事件の終り、そして
「唯依!」
唯依が眼下に聞こえる声。それは間違いようもない、すざくのものであった。
ゆっくりと羽をたたみ、地面に着陸する。
まるで飛びつくようにすざくが唯依に飛びつく。それを唯依はまるで抱きつくように、受け止めた。
「帰ってきたよ」
そういいながら、唯依はすざくを抱きしめそっと宙に舞う。
普段は怖がりなすざくも、一つの戦いが終わった開放感からか興奮しながら一緒に踊る。
「葦原特佐どの」
そんな楽しそうな二人をまるで中断するがごとき、男性の声。
思わずすざくは我に返る。
「伊集中佐、任務ご苦労」
そういいながら、唯依はすざくをだきしめながら敬礼する。
敬礼を返す伊集中佐。
ふっと、すざくは先程の言葉を反芻する。『葦原......特佐』?その上、どう考えても偉そうな軍人が、唯依に対して明らかにへりくだっている。
「唯依さまは現役の軍人であります。階級は特別佐官ということで、特佐と。大佐待遇です」
もう一人の少女の声が上からする。
結構ぼろぼろになりながら、ゆっくりと舞い降りるやさかであった。
「私もですがね。魔法少女は自らの利害とその時の政権の利害が一致した場合、体制側に組み込まれることもあります。維新の際、私も唯依さまも新政府側に加担し、現在では日本陸軍に奉職している次第です。嬉河季代のような、社会に動乱をもたらすような魔法少女と戦うには――」
そう言いながら、校庭の黒く焼けた部分をやさかは見つめる。そこは、季代が落下したところの跡である。そこに、彼女の姿はなかった。まるで蒸発したかのように――
すざくはやさかの説明をゆっくりと頭の中で咀嚼する。
維新。明治維新。学校で学んだ。祖父が話をしてくれたこともある。その祖父は昨年亡くなった。
『維新の際、唯依が新政府側に』
明治維新はもう半世紀前の出来事である。維新の立役者もほぼ、鬼籍に入りその後の新政府の成立に尽くした元老たちも高齢化が進んでいる。
ごほんと咳払いをする伊集中佐。この人は五十歳くらいだろうか。その年令ですら、戊辰戦争の記憶はあいまいであろう。
「魔法少女はね、時間の波を超えて生きているんだ」
そっとすざくの耳元で唯依がささやく。
ひぃっ!、とすざくは耳の感覚に驚き、震え上がった。
「唯依さまは私の二倍、魔法少女としての人生を歩まれていますから」
やさかの何気のない一言に、さらに混乱するすざく。
「少し、散歩でもしようか」
すざくを抱きしめながら、唯依はすうっと空中にあがる。
足から地面が離れる感覚――すざくは怖さのあまり唯依にすがりつく。
下に小さく見える聖アリギエーリ高等女学校。
すざくは少し不安に感じる。
これから、一体どのような学生生活が始まるのかという不安と、そして――
第1章 聖アリギエーリ高等女学校【完】




