だったような気も、半時間以上だったような気さえする。
けれどいつまで経っても答えがないものだから。
「仕方ない」と呟いた龍人が行動を起こしてしまった。
「なるべく手荒な真似はしたくなかったのだが、何より大切なのは我が番の命なのでな」
ぶおん、と尻尾を軽く揺するだけで処刑人と衛兵を吹き飛ばした龍が、ロージーの元へと迫った。そしてそのまま彼女の体は軽々と持ち上げられる。
龍の手中に囚われた。そう理解した途端、全身がすくみ上がるのを止められない。
「……っ!」
「決して暴れるな。このまま連れていく」
龍の掌はあたたかく心地良いが、当然、その感触を味わうなど到底無理。襲いくる浮遊感と平衡感覚の消失の中、淑女としての矜持でどうにか取り乱さないようにするのが精一杯だ。
――まさかわたくし、この龍に攫われてしまいますの!?
まるで荒唐無稽の夢のようだ。けれども残念ながら覚めてはくれないようである。
かくして、処刑されるはずだった『稀代の悪女』ロージー・グラザリーユは、再び天へ舞い上がった龍に連れられ、処刑場から姿を消したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
空を揺蕩うように進む龍に揺られながら思案する。
自分は、この龍に救われたのだろうか、と。
何の説明もなしに何処かへ運ばれているのはどう考えても誘拐でしかない。
しかし龍の登場がなければ処刑は行われていたわけで、本来であればロージーは今、頭と胴体が分かれていたはずだ。
死の覚悟はできていたけれど、生き残れるのならそれに越したことはなかった。
だがそれが、初対面の、それも龍によってもたらされた幸運だというのが厄介だ。
龍の国ドレゴニアの王、グリヴィス。
名前だけは聞いたことがある龍人の王は、この世の誰よりも強いと謳われる。真正面から向かい合っても敵うはずもなく、もし不埒なことをされそうになってもうまく逃げられるかどうか……。
「ドレゴニアに着いた」
龍が到着を知らせたのは、それから数時間後。
青々とした木々が生い茂る森の中で下ろされ、やっと息を吐くことができた。
「体に不調はないか? 気をつけていたのだが人を運ぶのは初めてでな。もしもどこか不調があるなら、すぐに癒させる」
「……お気遣いいただかずとも結構ですわ」
まだ少し頭がふらふらするが、そんなことはどうでもいい。
それよりも――。
「わたくしをドレゴニア国に強制的にお招きいただいたことについて、どういうおつもりでいらっしゃるのかをご説明いただけませんかしら?」
尋ねかけながら、黒龍のエメラルド色に輝く瞳とまっすぐに目線を合わせる。
蛇に似たその目からは感情を読み取りづらい。しかしなんとなく、優しい色を帯びているような気がした。
もちろんただの気のせいかも知れないので警戒を緩めたりはしないが。
「何の説明もなしにここまで同行させてすまなかった。事情を――貴女を攫った理由を話そう。
運命の番。それは我ら龍人族における、魂に刻まれた相手のことだ。私にとってのそれが、貴女だった」
「魂に刻まれた相手、ですか」
「獣の本能のようなもので、香りだけで誰が自分に相応しいかがわかる。ほとんどの場合は同族同士なのだが、私は例外であった故に番探しの旅をしていた」
その最中、今まで嗅いできた何よりも甘く魅力的な香りを感じ、その発生源を辿ってみるとロージーに行き着いた。
それがちょうど、ロージーの処刑が行われる一秒前だったという。
「少しでも遅れていたら本当に危なかった。間一髪で貴女を助け出せたことに安堵している」
『助け出せた』という認識なのか。事実はともかく一見すればロージーが悪人のようにしか見えなかったはずだが……。
割と本気に聞こえる口調で「もし間に合わなかったら貴女の祖国を潰すことになっていたであろうな」なんて付け加えるものだから、どう反応していいかわからない。というか、素直にお礼を言いたくない。
ともかく、結論としては。
「わたくしを娶りたいと、そういうことですのね?」
「ああ。……もし良ければ貴女の名前を教えてはくれないだろうか」
言われてみればまだ名乗っていなかった。
いくら状況が状況とはいえこれは失態と、ドレス――ではなく、罪人用の粗末な衣服の裾を摘んで頭を下げた。
「申し訳ございません。わたくしとしたことが、ご挨拶が遅れてしまいましたわね。エルドゥ王国グラザリーユ公爵家の娘、ロージー・グラザリーユと申します」
「ロージーか。咲き誇る花のような美しく可憐な名なのだな」
「お褒めに預かり光栄に存じますわ」
さて、ここからグリヴィス王はどう出るかだが、まさかグラザリーユ公爵家に正式な方法で縁談を持ち込み、手続きを踏んでから嫁ぐということはないだろう。
連れ去られただけであるロージーは、今もなお冤罪を着せられたまま。それを晴らせない限り、エルドュ王国に戻れるはずもないのである。
となれば、方法は一つだけ。
「ロージー・グラザリーユ嬢。貴女を我が城へ招待したい。最大限のもてなしを行い、決して不自由がないようにすると誓う」
遠回しな言い方だが、間違いない。
事実上の求婚だ。
ロージーはそれを…………躊躇いなく、キッパリと突っぱねた。
「これ以上良くしていただくわけにはまいりません。それにわたくし、婚約に縛られるのはもう懲り懲りですの」
「貴女の意に背くことはしたくない。だが、貴女は今後どうするつもりだ?」
問われて、思わず考え込んでしまう。
身分を失い、金に変えられるようなものは何一つ持っていない。衣食住を整えるのがどれほど至難の業か、想像がつかないわけではないけれど。
「……どこかで小さい商売を始めるなり、美しさを買って出てくださる方を探すことになるでしょう。ご心配には及びません。人とかけ離れた種族の御方と婚姻するよりよほど可能性があるかと考えますわ」
幼馴染で初恋の相手のルカ王太子に捨てられ、処刑されかけたくらいなのだ。どうして見知らぬ龍などを信じられるというのか。
そう、思っていた。
巨大な龍の輪郭がぐにゃりと歪んで姿を変えるその時までは。
「私の容姿が問題であれば、これでどうだろうか」
「え……?」
「先ほどまでは先祖返りで龍に化していた。これこそが龍人族の真の姿だ」
目の前に、とんでもなく整った顔面があった。
すらりと通った鼻筋、弧を描いた眉。薄く形のいい唇の奥にはきらりと光る牙が覗いている。後で一つに束ねられた髪は艶やかな黒だった。
誰だろう、と一瞬わからなくなる。
それが龍と同一人物だと理解できたのは頭部の二本のツノと鉤爪が変わらなかったのと、彼の際どい部分を隠すように纏いつく衣が漆黒の鱗そのものだから。
図体のでかい怪物もどきでしかなかったとは思えないほど人間離れした美貌の、すらりとした長身の青年。
ロージーは彼に目を奪われた。奪われてしまった。
――こんなの、反則でしょう。
彼女が特別面食いというわけではない。
ルカ王太子は確かに令嬢たちから高い人気を誇る殿方であった。しかし恋心を抱いていたのは幼い頃から積み重ねた日々の思い出故。社交界には顔のいい令息がごまんといたので、美形くらい珍しくもなんともないのである。
なのにグリヴィス王に見惚れずにいられなかったのは、彼女自身は知覚していない本能があったからかも知れなかった。
「私のわがままであると承知の上で提案、いや、願いがある」
そう言いながら、雄々しい顔立ちとは真逆の柔和な笑みを浮かべるグリヴィス王。
ずるい。そんな顔、あまりにずるい。
「一定の期間を設けて貴女と共に日々を過ごし、その間に貴女を幸せにしてみせよう。番の香りを感じぬ貴女にも私と同等の思いを抱いてもらうため、全力で努力する。それが叶わなかった場合は貴女への一切の関与を行わない」
条件付きの仮婚約。
妃教育の中で平民が行うと習ったことがある、お見合いや家同士のしがらみのない婚約――いわゆる『付き合う』ということをしたいと、彼は言っているのだ。
「あらまあ。自信満々な割には、お願いごとばかりなさいますのね」
でも。
「そこまでおっしゃるのですもの、そのお覚悟が本物であるのか確かめてみるというのは面白いかも知れませんわ。
わたくし、祖国で事実無根の罪に問われ、悪女と断じられておりますの。あなた様がわたくしの名誉を取り戻してくださるのなら、考えて差し上げてもよろしいですわよ?」
本当はロージー自身が解決しなければならないことだと理解している。解決できなかったからこその、あの処刑場での出来事だ。
しかしそれをあえてグリヴィス王に投げたのは、その覚悟を問うためだった。
「承知した。時間はかかるかも知れないが、必ず」
疑念はある。
ある、けれども……人型になってもなお蛇のような瞳に、真剣味が見て取れたような気がしたから。
ロージーは、思い切って彼の手を取ってみることにした。
グリヴィス王に招かれたドレゴニアの王宮は、エルドゥ王国の何倍も贅が尽くされ、光り輝いていた。
王曰く、龍人という種族は特に美しく煌びやかなものを好むのだとか。
「私には、金銀宝石よりも貴女の方がずっと魅力的に見えるがな」
そう言いながらグリヴィス王はロージーの薔薇色の髪へ、薄汚れているというのにまるで気にすることなく、そっと優しく手を差し入れる。
ドキッとして鋭い目つきで見上げるとすぐに引っ込められたが、「見た目だけではなく強気なところも好ましい」と微笑まれ、なんだか釈然としなかった。
……ともかく。
これからこの場所で、新たな日々が始まるのだ。
公には他国からの来賓として。内実は、龍人の王の仮の婚約者として。
お試しで『付き合う』期間は一年間と定めた。
一年後、自分たちの関係がどう変化しているか。それはロージーにもグリヴィス王にもまだわからない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
グリヴィス王から向けられる愛は、思っていたものよりもかなり重かった。
ロージーの要望は可能な限り叶えられる。
社交などを強いられず、エルドュにいた頃よりずっとのんびりできた。食事は何もかもが贅沢で美味だし、衣服はエルドュ国から取り寄せた一級品だ。
果てにはドレゴニアには侍女がいないからと着付けまでされてしまって赤面した。あくまで下着姿であったが、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
出会いは処刑場、ロージーを妃にしたいと考えたのも良い香りがしたかららしいのに、朝から晩まで気づいたらそこにいるなんて聞いていない。
「貴女を眺めていられるとは、私はなんという幸せ者であろうか」
「愛いな、貴女は」
「もし嫌でないなら私の膝に貴女を乗せる名誉を与えてはくれまいか?」
あまりにもしつこい……もとい熱心過ぎるものだから、最初は拒んでいた触れ合いも許してしまったくらいだ。
そんな風にほぼ一日中ロージーに構ってばかりのグリヴィス王だが、為政者として見れば申し分ない人である。
番にご執心のあまり現を抜かすということもなく、ロージーを膝に座らせたまま、鋭い鉤爪で器用に書類を仕分けるなど公務に勤しんでいる姿を毎日目の前で見せつけられてはそのような懸念も湧いてこなかった。
そして彼の最重要の務めは、力の象徴として城に在ること。ドレゴニアでは最強こそがひれ伏すに相応しいとされているのだ。
他国からの侵略者やドレゴニア内での小さな反乱を、城の窓から咆哮を一つ放つだけで収めてしまうのは本当にすごい。
おかげでロージーの身の安全は守られている。
グリヴィス王が城内にいる限りは。
「さて、困りましたわね」
ドレゴニアではまだロージーの悪女としての噂は広がっていないようだが、他国からやって来た人間というだけで悪評が立つらしい。
王の傍にあるのを許されているとなればなおさら。
ロージーが王宮に滞在するようになって半年が経過した頃。
グリヴィス王が少々城を留守にした時を狙って、龍人の女たちがどっと押し寄せた。
やれ、人間のお前はグリヴィス様に相応しくない。
やれ、グリヴィス様に可愛らがられているからと調子に乗るな。
やれ、龍人の鼻をおかしくする毒でも使ってグリヴィス様を籠絡しているのだ、等々。
女どもは皆ドレゴニアにおける名家の姫らしく、自分が番に選ばれなかった腹いせにやって来たのだろう。
ここでもまた毒使い扱いか。自分はそれほど悪女に見えるだろうかと首を傾げるが、普段の言動がそれっぽいのかも知れない。
龍人と人の力量差は圧倒的である故に、暴力でひねり潰されれば到底敵わない。それがわかっていてもロージーは黙って嵐が過ぎ去るのを待つようなことはしなかった。
どうせ耐えても根も葉もない噂を流されるのは容易に想像できる。もしかすると、もう陰ながら囁かれているかも。
それならばはっきりと言い負かして否定してしまった方がいい。
――女のつまらない悪意に屈するなんて、もう二度と御免ですもの。
「グリヴィス陛下にお教えいただいたのですが、運命の番とは龍人族において魂に刻まれた存在だそうですわね? それをお間違えになるなど、よほどの無能でもない限りあり得ないのではなくて? グリヴィス陛下への侮辱のように聞こえてしまいますわ」
「なっ……!」
人間ごときが、とか、そんな言い方は卑怯だ、とか。
顔を真っ赤にしてギャアギャアとやかましく叫ぶものの、ろくな反論は思いつかなかった様子だ。
きちんと計画を練った上でロージーを陥れて見せた聖女マーガレットとは大違いのお粗末さ。あまりお行儀の良くない笑みを堪えられなかった。
無様に尻尾を巻いて飛び去る雌龍たちの後ろ姿を見送りながら、付け足しておく。
「今日のことはきっちりグリヴィス陛下にご報告させていただきますので」
逆恨みされて逆襲を受けると困る。釘を刺しておくに越したことはないだろう。
グリヴィス王の溺愛が加速してしまうような気がしたし、実際、「決して不自由がないようにすると宣っておきながら、申し訳ない」と謝罪されて今までより過保護になったが仕方ない。
「今後、私の外出時は必ず護衛を百人ほどつけるように――」
「丁重にお断りいたしますわね」
そんな風に言いつつも、グリヴィス王から向けられるまっすぐな愛情を悪くないと思い始めてしまっている。
突然誘拐し、国に連れてきてまで妃にしようとしたのはそれが龍人の習性だから。それどころか、この国での一般常識は番と見るや否や即結婚なので、こちらに選択肢があるのはこの上なく紳士的だ。
実は求婚された時、処刑されかけていた悪女をわざと引き入れて戦乱を巻き起こそうとしているのではないかという考えがよぎったのだが、彼の様子を見るにまずあり得ないだろう。
種族の差なんて関係なしに深く愛されているのだと、ひしひしと伝わってきた。
それに素直に向き合う気になれないのは、また裏切られるのではないかと思うと怖いから。
淑女の笑みをたたえながら強気に振る舞えども、心根の臆病さはそのままだ。ボロボロになった初恋の傷は未だ癒えていない。
今でもルカ王太子のことを夢に見てしまう。
彼は今頃、どうしているのだろうか――?
そう考えずにはいられない自分に、ロージーは呆れると共に嫌悪した。
「貴女に言っておかなければならないことがある」
溺愛というべき日々が続いていたある日。
いつも愛を囁くのとはまるで違う、求婚されたあの時と同等に真剣な声で告げられたロージーは、とうとうかと思った。
「何でございましょうか」
「聡明な貴女なら予想はついているだろう。祖国、エルドュ王国についての話だ」
やはり。
グリヴィス王の外出が増えていた時点で、その案件を処理しているのではないかと予測していた。だから驚きはない。
「わたくしの願いを叶えてくださいましたの?」
「ああ。貴女の父君……グラザリーユ公と手を組み、内政干渉にならぬ程度に聖女毒殺未遂事件を調査した」
それによって、毒は聖女マーガレット自身の命令で秘密裏に用意されたものであったことや、王家がそれを知りながら黙認、聖女と王子の婚姻によって大衆を味方につけようとの思惑でロージーの処刑を行おうとしたことなどが判明。
それを公に発表するなりエルドュ王家は激しく抗議すると共に周辺の同盟国に助けを求めたが、外交の要であったロージーを悪女と断じたのが裏目に出て、どの国もまるで見向きもしてくれない。
圧倒的な強さを誇るドレゴニアの後ろ盾を得たグラザリーユ公爵家はエルドュ王家へ真っ向から立ち向かったという。
結果として、ロージーの悪女としての汚名は払拭された。
代わりに聖女マーガレットが投獄され、国王は退位からの幽閉。そして――ルカ王太子は捕縛されそうになったところを逃げ出して行方不明、らしい。
しかし王族が平民に紛れて生きていけるとは考えにくいので、すぐに命を落とすに違いなかった。
「そう……ですか」
紫紺の瞳の奥に渦巻く様々な感情を見られまいとして瞼を閉じるロージー。
喜び、安堵すべきだとわかっているのに、うまく笑えそうにない。
「ありがとうございました。……もう孤立無援の中で処刑されることはございませんのね」
「当然だ。貴女を糾弾する者はおらぬだろう。いたとしても私が許さない。貴女が望むなら、今すぐにでもエルドュへ連れて行く」
「あら、それではまるで婚姻前の挨拶をしにいくかのようになってしまいますわ。外堀から埋めようたって、そうはまいりません」
グリヴィス王は提示した条件を叶えた。その上で、こんなにもロージーを想い、優しい言葉をかけてくれる。
いい加減に前を向かなくては不誠実にもほどがあるというものだ。
だから。
「わたくしはまだあなた様と同じ気持ちには至れておりませんのよ、グリヴィス陛下?」
幸か不幸で言えば、ずいぶんと幸せにされてしまった。
悪女の汚名も消えて名誉は取り戻されたわけだけれど――『付き合う』ことを決めた時の条件はまだ達せられていないでしょう、と。
あえて挑戦的な口ぶりで言ってやると、グリヴィス王が形のいい唇を楽しげに吊り上げながら頷いた。
「まったくもってその通りだな。外に出ればエルドュの者によって貴女に危害を及ぼされるかも知れぬと考え控えてきたが、今後はその必要もない。ドレゴニアを巡るようにして二人旅をしたいと思う」
初めてのデートへのお誘いを受けて。
翌日、ロージーはこの国に来て初めて城を出たのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
黒の鬣を掴み、龍に変化したグリヴィス王の背に腰掛けながら、思い切り風を浴びる。
眼下には美しい緑と街並みが入り混じるように広がっているのが見えた。
連れ去られた時は掌の中に囚われていたせいであまりいい思い出がなかったが、なかなか空の旅は心地いい。
「どこか行きたいところはあるか?」
「では、街に。ドレゴニアの文化に興味がございますわ。そのあとはグリヴィス陛下のおすすめの場所を選んでくださいませ」
「承知した」
そうして街のはずれに降り立った。
ロージーは少し質素な装いを、しゅるしゅると龍人形態になったグリヴィス王はフードを被って姿を隠し、街の中へ。いわゆるお忍びだ。
そうした方が面倒ごとに煩わされないで、心置きなく楽しめる。
と、思っていたら。
「この辺りに人気の菓子店があると聞いたことがあるからそこへ立ち寄ろう。その前に一つ聞いておきたい。――手を繋いでもいいだろうか」
「て、手を……ですの? ご冗談を」
誰も見ていない来賓用の部屋で膝に乗せられるのにはもう慣れた。
しかし公衆の面前で手を繋ぐなんて、考えただけでわなわなと震えてしまう。
――ルカとさえ、そんなことは一度もしませんでしたのに。
「『付き合っている』のだからおかしな行動ではないと思うが、貴女が嫌ならやめておく」
そんなことを言うくせにフードの中から覗く表情はなんだか残念そうで、それがとても憎たらしい。
その顔をされたら許すしかなくなってしまうではないか。
「……っ、わたくしの力では抵抗したところであなた様には敵いませんわ。お好きになさいませ」
ぷいと目線を逸らしながら掌を差し出すと、「本当か?」と躊躇いがちにグリヴィス王の手が重ねられる。
鋭い鉤爪があるはずのそれが少しも痛く感じなかったのはロージーを傷つけまいとしてくれているのだと、見なくともわかった。
触れ合う手の感触に、胸の鼓動がどくんと跳ね上がってしまうのは、仕方のないことだった。
それから向かった菓子店でも、お互いの口にスプーンを突っ込むいわゆる「あーん」をしたいと言われて困らされはしたが、やはりいつも通りにこちらの意思を尊重してくれて。
悔しいけれど、本当に悔しいけれど――嬉しくないわけがない。
口の中が甘いのは、ドレゴニア特有の梨のスイーツが美味であるからなのか、喜びからなのか、どちらだっただろうか。
デートの中で、彼の様々な一面を知れた。
民たちの生活水準が高く、平民には貧素な暮らしが強いられていたエルドュと違って喧嘩やら強奪などがどの場所でも見られない。
「他では見たことがないほど治安がよろしくて、驚かされますわ。ドレゴニアは平和ですわね」
「いや、かつては内紛が絶えない国であった。強さを至上とする故、致し方がなかったのだ。しかし私は争いを好まぬ小心者なのでな。上層部の争いを減らすことが民の利に繋がったらしい」
誇るというよりは偶然そうなった、という感じの口ぶりで言ってのけるグリヴィス王。
優秀な為政者だと思っていた認識を改めなければならないだろう。彼は無自覚な賢王なのだ。
番は断りなしに攫ってくるし、頼み事ばかりだし、公衆の面前で手繋を求めてくるような王だけれど……知れば知るほど欠点がないように見えてくるから不思議だった。
彼になら身を任せてもいいかも知れないと、そう思えてしまう。
菓子店のあとは、二人でぶらぶらと街を歩く傍ら、買い物をして過ごした。
龍人族にのみ伝わる舞踊の鑑賞に興じたあとは街を離れ、静かな川辺で休んだり、ドレゴニア唯一にして最大の花畑に圧倒されたり……。
気づけばすっかり夕暮れ時になっていた。
風に揺れる美しい花々を背に佇むグリヴィス王は、美しいという言葉では言い表しきれない輝かしさを放っている。
彼は牙を覗かせて小さく笑った。
「今日はここまでだな。私の思い違いでなければ楽しんでもらえたように思うが、どうだっただろうか?」
「ほどほどですわ」
「それは良かった。……本当に」
ドレゴニアは広いから一日では回り切れていない。
日を跨ぎ、じっくりと時間をかけながらデートはまだまだ続く。
『付き合う』期間の終了を迎える、その日まで。
毎日があっという間に過ぎて去っていった。
たまに城へ帰ったり、お忍びにはぴったりな質素かつ上品な宿などに泊まったりの日々を繰り返しながら、デートをめいっぱい満喫してしまったように思う。
グリヴィス王の愛を一心に受け、優しい言葉と行動でどろどろに甘やかされて。
ツンとした態度を取り続けるのも、もう限界かも知れない――。
そして迎えた、期限終了一日前。
あとは心を決めるだけ。だから……やっと薄れかけてきた初恋の痛みなんて、忘れていたかったのに。
「ロージー? ロージーじゃないか!?」
夜、宿のテラスで、今までのデートをゆっくりじっくり噛み締めるように思い返していたロージーは。
唐突に聞こえてきた懐かしい声を聞いてハッと顔を上げた。
――なぜわたくしの名を?
グリヴィス王の声ではないのは明白。そしてドレゴニアではロージーを知る者は決して多くない。
疲れ故の幻聴と断じることもできた。
さっさと宿の中に戻ってしまえば良かったのだ。しかし思わず声の発生源の方を見てしまった。
宿の塀の外、薄汚れた男が月明かりに照らされていた。
綺麗にすればさぞ美しいだろう金髪は泥だらけで、装いも見るに耐えないボロ。そんな彼は青い瞳でロージーを見上げている。
ずきり、と胸が痛む。
そんなはずはないと思った。けれども髪も瞳も声も、ロージーの知る人とあまりに酷似していて。
「――ルカ?」
口の中だけで呟いた言葉は、かろうじて彼に届いたらしい。
彼の顔がパッと笑顔になった。
「そうだ、ルカだよ。ああ、やっぱりロージーなんだね。こんなところにいたのか、ずっと探していたんだ」
ロージーは、グリヴィス王から聞かされた彼の顛末を思い出す。
投獄されそうになって脱走。どこかで亡き者にされている思い込んでいたし、まさか目の前に現れるなんて予想もしなかったが……あり得ないことではない。
そう思えても、事実を呑み込めるかどうかは別。呆気に取られるロージーの理解を置き去りにして、彼……ルカ元王太子が話を始めてしまう。
「すまなかった。本当にすまなかった。聖女マーガレット嬢が口にした『神のお告げ』があったとはいえ、事実の裏取りもせずに君を裏切ったことを深く悔やんでいる」
「………………」
「僕の目は曇っていた。聖女を王家に取り入れようだなんて愚かな考えのせいで君の大切さに気づけていなかったんだ。ロージーは僕にとって自慢の婚約者で、家族同然だった。
真実が明るみになって、どうしても謝らなければいけないと思った。目の前で龍に連れ去られた君のことがずっと心配で心配で、夜も眠れなかったくらい」
とろけてしまいそうな甘い声は耳をすり抜けていくようだった。
ロージーは確かに彼を恋慕っていたはずで、今だって本当はテラスの柵を越えて駆け寄りたいくらいには、再会の喜びとのこのこと現れたことへの怒りで感情がぐちゃぐちゃになるのに。
「凶悪なるドレゴニアの王に一年も囚われ続けて、怖かったろう。こんな情けないナリの僕だけど、せめてもの贖罪に君を救いたい」
どうして。
「どうか、僕と一緒に来てくれ」
――どうして、こんなにも薄っぺらく感じてしまうのかしら。
婚約破棄されたから? 処刑場で笑われたから?
それもある。だが一番大きいのは、グリヴィス王から向けられる優しさを知ってしまったからだろう。
どれだけ耳心地のいい言葉で取り繕っても、まるでこちらへの思いやりが見えない。
救いたいなんて言いながらルカ王太子の目が語るのは、ロージーさえいれば自分が救われるとでもいうような、縋るようなもの。
そうか、彼はこんなにも独りよがりで、どうしようもない人間だったのかと思った。
胸の奥に秘めていた想いが、すぅぅ、と熱を失う感覚。
長年の恋が醒めるのは本当に一瞬だった。
「あの龍に見つからない遠くの地へ行こう。そこで二人で暮らすんだ。最初こそ飾り気のない日々だろうけど、全力で頑張るからさ。だから――」
「お黙りなさい」
可能な限り冷たい声で、ぴしゃりと言い放つ。
もう胸は痛まなかった。
「ルカ、いえ、エルドュ王国の行方不明の元王太子を自称する、どこの誰とも知れない御方。
確かにわたくしはロージー・グラザリーユですわ。ですがあなたに名を呼ぶことを許した覚えはございません」
「ロー、ジー……?」
「たとえあなたが何者であったとしても、グリヴィス陛下への不敬極まりないご発言をなさる方の手を取るなんて論外でしてよ」
何も知らないくせにグリヴィス王を悪と決めつけているなんて、反吐が出る。
ロージーに屹と睨まれたルカ元王太子は、それまでの勢いを失って目をぱちくりとした。
否定されるなんて思ってもみなかったらしい。
「待って、待ってくれ。悪かった……悪かったから。ドレゴニア国中を探し回ってやっと見つけたんだ」
「ますます不快ですわね。それほどわたくしが必要でしたの?」
「君がいなくなったのが全てのケチのつき始め。君さえいれば僕は成功するはずなんだよ。この国にいてもいいことなんて何もない。君だってそうだろう? どうしてあの龍を庇う。あんなおぞましい化け物を!」
ルカ元王太子が叫んだ、その時だった。
おぞましい化け物――彼がそう呼んだ相手が、姿を見せたのは。
「騒々しいと思って出てきてみれば、見知らぬ男が貴女を糾弾しているとは思わなんだ。一体何事だ?」
闇より深い黒髪のその青年が誰なのか、ルカ王太子はわからないに違いない。
故にロージーは、あえてとびきりの笑顔で名を呼んだ。
「グリヴィス陛下! ご心配には及びません。テラスにて考え事をしておりましたら、突然この方が声をかけていらっしゃっただけですの。何をおっしゃっているのかよくわかりませんでしたが」
「そうか。貴女が不届者に襲われているかと思い、肝が冷えた」
「もう中に戻りますわ」
グリヴィス王と言葉を交わす傍ら。
「グリヴィスだって……? まさか、こいつが」と驚愕と絶望を同時に味わっている不届者を振り返り――とどめを刺した。
「つまらない妄想は捨てなさいませ。わたくしはとっくに満ち足りていますのよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
もう憂いは何もない。ルカ元王太子がどうなろうと、赤の他人なのだ。
思えば婚約破棄された時からずっとそうだった。ロージーが初恋に別れを告げた、ただそれだけなのだから。
そしてグリヴィス王と『付き合う』のも今日で終わり。
ようやくドレゴニアをくまなく巡りきった期限最終日のデートのあと、グリヴィス王がロージーに向き直った。
「貴女と過ごして一年になるな」
「ええ」
「旅の中で……いや、それ以外の場でも散々伝えたが、改めて言おう。私は貴女を娶りたいと思っている。運命の番だからというだけではない。貴女を心から愛しく思う故だ」
貴女の答えを聞かせてはもらえぬだろうか。
恐る恐るといった様子でそう問われ――ロージーの答えは一つだった。
「あなた様は全ての条件を叶えてしまわれました。わたくしの完敗です」
はっきりと言葉にできないのは、強がる悪癖が抜けないせい。
でも、そんなところも愛してくれるから、好きになってしまったのだ。
「貴女を我が妃とし、一生をかけて守り抜こう」
「誓いの証をいただけたなら信じて差し上げますわ」
「ああ」
優しく抱きしめられると同時、熱を帯びたエメラルド色の瞳を輝かせるグリヴィス王の顔面が迫ってきた。
そのまま柔らかなものが重なり――誓いの証は成されたのである。
余談だが、鋭い牙が軽く触れて少し痛かった。
まもなく龍王妃となったロージーは、人間を嫌悪する龍人たちからの反発と批判の嵐を受けながらも上手く立ち回り、他国との外交などで活躍、賢妃として広く知れ渡る。
その傍には常にグレヴィス王がいて、彼女を溺愛し、守り続けたのだった。
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