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RE・VERSE  作者: 夏
2章 命のアースランド編
9/14

王の証

 王の証


乱れていた息を整え、脱力もなくなったことを実感した俺はゆっくりと立ち上がる。

とは言えまだ少し体が重かった。

さすがに疑問に思って声に出していた。

「…………封印が解けた…のか?」

「そのようです。キリング殿の言っていた神殿の色ですし……」

「入るか」

「は」

開いた扉を見つめて神殿に入った。

入るとすぐに小部屋に通じていた。

小部屋は入り口と奥に通じる扉のそれぞれの大きい扉が向かい合う形で配置されているので奥に通じる扉を開いて奥に進む。

神殿の中は明かりの魔導具と日光で明るかった。

二つ目の扉を過ぎるとそれなりに広い間があった。広い間には円卓上のテーブルと5脚の椅子が並んでいた。

そして壁には入ってきた入り口とは別にそれぞれ六つの扉があった。

右奥に赤い扉。右手前に青い扉。左奥に白の扉。左手前に黄の扉。奥の壁右側に黒の扉。そのすぐ横の左側に緑の扉があった。

当然だがそれぞれの扉には案内板がある。

この扉の色はそれぞれの賢者の城の色に基づいている色だ。


白は智の賢者。時空と空間の力を持つ。

青は命の賢者。水と大地の力を持つ。

黄は動の賢者。風と空の力を持つ。

赤は力の賢者。炎と氷の力を持つ。

黒は全の賢者。生命の力を持つ。

緑はこの神殿と地上のニブルヘイムと中立を意味する。


「黒の扉の向こうに神殿の制御装置部屋があるはずです。そこへ向かえばご負担が軽くなるはず」

「それが先だな。少し重く感じる」

それぞれの扉の向こうにはそれぞれの賢者のための空間が用意されているらしかった。

おれはその六色の扉の内の一つ黒の扉に入った。

この黒の扉の向こうは他の扉の先とは違うところが一つだけある。

神殿の魔導設備を確認することができる部屋があるという。

神殿を維持するのが全の賢者なので当然の設備だろうと俺は思った。

黒い扉を開けてすぐに多き目の広い部屋に出るとその部屋から通じるいくつもの扉を見た。

少しその部屋を散策すると奥のほうに階段を見つけた。

「瑞穂はここで待っていてくれ」

「うん」

侍女と瑞穂と護衛を置いて階段に向かう。

その階段を上がると三つの扉のある部屋に出る。

奥のほうの扉を開けるとダダ広い部屋にテーブルソファ一式と奥のほうに天蓋の付いたベッドを見つけたがこの部屋には用がないので閉じる。

手前の扉を開けると階段がありそこを上ると一つの大きな水晶が部屋の中央に置かれてあった。

「この部屋だな」

その水晶に手のひらで触る。

すると軽く光ると目の前に半透明な板のようなものが現れた。

その板に開いていたほうの指で触れた。

無機質な感触でそこに存在しているのは確かなのだが透明らしく指が突き抜ける。

「ゲーム画面みたいだが不思議な感じだな」

「げーむ?」

「異世界の遊びだ」

言いながらも俺はその板に示される一覧から消費を抑える設定を行った。

最後に確認画面が出たので了承して閉じた。

するとその直後に体を襲っていた重さがなくなる。

「軽くなったな…」

「それは良かったです」

部屋から出ると最後の扉の内部を見たラルフが呟いた。

「この部屋はマスタールームのようですね」

「そのようだな」

釣られるようにラルフの開けた部屋を見ると最初の部屋よりも幾分か豪華な装飾が施されていた部屋だった。

扉を閉めたラルフは向かい側にあたる扉を見つめた。

「レイヤ様のお部屋はあちらという事になりますね」

「…………そうなるか」

「御不満で?」

「…………いや、あまり広いと落ち着けないかもと思っただけだ」

俺は頭を掻いた。

「クロノス城でも少し小さめのお部屋でしたね」

「向こうでは至って平民だったからな。帰ってきたときも慣れるのに大変だった……」

そう言いながら階段を下りて瑞穂たちの居る部屋に戻ってきた。

降りてきた俺たちに瑞穂は聞いてきた。

「どうだった?」

「心配いらん。負担は軽くなったからな。上の階はどうやら賢者と後継者用の部屋があった」

「それだとレイヤの部屋は上の階ってことになるのね」

「ああ」

「トレーシア。部屋のクリーンは完了しているようだな」

「はい、上の階にもクリーン魔法をおかけいたします」

「頼む」

「クリーン魔法って確か、生活魔法っていうお掃除魔法よね?」

「ああ」

「あれって便利そうだけど誰でも習得できるって本当?」

「そうだな、着火魔法トーチなどと一緒で生活魔法は魔力さえあればだれでも習得できるものだな」

「私でもできるようになる?」

「魔力を発露すればな」

「発露?」

「瑞穂はまだこの世界に馴染んでいないらしくて発露していない。もう少し時間がかかりそうだな」

「そう……」

俺は沈んだ瑞穂の隣に座って頭を撫でる。

「………そんな顔するな。少し馴染むのに時間がかかっているだけだ」

「発露しなかったらまずいの?」

「………そうだな。少し厄介になるかもな」

「何か不都合なのよね?」

「……………。瑞穂と関係を持てなくなる……かな」

「え…?」

「ライヤ様のお話では発露しなければミズホ様がレイヤ様の御子を儲けることができないので後継者を持つためには側室を持たざるを得なくなります」

そうラルフが補足した。

「気にするな。先の話だし、それに瑞穂の心と決意次第だから発露しないわけじゃない」

俺は宥めようとして瑞穂の掌にキスをした。

「でも……」

「瑞穂。後継者は確かに大事だけどそれ以上に俺にとって瑞穂は大事だから不安に思う必要はない。子ができる相手だったとしても後継者が生まれるかどうかは確実ではないんだ」

「………………」

「瑞穂が瑞穂らしくあれば大丈夫。自分を信じなくてどうするんだよ」

「うん」

ふたりでほっこりしていると上の階にいた侍女が降りてきた。

「トレーシア。兄貴に頼んで人を呼ぶようにしてもらうからそれまで無理はするな」

「はい、心使いありがとうございます。早めにお願いいたします」

そう言っていたら円卓の部屋がにぎやかになっていた。

「早速だれか開通を知ってきたらしいな」

俺はそう言ってラウルを連れて円卓に向かった。

円卓の部屋に入るとそこにはライヤがいた。

「兄貴」

背後には数名の侍女を連れていた。

「通じたのを確認したんでな。侍女一人では片付かないだろうと思って連れてきた」

「助かるよ」


そうして連れてきた侍女たちの手で二十年封印され放置されていた神殿内部は隅々まで綺麗に整えられた。

とは言え、時間も封印されていたらしく中にあった家具や寝具なとの状態は非常によく交換することもなかったという。

神殿内部も一息ついたころもう一人、賢者が神殿開通を知ったのか来訪があった。


力の賢者・エンドルフ=フリージオ。その人だ。

彼は今年三十五歳で賢者として即位してからまだ十年しか経っていない賢者でライヤ以外では唯一健康な賢者だ。

力の賢者は元々その能力から病に打ち克つ力を持っていてかかりにくい賢者だ。

そして歴代でも熱血漢が多い賢者だ。

彼もまた熱血漢で有名だ。

代々で赤い髪の青い目を持つ賢者だが、絵にかいたような筋肉隆々の体を持っているせいか威圧感もかなりのものだ。


「おお、レイヤか。再生したという話は側近から聞いていたが会うまでは信じられなくてな。良かった、良かった!」

そう言って俺の背中をバンバンと叩いて大笑いしてきた。

そんなエンドルフをたしなめたものが背後にいた。

「彼には我らの記憶がないと伺っております。そんなフランクではいけません!」

「そうなのか。それは大変だったなあ!」

「お久しぶりですね。エンドルフ殿もお変わりはないようで安心しました」

そう言ってきたのがライヤだった。

「いやいやここ近年ではわが国でも病もちが増えてきていてな。私は何も問題はないのだが少々困ったことに妃が倒れてしまってな」

「え。妃といえばエリザベート様が?」

「ああ」

「それで今回、レイヤ殿に癒してもらいたくお願いに来たのです」

「でも、俺はかの国にはまだ行けませんよ?」

「心配いらん。今回一緒に連れてきているのだ。頼めるか?」

「今の自分は再生前ほどの力はありませんがそれでもよろしいのですか?」

「それについて問題はないでしょう。先代の智の賢者殿と同じ病ですので。お話には伺っております。先代の病をいやされたという事は」

「…………同じ病?」

俺は思わず聞き返した。

「はい」

俺はライヤと目を合わせた。

父の先代王を癒したのは事実だが少々曲がった事実が伝わっているらしいことを知った。

先代王の病を俺は癒したわけではない。

先代王の病は抵抗力が失せていく特殊なもので抵抗力の弱くなった体に既存の病が重症化する病だった。

俺はその抵抗力が失せていくことを止めただけなのだ。

後は流通している薬湯などで治った。それが真相である。

これもある意味で全の力が不足しているからこそ起きた病なのである。

「エンドルフ様は何か勘違いをなさっている」

俺はそう切り出した。


俺は簡潔に自分の癒しで王が完治したわけではないことと一時しのぎの処置であることも明かした。


「それでもいい。妃の苦しい姿はもう見ていられないのだ」

「わかりました」

「それに、貴殿が賢者として即位すれば妃も先代も完治するのであろう?」

それは俺にも答えられなかった。

「はい」

かわりに答えたのはライヤだった。

「善処は致します。治療薬はお持ちなのですね?」

「もちろん持ってきているぞ」

「では早速こちらへ」

側近らしきものの案内で赤の扉をくぐった。


案内された部屋に赤い髪の貴婦人がベッドに荒い息を吐きながら意識なく横たわっていた。

力の賢者の血筋は基本的に炎の力のおかげもあって病知らず、である。

炎の力があらゆる病を燃やし尽くし根絶してしまうからだ。


全の力の弱体化はその持っている力をも弱めてしまう。故に高能力者ほど力不足から抵抗力が失われていく傾向がある。


俺は早速その女性の額に右掌を当てる。

集中して体内を精査する。


力を注いで全身を活性化させていく。

途中で貴婦人が目を開けた。

「動かないで」

「………レイヤ王子…?」

さすがに驚かれた。

声を掛けられたせいなのか集中が途切れそうになり眉根を寄せて眼を閉じる。

その状態に気がついたエンドルフは妃に声を掛けた。

「声をかけてはいかん。終わるまで静かにしていろ」


しばらくその状態を続けた後、俺は不意に額から掌を外した。

直後にめまいを感じて、ふらつきを抑えようとそのまま自分の額に手をそえた。

軽く息が上がった。

背後からラルフが支えてくれた。

「無理はいけません」

「心配いらん。でも少し、力を使いすぎたらしい。悔しいな。前なら三人同時に治療してもふらつくことなんてなかったのに……」

「レイヤ王子……」

「後は薬湯を飲んで二、三日様子を見たほうが良い。落ち着くまでは安静にしていたほうが回復は早いだろう」

「ありがとう。本当にありがとう!」

エンドルフは感極まったのか俺の手を握って頭を下げてきた。

「抵抗力を上げただけですので油断はなさらずに」

「わかっている。それでも妃が一週間ぶりに目を覚ましたというだけでも有難いのだ」

背後の側近らしきお供の者が声を掛けてきた。

「感謝の品を考えておりますが何か望みはありますか?」

「それは要らないから一刻も早い水晶の収集をお願いいたします。水晶が集まらなければ再発もあり得ますので」

エンドルフが真剣な顔をした。

「うむ。聞いたな?」

「は」

「エリザベートの再発を防ぐためにも収集に力を入れるようにな」

「了解です」

「収集に協力は惜しまん。わが国に来訪の際には息子にも手伝わせよう」

「そう言っていただけるとありがたいです」


しばらくして力も幾分マシになったのでラルフの手を借りずに赤の扉を後にして移動した。


移動した先には瑞穂がソファに座っていた。

そんな瑞穂を構うほど体調は良くないので隣に落ちるように座った。

「玲也?」

「ん……」

強い脱力感から受け答えが雑になった。

「大丈夫?」

「……大丈夫。ちょっと力を使いすぎたらしい。少し休めば治るから気にするな」

「もう少しでお部屋の準備が整いますので少々お待ち願えますか?」

瑞穂の近くにいた侍女がそう言ってきた。

「大丈夫。待てないほどではないからな」

そう言って待っているうちに少し早い夕食を終えた俺だった。

そのまま準備の終えた部屋に戻りその日は休んだ。



その日の夜、俺は久しぶりに夢を見た。正確には覚えている夢を見た、だ。


狭い石造りのらせん階段を上がっている自分と先行して案内するようにしてらせん階段を上がっている金髪の中年男性がいた。

ラインハルト叔父上だった。

案内されるままに上がっていったその先には簡素な扉が見えた。

だが俺の目からはかなりの防御魔法が施されてあるのか見た目は簡素だったが資格のあるもの以外では弾き返されるほどの厳重さがうかがえた。

「王よ。ここは?」

この階段。玉座の裏手にある階段だったのは意外だった。

階段の入り口も隠蔽魔法が掛けられていたのだ。

こんな階段があることも城の主だったものは知らない階段と思われた。

「ここが全権の間だ」

「ここが…!」

ラインハルトは頷いた。

「掌をここへ」

促されるままに扉の中央にある丸い魔方陣に手を当てる。

それだけで力が反応した。

魔方陣は輝き収まると鍵があいたのか封印と思われる術式が外れた。

ラインハルトは扉のノブに手をかけ扉を開けた。

「!」

ラインハルトは部屋内に入る前に部屋内の状況を見て驚いていた。

「王?」

「驚いたな。私の時には小さなナイフ一本だったのに…」

「?」

俺は意味がよく分からなかった。

「この部屋は開錠した者の力に反応して封印が解ける仕組みになっているのだが、初めて入った後継者には世界に認められた証として王としての証の武器が顕現するのだ」

「王の証の武器……ですか」

「ああ。それぞれの王や後継者によって形や大きさ、黒の色の深みも様々だ。そのものにとって最も使いやすい武器の形になるという」

ラインハルト王はそう言って何も持っていなかった手のひらから一本の小さなナイフを召喚して見せた。

そのナイフは黒というよりも灰色で手のひらサイズの小ささで果物ナイフに近い大きさだった。

「私の王の証だ」

俺はそう言って室内に入ったラインハルトに続くように部屋に入ると、部屋の中央には大きな等身大の長さの柄のある鎌が宙に浮かんでいた。

その鎌は全てが漆黒で出来ており俺はその存在感に畏怖を感じた。

「伝承に伝わる初代の鎌もこのような鎌だったのだろうな…」

ラインハルトは感心していた。

「お前の物だ。手に取れ」

「………はい」

俺は鎌に近寄り、柄に触れて握った。

「…………重さを感じない……?」

そう、鎌は空気のように軽く感じた。

入り口に立っていたラインハルト王は満足気に俺を見ていた。

動く気はないのを見ておれはその場で鎌を大きく振り回してみた。

やはり重さは感じなかった。にもかかわらず武器としての性能は桁違いなのか軽く振り回しただけなのに空気を切り裂いてしまったのに気がついた。

「すごい………!」

「その武器はお前と一つになっている。仕舞うという意識一つでいつでも体より取り出せる。おまえの存在が無に消えるまでお前と共にある。体と心と力の状態で切れ味や武器の状態も変わるから気を付けろ」

「はい」

「………これでお前は正当な私の後継者として世界に認められた。私に何かあれば自動的に王位を継ぐことになる」

その言葉に俺は身を引き締めたのだった。



翌朝、消耗した力はすっかり回復していた。

ベッドで軽く伸びをして眠気を吹き飛ばして実感していた。

 やはりこの神殿内は力が集まりやすいおかげか回復が早いな

ベッドから降り、身支度を整えた後に今朝の夢を思い出す。

「王の証……か」

 念じるだけで出ると言っていたか……。出るのかな?

周囲を見回して少々取り出すには室内では不都合なことに気がついた。

ベランダに通じる外への扉を開け外に出る。

ベランダは周囲の都市を見下ろせるようになっているので広々としていた。

「ここなら…」


俺は武器を念じて取り出そうと意識を向けた。

するとそれだけで鎌は俺の目の前に現れた。


現れた鎌を反射的に持った。

だが現れた鎌を見て違和感をもった。


それも当然だった。

鎌の大きさが夢で見た大きさの半分の大きさで柄は長剣の長さくらいしかなかったからだった。

色も漆黒ではなく黒ではあるものの少し色あせて見えた。

重さは変わらず空気のように軽かったが感覚的に刃の部分の切れ味は鈍いと判断した。


軽く振ってみるとその感覚は間違っていないことを実感した。

 武器としてはまだ使わないほうがよさそうだな。もう少し力を取り戻さないと役には立たないかもしれんな


そう判断した時だった。

「レイヤ様こんなところで何を………」

ラルフだった。

持っている鎌に気がついたのだ。

「それは…」

「………ああ、王の証・冥王の鎌だ。取り出し方を思い出したのでな。出るのか試しただけだ」

「……以前に比べて劣化しているように見受けられますね。大きさも随分と小さいですし」

「仕方ないな。体と心と力の状態で変化するらしいからな。力不足な今の自分ではこれでもマシなほうだろうさ」

「御力を取り戻せればいずれ以前のように戻ると…?」

「ああ、それでも今は武器としては役には立たないだろうさ。せいぜい回復魔法の補助にしか使えないだろうな」

おれは切れ味も鈍いし、と付け加えて話を終える。

武器を仕舞い部屋に入る。

「それよりも腹が減ったな」



神殿の稼働や様々な維持のために俺は、数日このニブルヘイム地上大神殿に滞在することになった。

神殿の安定化を図るための滞在なのでこれも予定の内だった。

三日ほど後に元近衛長のキリングが訪ねてきた。

何の心境の変化なのかもう一度できるのならば俺の元で仕えたいと言ってきた。

どうやらラルフ達と共にかつての部下たちから説得されたという。

キリングにはしばらくは宿屋のマスターを隠れ蓑に部下たちの統制と集めた情報の管理を頼んだ。

だが、当然なのだが神殿の封印が解け、本来の力を取り戻したことを地上に住む住人たちはすぐに気がついた。

何しろ灰色がかっていた神殿が漆黒の色に変化しているのだから当然だった。

神殿を解放して7日ほど経った後、住民が神殿にレイヤが滞在しているのを知ってしまったこともあり神殿にやってくる住民が増えてしまっていた。

その事を知った地下の側近たちは事態の収拾を図るために神殿から告知をすることにした。

二日後の正午に神殿前を一部開放して数分だけ全の後継者レイヤ=ジルド=クロノスが民たちに向けて帰還の報告を行うことになった。


その事態を受けて地下から兵たちが神殿の守りに派遣されてきた。

地上勤務を希望した者達で構成されていて彼らは裏門から出入りすることになる。

彼らは裏門近くにある宿舎にも常駐している者もいるが地上に住居を持っている者もいる。

そんな彼らは護衛も兼ねているのである。

後継者に今度こそ何かあれば世界にとって致命的なダメージになるから地下の王の側近たちも気が気でないからである。

その希望者の中にはキリングの元部下たちも混ざっていた。

ラルフ曰く、地上勤務志望者は様々な理由があれども地下にいる貴族たちによく思われていない者が多いという。

志願という名の左遷扱いになった者が多いのだという。

その事から見ても宰相たちはそれなりに信頼できる奴らをかき集めてくれたようだった。


神殿にて帰還の報告の式典の日を迎えたその日は一時的とはいえ兵たちが強化された。

会見の場を神殿前となり俺自身は警備の保全の関係上、二階の正面バルコニーに設置されていた。

この日は特別に神殿前広場限定で一般の平民も立ち入る許可が出ていた。

もちろん入念な入城検査を受けてだが。

当然だが広場以外の立ち入りは厳重に魔法で禁じられている。

午後の二時ちょうどを迎え予定の時刻になった。


おれは黒の布地に金の刺繍をあしらった正装ともいえる服を纏い足首にまでかかろうかという背に大きくニブルヘイムの茨と鎌のあしらわれた紋章が映えるマントを翻し、全の賢者後継者用の衣装をまとっていた。

頭には黒の茨をあしらった冠が金髪の中から黒光りするように頭に戴いていた。

窓辺に立って先にラルフ達、近衛兵二名が大きな窓扉から外に出て外に注意を払う。

安全を確認してからおれは外に出た。

台の上にある拡声用の魔道具の前に立つと眼下の民たちは静まり返る。


俺は用意していた原稿をちらりと視線を一瞬だけ落とすと眼下の民たちに視線を向けた。

この原稿、自分が書いてこの会見用に地下から来ていた文官に改稿してもらったものだがほぼ丸暗記していた。


「ニブルヘイムに住まう民たちよ。知っている者も、知らぬ者にも改めて名を名乗ろう。私が今代の全の賢者ラインハルト=ジルド=ワルドより後継者として指名を受けたレイヤ=ジルド=クロノスである」

一拍を置いて言葉を続けた。

「五年前、私は事故と策謀により先の命を失った。その事は民たちの間においても記憶に新しい事と思う。その日よりこの世界は試練と苦難の日が続いたと聞いた。だが私はこうして再生を終えて再びこの世界に帰ってくることができた」

眼下の民たちを静かに聞いていた。

「この再生に大いに関わってくださった我が兄、今代の智の賢者ライヤ=クロト=クロノス。その兄を支えてくれたクロノスやニブルヘイムの関係者方、そしてこの苦難の日々を耐え忍び過ごしてきた皆に深い感謝と敬意を捧げたい」

俺は心持ち頭を下げた。


民たちを見下ろし言葉を開いた。

「この再生は非常に困難なものだった。先の命を失い、また先の自分という自己を失った今の私は、先の私を知る者たちからすれば別人だとまで言わしめている事もまた事実であり、大半の記憶も失ってしまいました」

レイヤは一拍置いた。


「そして再生のために夥しいほどの力も」


その言葉に眼下の民たちは騒然となった。

だが俺は続ける。

「そのために俺は今、地下のニブルヘイムに降りることが出来ずにいます。ですが不安に思うことはありません。各地の賢者様の地を巡り、各地の災害を沈静化することでその力も戻ることも突き止めているからです。その為に自分は各地を巡ることになっています」

眼下の民たちに語り掛ける。

「ですのでもう少しだけの辛抱です。もう少しだけ俺に時間をください」


その後、しばらく演説をしてお披露目は滞ることなく終わったのである。


お披露目の後の民たちの反応も上々で、今までのように先の見えない災害と苦難よりも先が見えたことで安堵をした者たちが多かった。

そして、地下の情勢をそれなりに理解している者たちが手に入ったことはそれなりに都合が良かった。

だからこそ早速、キリングに地下の貴族たちに精通している者たちを選び地下の情勢を探らせることにしたのである。

もちろんくれぐれも早まったことはしないように厳重に言い聞かせてだが。


当然ながら、地下の貴族たちの詳細な情報が集まるには相応な時間も必要である。

ひと月はゆうにかかるものと思われた。

そこで神殿での滞在理由も落ち着いたという事もありいよいよ水都に向かうことになった。

亜空間に収納していた車とその燃料を補給し、他の諸々の準備を用意させるように指示して翌日完了する。

水都に到着した時点で一度この神殿の様子を見に戻ることにして俺と瑞穂とラルフ達を連れて神殿を出発することになった。



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