凶弾
「聖アリギエーリ高等女学校の洋食は本当の『西洋料理』だからね。日本人の味覚には合わないさ」
もりもり食べるすざくを楽しそうに見ながら、唯依はそうつぶやく。
「なんだろう――旨味というやつかな。鰹節とか昆布とかそういったもので感じる味覚。化学の世界でも研究が進んでいるようだけどね。もし、旨味の調味料ができたらどんな食べ物でも美味しくなるかもしれない」
唯依がうんちくを傾けている間に、すざくは完食する。
「じゃあ、デザートにしますか」
唯依の言葉に、さらにすざくは表情を輝かせる。
テーブルに運ばれてくるのは、白いこんもりとした山――アイスクリームである。冷蔵設備がまだ未発達な時代、氷菓子は贅沢の象徴である。まして、その材料が牛乳と砂糖とあっては――
ドキドキする胸を抑えながら、そっとスプーンを差し込もうとした――次の瞬間テーブルが跳ねた。
チュン!という衝撃音と、光。気がつけばすざくはスプーンを抱えたまま、唯依に押し倒されていた。
ぎゅっと唯依の体がすざくを抱きしめる。突然のことに、混乱するすざく。その耳元に一言、唯依がつぶやく。
『狙われた』と。
数分後、レストランの中はざわついていた。二人の座っていたテーブルには穴が空き、その周りには焦げも見える。
明らかに、『銃弾』の後である。口に運ぶ機会を逸したソフトクリームが床にベタッと転がる。
「電話を貸してほしい」
軍服姿の唯依はそういうと、奥の支配人室の電話を手に取る。発電機を回し、交換手を呼び出そうとするが――その回線はすぐに途切れる。
うんざりとした顔で、受話器を置く唯依。名刺を支配人に渡し、陸軍参謀本部に連絡するように告げた。
不安そうな顔のすざく。そんなすざくの顔を唯依は手袋越しに、そっと撫でる。
「大丈夫。だいたい予想はついている」
なるべく建物の影を歩く、二人。
「あいつは高いところから狙っている。大丈夫。狙われているのは僕だから」
また、地面が跳ねる。
間違いない。狙撃されているのだ。この帝都東京の繁華街の中で――
「跳弾や流れ弾で一般の人が怪我をしては大変だ。元凶を早速捕まえさせてもらう」
「こんなことされる――心当たりがあるの?」
すざくの問に、唯依はこくんとうなずく。
「ロシアに居た頃から、しつこく僕を狙っていた魔法少女さ。名前はユーリヤ=スヴォーロフ。別名、赤い真珠という名の狙撃兵さ――」




