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RE・VERSE  作者: 夏
1章 転換
7/14

7話 誘拐

  誘拐


その日瑞穂はいつものようにレイヤの婚約者としてふさわしい立ち振る舞いや知識を教わっていた。

元々優秀なほうである瑞穂は知識分野ではそれなりに習得しつつあった。

問題はマナーのほうだった。

マナーなど無縁でもあった瑞穂にとって新鮮でありつつも覚えにくい分野だったのだろう。

中々身につかなかったのである。

そこでライヤは習得方法と変えることにしたのである。

教師も一新して知識と並行して一つ一つゆっくりと教えることにしたのだ。

その日は新しい教師がやってくる日だった。


マナーの先生という事もあり瑞穂は女官たちによってドレスアップされていた。

 このコルセットがキッツイのよね……。あこがれてたドレスを着れたのはいいんだけど…

レイヤが今の私を見たらどう思うんだろうかとちらりと思っていた。

というのも、このドレスアップしたときに限って一度足りとて会えない状態が続いていたからだった。

レイヤが忙しい日を送っていたという事もある。

ドアのノック音が部屋に響いた。

「どうぞ」

そうして妙齢の女性が部屋に入ってきた。

「初めましてエミリア=ヴォースラと申します。お見知りおきを」

「よろしくお願いいたします。マダムヴォースラ様」

「うふふ、エミリアで結構ですわ」


そうして何事もなくマナーの時間が過ぎていった。



「今日はありがとうございました」

「ミズホさんは筋がよろしくてよ。マナーもすぐに身につくことでしょう」

「そう言っていただけると大変うれしいです」

そういって送り出した時だった。

ズカズカと大股で荒々しくこちらに寄ってくる男性集団がいた。

気になったのにも理由がある。

城にいる人にしては身なりが粗末に近い、くたびれた服を着ていたからだ。

さすがに警戒した。

「何なんですか、あなたたちは!」

そう声を瑞穂は荒げた。

側を守っていた護衛兵が瑞穂と男たちの間に立ちふさがる。

「お逃げください!」

それを聞く前に瑞穂は後ろの廊下に向かって走り出す。だが、高い靴のヒールとドレスの裾が邪魔をしてうまく走れなかった。そうするうちに護衛兵は倒されてしまう。

あっという間に取り囲まれてしまった。

だが、瑞穂ができたことはそこまでだった。

正面にいた男が瑞穂のお腹を撃った。

その衝撃で瑞穂の意識は飛んでしまった。

一人の男が背後に回ったかと思えば持っていた布を大きく瑞穂に被せて覆いかぶせた。


瑞穂の姿はその大きな布に包まれ覆い隠されてしまった。

その瑞穂を肩に担ぐようにして運んでいった。



瑞穂がさらわれたという一報が玲也に届いたのはその日のうちの出来事でその時レイヤはライヤと共に旅程の打ち合わせをしていた時だった。


慌てるようにして衛兵がライヤの元にやってきた。ライヤの護衛兵だった。

「申し訳ありません。兵たちの失態でミズホ様がさらわれてしまいました」

「なんだと!」

さすがにライヤも驚いた。

「瑞穂がさらわれた……?」

俺は茫然としてしまった。

思わずつぶやいたその言葉に返事をした衛兵だった。

「は……!」

「なぜそんなことになる。瑞穂の居る場所は基本、誰でも入れる場ではないはずだ」

「どうやら、門番と一部の従僕が城内に手引きをしたようです」

「手引きした者を突き止めましたので詳細を尋問中です」

「金でも握らされたか?」

「いえ、どうやらレイヤ様に恨みを持っているようです」

「……過去のレイヤにか…」

「はい」

「………………」

「追ってはいるんだろうな?」

「もちろんでございます」

そんなライヤと衛兵たちの会話が続いていたが俺はそれどころではなく聞こえてはいなかった。

そんな俺にライヤは気がついた。

「レイヤ……?」

声をかけ肩に手を置いたその時レイヤの周囲に風が吹き巻いた。


「落ち着け!」


そのライヤの声に俺は視線を向ける。

俺は思いの外、焦っているらしい。その気分が風に伝わってしまったようだ。

焦りを落ち着かせてから言った。

「大丈夫」

それだけ言うと風たちは俺の事を心配したのか探し始めてくれているようだった。

『そう、俺と一緒に来たヒト』

それだけを風たちに伝えると答えが返ってきた。


早々に見つけたらしい。


『見れるのか?』

風は気分屋な所がある。とは言え、気に入った存在には一途になるほど社交性が高く、人と交流を持ちやすい。

一方で無口で社交性に欠けるのが水だ。土をも司っているので表現の仕方は独特だ。

熱しやすく冷めやすいのは炎と氷の特徴で基本的に感情豊かだが気に入らないことがあると冷めやすいので途端に我に返る特徴がある。熱血な炎とどこまでも冷静な氷といった個性で純粋なのが多い。


そんな風と炎が協力したらしい。


よほど俺を心配したのだろう。

誘拐された瑞穂の居る室内を照らしているランプの炎が風と協力して見せてきた。

「兄貴」

そこで俺はライヤに声をかける。

それだけで意思疎通は図れるので肩に置いた手の力がこもる。

『周囲をみせてくれるか?』

風が喜ぶように応じてくれた。

建物を突き抜けて視線が外に出る。風らしく俯瞰した景色になった。

そこは城下町の一角のはずれの建物らしかった。

「北スラムのはずれだな」

ライヤはそう言って兵に向かわせる準備をさせた。

俺は視線を映し出している景色に意識を向けつつも風たちに願いを頼んだ。

『兵たち以外で彼女に近寄る人が現れたら教えてくれ』

炎は応じてくれた。

視線を外に向け、ライヤを見た。

「…………止めても聞かないな」

「当たり前だ」

ライヤは一息ついて首を横に振った。

「ダールの者と兵たちも連れていけ。それが条件だ」

「悪い」


そうして俺は兵とダールたちを引き連れて城を出た。

もちろん先行して城の兵たちもむかっていたのである。

風の案内のまま城下町の路地を進んでいると周囲が気になりだしたので隠匿魔法をラルフが全員に向けて掛けてきた。

「必要ありませんでしたか?」

「いや、ラルフがしていなければ頼んでいた。気にするな。ちょうど良かった、急ぐぞ」

「は」


再び歩を進めて居ると視界がいきなり切り替わった。不意の事なので立ち止まる。

瑞穂の様子が映し出される。すぐ近くにみすぼらしい男が立っていた。

瑞穂は酷く怯えているようだった。

その男の醸し出す空気に俺は嫌な気配を感じ取っていた。

「レイヤ様」

外から声が聞こえる。ラルフの声だ。

「ここをまっすぐの場所だ。先に行けるものは行ってくれ」

「了解です」

周囲に居た数名が先に先行していった。

燭台に灯る炎からの風景なので音はない。だが男の気配が気に入らない。

瑞穂を舐めるように見つめていたのだ。

明らかに邪なもので見ている。

『風よ、彼女をまもってくれ。相手は死なせなければいい』

その言葉に風を炎と土が応じてきた。

視界を消して銃を取り出し、慌てるようにして駆け出す。

「レイヤ様!」

後を追ってラルフ達も追従する。

しばらく走って風の案内のままに進むと前方付近に怪しいみすぼらしい男たちが屯っていた。

「あれは!」

「通すな!」

前方に俺の姿を視認した男たちが怒り立つように武装して向かってきた。

だが、周囲に居たダールたちがその男たち全員、簡単に行動を阻害して不能にさせていく。


ラルフ達をすり抜けた男が俺に向かって剣を振りかざしてきた。

大振りすぎたその剣筋を俺は避けることは簡単で軽く横に体をずらして避けると半歩距離を詰める。剣を持っていた腕を勢いよく持っていた銃の銃底を使って殴った。

この銃は金属製で作っているので剣のように固くそれ以上に頑丈に作っているので防御にも向いている。殴れば鈍器扱いだった。


銃で殴った時、鈍い音が響いた。

その音で男の腕が使い物ならなくなったことを知る。

そのままの勢いで男は剣を落とした。

軽く痛みから屈んできたのでその頭を殴り意識を吹き飛ばした。

床に男が倒れるのを見届けることなく俺は歩を進める。

男たちが取り囲んでいた建物に近寄ると建物の中から炎と風の気配が漂っていた。


ラルフ達が扉のノブを取りつつ俺を見て合図を送る。

おれは頷いた。


扉を勢いよく開けると熱風が扉から出てきた。

ラルフ達はさっとその熱風を避ける。

「俺が入る。警戒を」

「は」

建物に入ると俺に気がついたのか風と炎が幾分弱まった。

 この熱気だ。中にいる人はひとたまりもないだろうな…

『守っているのか…?』

風が応じてくれる。

「少し、俺でも熱いな。これは…」

額に噴き出た汗を腕で拭った。

そのおれの体の様子から炎が熱を引いてくれていた。

火傷はしなくても気温に関しては普通に体感するので汗は出る。

ゆっくりと進むと足元に男が倒れていた。

この高温で逃げようとして失敗したのだろう。扉のすぐそばで倒れていたその男には見覚えがあった。

先の映像で瑞穂に邪な目で見ていたあの男だった。

瑞穂に何かしたのではないのかと思っただけで怒りが湧いてくる。

高温の室内なので意識のない男はそれでも荒い息を繰り返していた。

足で蹴り飛ばして男を退けた。

建物を見回して奥に扉を見つけた。

風の気配と炎の案内でこの向こうに瑞穂がいることを知る。

 ここがあまりにも高温すぎるな

俺は瑞穂を連れ出すにはまだ室温が高すぎることに気がつく。

窓に近寄り開けると窓の外のすぐ下には川が流れていた。

だがその川はかなり汚れた川だった。

揚がってくる匂いに眉根が寄った。

レイヤが欲しいのは湿度だった。

『凍てつく水をくれ。少し温度が下がる程でいい』

そう水と炎に頼むと水は歓喜で応じてくれた。

あっという間に開いた窓を遮るように分厚い氷に窓が覆われた。

その氷のおかげだろうか室内の温度は解けていく氷と共に下がっていった。

室温が下がるのを確認して表に待機していたラルフ達に男を拘束するように指示を出してから俺は扉に手をかけた。

だが、扉が熱気のせいで変形してしまっていて開かなかった。押しても引いてもビクともせず動かなかった。

仕方がないのでぶち壊すことにした。

銃に格納してある剣部を短くして取り出す。

ノブ付近と蝶番付近を切り裂いた。

木製の扉だからこそできたことだった。

それでも扉は動かなかったので軽く蹴りを入れると大きく壊れた。

その扉の残骸を背後からやってきたラルフも手伝い、通れるように除けた。

扉の残骸を避けるように奥の部屋に入ると床に倒れるようにして意識を失っている瑞穂を見つけた。

さすがに慌てて抱き起して異常がないかを視るとなにも異常はない事をすぐに知って安堵していると腕の中の瑞穂が身じろいだ。

眼を開けた瑞穂と目が合った。

「大丈夫か?」

俺の姿を視認して安心したのだろう。震えて泣き出してしまった。

おれは腕にいた瑞穂を抱き起して安心させようと後頭部を撫でる。

「何かされたか?」

瑞穂は腕の中で泣きながらも首を横に振った。

しがみついたままの瑞穂が落ち着くまでしばらくそのままでいた。

そんな瑞穂の状態にラルフ達が気がついたのがそっとしておいてくれたのはありがたかった。



「ごめんなさい。迷惑かけちゃった……」

落ち着いた瑞穂がそう言って謝ってきた。

「瑞穂が気にすることじゃない。むしろ俺のとばっちりでこんなことになってしまったからな。謝るのは俺のほうだ。巻き込んでしまってすまない」

「え、それってどういう………」

その瑞穂の言葉が終わる前にラルフから声が掛かる。

「馬車をご用意出来ましたので詳しい話はその中でなされたほうがよろしいかと」

「そうだな。立てるか?」

「あ……う、その……」

「どうした?」

「ご、ごめん。安心したら腰が抜けちゃったみたい………」

おれは瑞穂を呆れながら見つめた。

「暴れるなよ」

「え?」

俺はそう言って瑞穂をひょいと姫抱きに抱き上げて立ち上がる。

「え、え?」

瑞穂は驚くしかなかった。戸惑いながらも言ってきた。

「わ、私、重いから…」

「気にするな。重くはない。……………軽くもないけどな」

言いながらも俺は建物を後にして寄せてあった馬車に歩を進める。

「それってやっぱり私の体重が重いってことでしょ。やっぱり歩くから…!」

「立てない奴が何を言ってる。軽くなどあるものか。人一人の命が軽いはずないだろ。ラルフ、殺していないだろうな」

「それは大丈夫です。全員昏倒止まりで拘束しています」

「ならいい。後で治安部隊に引き渡しておけよ?」

「了解しております。じきに治安部隊が到着すると思いますので」

「こいつら、このあたりで色々盗みや脅しなどやっていたらしいな」

「そのようです」

言って馬車の扉を開けてくれる。

瑞穂を座らせた。

「少し待ってろ。治安部隊に任せるまでは離れられないから。誰も入れないように守らせているから心配するな」

「うん」


そうしてしばらく待っているとさほど時間もかからずに治安部隊が到着して事情をラルフ達から聞いていた。

その間の時間を使い俺は瑞穂に今回の原因が俺にあることを語った。


ラルフ達の事情説明が終わるとラルフが馬車の中にいた俺に声を掛けてきた。

「レイヤ様」

丁度瑞穂に説明を終わったところだったので視線を外に向けるとラルフの横には驚きの表情で俺を見ていた治安部隊長がそこに居た。

「どうした。説明が終わったんじゃないのか?」

「それが、レイヤ様の事を信じてもらえなかったものでして…」

「…………。仕方ないか。俺の帰還はまだ公表されていないからな。普通の反応だろうな」

「……………レイヤ王子様!申し訳ありません!」

俺の姿を見て治安部隊長は思い切り頭を下げて謝罪してきた。

「きにするな。信じられなくとも仕方ないことだ。彼らがおかしいんだ。公表されていないはずの俺の帰還を知っていたこと自体…な」

「情報漏洩…ですか」

「おそらくは……な」

「そのあたりをキッチリ尋問して吐かせます。報告は上司から王に報告してもよろしいでしょうか?」

「大丈夫だろう。調査しているはずだしな」

「は」


そうしてすべての引継ぎをして瑞穂を連れて城に戻った。




レイヤたちの引き上げる様子をかなりの遠くから魔法を使い監視している者たちがいた。

高い物見塔から見下ろしている二人のその影は遠く過ぎて誰もそこに人が立っているとは思えない位置だった。

黒いローブを頭からかぶっているので姿は全く分からない二人組だった。唯一分かることはこの二人組の背丈に大幅に差があるという事だけだった。

「本当に復活しているとはな…」

「さすがは歴代最高の全の力の持ち主といったところですね」

「我が君が水晶を壊してまで抹殺したことが水泡に帰したな…」

「完全に力を取り戻したわけではないようです。波動が以前よりもかなり小さい」

「そのようだな。奴らをうまく動かした甲斐があったというものだ。波動が小さいことが分かっただけでもこちらに分がある」

「ええ、ともかく我が君に報告ですよ」

「ああ」

二人はその場から姿を消した。


2章の進みが遅いです

しばらく休止状態になるやもしれませんが

必ず投稿しますので気長に待っていただけるとありがたいです

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