あまりにも短い裁判は、終りを迎え
ザワザワと判事役の生徒たちがざわめく。それを足を組みながら季代は見下ろす。普段のお淑やかな仮面を脱ぎ捨てて、今はこの場の支配者たる威厳を放っていた。
「この女学校内に不穏の兆しありとの報告が、わがヴィヴォンヌ集会にありました。それはその――生徒唯依が本校に転校してからのことになります。検事やさか、生徒唯依の前歴を教えてくださる?」
は、と検事やさかはかしこまり帳面を開く。
「葦原唯依。本校に転校する以前はロシアのウラジオストクに居住。外交官である葦原男爵の仕事で二年ほど、現地日本人学校にて教育を受ける」
「ロシア――彼の地では革命の嵐が吹き荒れ、内戦がいまだ続いていると聞いていますわ。なんと野蛮なこと」
検事やさかの報告に季代はまゆをひそめる。
「検事やさか、当地ではさぞかし危険な思想がまん延しているのでしょうね」
「言うまでもなく。ボリシェビキを筆頭として、未だ過激なテーゼを掲げ共産革命運動をロシア全土に広めようとしている状態です。その予防の一環として我が国が数年前よりシベリア出兵を行っているわけですが」
「と、すれば我が国は彼のボリシェビキ政権からみれば敵国というわけですね」
「いかにも」
「よろしいですわ。最終弁論をおこないなさい、検事やさか」
沈黙があたりを支配する。後ろ手を組みながら、ゆっくりと唯依のまえに歩みを進める検事やさか。そして、直立不動に姿勢をただし、大きな声で宣言する。
「被告葦原唯依、以上の証言によって以下のことを確定する。我が国の動乱を望んだロシアの陰謀に加担し、その魔法少女の力によってこの女学校内に動乱を起こそうとした。生徒大前のどみの殺人はその嚆矢である。それと同室の被告物巾部すざく。その事実を知りながら隠蔽すること、許しがたい、よって――」
「このようなことを学外に漏らすわけにはいきませんわ」
検事やさかの弁論をあえて、季代は遮る。
「華族の子女のみが通う、この女学校でこのような不祥事があったなんて――口の端に登ることすら許しがたい。そうでありましょう、伊集中佐」
無言でじっと奥の伊集中佐は軍刀に身を預け、様子を傍観する。
頷く季代。
それが、検事やさかへの合図であった。
それまで、『検事』であったやさかは、この瞬間に『執行人』に姿を変える。
この一件をなかったことにするために。
二人をこの女学校から抹消するために。
いつの間にか検事やさかは背中から、長い太刀を取り出し構える。その次の瞬間、彼女の姿が消える。
はっとして上を見るすざく。そこには銀色の長い刀身が目の前に迫ってきていた――




