魔法少女裁判
「『魔法少女裁判』を開きたいと思います」
全生徒に向け、季代そう呼びかける。
全生徒が並ぶ講堂。プロイセンの王宮に擬されたその講堂の壁や天井には、季代の麗しい声が響き渡った。
あの事件から数日、緊急の全校集会が開かれる。主催は学校長ではなく『ヴィヴォンヌ集会』によるものだった。
「数日にわたる捜査の結果、外からの侵入は皆無ということがわかりました。ならば――」
少しの沈黙の後に、季代は再び演説を始める。それを無表情で見つめる教員たち。ヴィヴォンヌ集会会長代理には、教員たちをも黙らせるほどの権力があった。
「この校内の生徒ということになります。しかし、ここはやんごとなき身分の子女のみが集う女学校。官憲とはいえ、男性によってこの学校が踏み荒らされるのは忍び難いことです。よって、許可を取り付けました。我々生徒によって真犯人である『魔法少女』を見つけ出し、裁きの鉄槌を下すと!」
ざわざわと響き渡る声。あまりのことに、言葉を失い気が遠くなる生徒もいた。
「魔法少女裁判――古の作法にのっとり、だれが魔法少女かをはっきり――」
「意義あり」
抑え気味ではあるが、凛とした声が季代の朗々たる演説を遮る。
すざくは自分の隣の席を見る。そこには右手を挙手して、すっくと立ちあがる唯依の姿があった。
「失礼ですよ!」
そう進行役の生徒が注意する。それを季代は逆に手で制し、じっと唯依の方を見つめる。
「いいでしょう。我が学園も、原内閣にならい、そろそろ民主主義とやらを導入する頃合いでしょうから。意見を表明する権利。聞きましょう。四年生生徒葦原唯依さま」
そう赤い扇子で唯一立っている唯依を季代はさししめす。それが発言許可のサインであった。
唯依はゆっくりと話し始める。
「会長代理は外部の侵入はないといったが――」
ごくりと唾をのむすざく。
「犯人が『魔法少女』であるとすれば、高い塀も、格子窓も造作のないことでは
?むしろ侵入した形跡がないことが、外部の『魔法少女』の犯罪であることを示しているのでは」
ざわざわと再び場がざわめく。
教員の一人が立ち上がり、何か声を発しようとするがそれを季代は扇子で押しとどめる。
「なるほど、それもひとつの味方ですわね。今様の探偵小説さながら、浪漫あふれる推理でございます」
意にも介さないように、そう季代は切り返す。
「さらに言えば、最近の探偵小説ではこのようなことをおっしゃってよ。『探偵の提示した事実を否定する者が真実の犯人』であると。唯依生徒、墓穴を掘ってしまったようですね」
「ちがいます!」
それは唯依の声でも、季代の声でもなかった。
それは――すざくの大きな声。
生徒の視線がすべて彼女に注がれる。
「葦原さんは、殺してはいません!その日の夜、ずっと部屋にいました!私はそのことを覚えています!」
無言のまま、そんなすざくを見つめる唯依。一方、笑みを漏らしながら季代は口を開いた。
「そういった様々なことをはっきりさせるのが、『裁判』です。古式のひそみに倣い、『魔法少女裁判』を開廷します。裁判長は私、異存はありませんわね?」
教員の側を見下ろす季代。生徒の意見に否はない。
もう一度微笑む季代
じっと震えるすざくを唯依は、ただ見つめていた――




