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RE・VERSE  作者: 夏
1章 転換
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6話 出立準備

  出立準備


ライヤに準備が整ったと言われて俺は会議室にいた。

この部屋はクロノス城の中心部ともいえる場で普段ならば臣下たちが国家運営の大まかな報告会基本方針などを決めたりする場である。もちろんライヤも玉座よりいる時間が多いこの部屋には大きな円卓がしつらえてある。

円卓を囲むように十二脚の椅子が備え付けられている。

その椅子に隣り合うように俺とライヤは座っていた。

円卓の中心には大きな地図がある。この地図は国家機密にもなる代物だ。

各国に一つずつある世界地図だった。この地図上には小さく赤い点がいくつも浮かんでいた。

「やはり、まずは一番多く結晶が飛んでいる。命の賢者のポセイドンに行く必要があるかと思われます」

この場には各国の代表も来ていて様々な思惑からレイヤに来てもらいたがっている国がほとんどなので必死だ。

なにしろ全の賢者の唯一の後継者である、レイヤが足を運ぶだけでその国を中心に様々な恩恵にあやかれる。

砂漠化の防止から始まり、水の浄化や大気汚染の浄化、穢れた炎の浄化など癒しの力は人にとどまらないのが全の賢者たる所以である。

そして不幸にも今生の全の賢者ラインハルト様は近年において体調悪化が酷くニブルヘイムから出ることすらできない状態が続いていた。

「いやいや、まずは我が力の国の砂漠化を食い止めてもらうのが先です。このままでは人の住めない不毛な大地が増えるのは良くありません!」

「何をおっしゃるか。それらは御髪でしばらく鎮静化できることではありませんか。結晶収集が最重要課題です。各国の皆様は結晶の収集の進行はどうなっておりますか。結晶が集まらなければニブルヘイムに入る事すらできないのでは事態の収拾はつきません!」


レイヤがどこに向かうかで白熱した議論が続いていた。


おれはあまりにも収拾がつかないのでパンと一つ柏手を打った。


その音で一同は俺を見る。

「各国のそれぞれの問題で緊迫している事情は皆さんの様子からよくわかった」

俺はそう言った。

言葉を引き継ぐようにライヤが言った。

「ひとまず休憩を挟もう。二時間の休憩の間に各国の皆様は結晶の収集率と問題事項の詳細な資料を提出していただきます。その情報を照らし合わせて緊迫度と収集率の高い国から順に訪問するとこにします。虚偽報告の場合は事態収拾を後回しするという事で手を打ちます。それでいいですね?」

一同は静まり返った。

「反論が無いという事なので決定します」

「この地図に浮かび上がらせている結晶のありかはそれぞれ魔石に情報を写して各国に持ち帰ってもらう。各国にある地図に照らし合わせられるようになるので俺が行くまでにその情報を基に取集率を上げてもらいます。力が戻れば浄化の質と共に威力もあがることにつながるので問題事項の収拾も容易になる」

「結晶の収集が難しい場合はどうなさるおつもりですか?」

「すべての収集は必須です。その場、その事情でおれが臨機応変に対応します。結晶は俺の元に戻るまで不滅なものです。現状維持と在りかを把握していただきたい」

「そうですな。ひとまずどこにあるのかという事が分かっただけでも収集は前進していることですし…」

「俺の居ない間にこの世界は混乱に満ちていることは甚だ遺憾なことです。今までこの混乱に頑張って対応していただいた各国の皆様には感謝と共に敬意を。俺が訪問するまで何とか事態を食い止めてください。非常事態になった場合はひとまずこの城に報告するようにしていただければ俺へ届きやすいでしょう」

「心配するな。繋げておく」

ライヤはそう言ってきた。

「頼む、兄貴」



そうして会議の結果俺の訪問順が決まったのである。


ほぼ、一月ほどこのクロノス城周辺に居たので智の賢者の国全域ではそれまで起こっていた砂漠化など異常現象は収まりを見せていて他国に目を向けるだけのゆとりがあったことも事実であった。

だからこそ、なのだろう。俺の水晶回収にライヤも同行すると言ってきた。

同時に護衛としてダールのメンツも五人同行が決まっている。

側について離れないのが五人という事であって、周囲を隠形で守っているものも別動隊として同行している。それは三人だという。

ライヤに同行するものもいる。ファルガを筆頭に三人だ。どちらかといえば護衛というよりも秘書を兼ねた部下といった感じである。

護衛任務を完全にダールに任せた感じなのだ。

ダールはそれほどまでに勇者一族として世界中にその名声が轟いている。

それだけの大所帯になれば当然だが移動手段に困るというものだがこれについてはライヤの力が大いに発揮している。

空間の力を持っているので移動の手段でもある改造自動車には空間魔法が備えられている。

馬車の上位の乗り物としてライヤの乗り物になっているのだという。

通常は5人乗りのこの自動車は拡張機能を作動させれば二十人近くが乗れる代物になる。その上、周囲の護衛者が外から警戒できるようにと荷台が大きくとられている。だが自動車なのでその気になれば速さも出るのだがそれはセーブしているという。

路面も石畳であり、デコボコの悪路がほとんどのこの世界では速さはさほど重要ではない。

緊急という事でもないので普段は馬車と変わらない速度で移動することになる。

護衛するにも馬車の速度で慣れているという事もある。

護衛側からすればこの自動車はそれなりに装甲もあるので剣を当てても割れることはあまりなくへこむ程度だろうという守りもあるのも都合がいい。

運転窓には魔石を施してあるので結界付き。強度もそこそこ出ているので弓や槍をつかれても割れにくい。中から外が見えるので運転手も襲撃に対応しやすいのも魅力になっている。

そして当然だが、俺とライヤが同行する旅に瑞穂が何もしないわけではないのは当然であった。

瑞穂も行くと言って聞かなかった。

放置されるのを嫌ったのだろう。


因みに、ライヤの亜空間の収納内にはキャンピングカーも収納されていて車中泊も想定しているというからライヤの周到さに驚きを感じていた。

ライヤ曰く、旅は再生時に想定していたとのことで向こうでのライヤの研究報酬として手にしていた報酬の金はほとんどが大物買いでなくなったという。

このキャンピングカーも買って早々にこの世界に持ち込み、技術等を解明した後、この世界仕様に改造していたという。

最近はこの技術を取り込んだ馬車を作り、他国に売るなどして収入も増やしているというからちゃっかりしていると思う。


今回のライヤの動向についてはお忍びという形を取っている。

空間のエキスパートでもあるライヤにとってどこに居ようと即、クロノス城に戻ってくることができるのでライヤはかなりフットワークがいい。

今回の旅の途中でも定期的に城に戻り事務などの作業もするのだという。

異世界にいた時でも定期的に戻っていたのだという。

それは俺にとって初耳だった。

ライヤは俺と違い時間と空間の力を大きく操り、使う。

遠距離を零にする空間短縮から広範囲の結界を張り守る力もある。

時間に至っては一瞬とはいえ広範囲で時間停止もでき対象を限定して時間を巻き戻すことも可能だとか。

他にも過去視や未来視などもできるほどの力を持っているほどのものだ。

ライヤにも俺と同じように全の力を持っているが俺とは違い、微々たるもので既存にある自然を操る程度だ。


俺の力は全の力といって自然のすべてと対話し活性化させる力がある。

炎や水、風や大地、そして樹木などの声を聴き操ることもできる力がある。

再生前の俺には無からこの自然を作り出すこともできるほどの力もあった。

とはいえ他の力の賢者や動の賢者、命の賢者にくらべると彼らにはかなわない。

だが全の力の最大の力は生命の活性化である。命を癒し、樹木を生み出し、死をもたらすことができる。

故に全の賢者には別名がある。

生死をつかさどりし冥王という。

今回、俺が使った再生はこの全の最大の力で基本自分以外では再生できない。

再生といっても条件があり、整うほうが珍しい。

何しろ死を回避してしまうという事だからだ。

だが逆にライヤと同じ智の賢者の王子であるにもかかわらず俺には智の力である時間と空間の力は他の炎などの力とさほど変わりがない。

せいぜいあらかじめ指定した場所へ移動することと、自分限定に時間を止めることだ。

同じ双子なのにもかかわらず、これほどの差がある双子も珍しいという。

それも仕方ないことだと思う。

ライヤは父である智の賢者ラディスの力を色濃くそれ以上に受け継いだ。

片や俺は母である全の賢者ラインハルトの実姉ヘカテの力をヘカテ以上に受け継いでしまった。


因果なものだとつくづく思う。

俺を悪魔呼ばわりした末に発狂死した母の力を持って生まれたことは。


そしてそんな全の賢者ラインハルトの後継者は俺以前にもいたというが何故だが虚弱体質の子しか総じて生まれず早死にしてしまったという。

俺の存在が公になるまで全の賢者の後継者問題でずっと揺れていたという。

全の賢者だけは空位が許されないのも危機感に拍車をかけた。現冥王ラインハルトには子を作る能力はすでに失われて久しいと聞いた。

俺が生まれてからも十年間揺れていた。

それも仕方ないと思う。

何故ならば俺の存在は生まれてから十年間、秘匿されていた。秘匿というよりも存在その者を大多数が知らなかったのだ。

それには理由がある。

発狂死した母が生まれたばかりの俺を次元牢に閉じ込めて死産扱いしたせいだ。

生まれて間もなく俺の力は桁違いに強く、その力故に母の精神を発狂させてしまったのだ。

父のあずかり知らぬところで存在を抹消されてしまい、父すら俺の存在を長く知らなかったという。双子だったという事に気がつかなかったのに拍車をかけた。

父が俺の存在を知ったのは俺と兄貴を取り上げた産婆の遺言と母の侍女の日記から発覚した。

それが生まれてから十年後だった。

産婆と侍女の日記から高い全の力を内包している可能性があったため、病床のラインハルトと同行して次元牢を解放したのがあの時の夢で見たものだった。


次元牢という場はとても特殊な牢であらゆる力を寄せ付けない牢なのだという。

また、一度、牢に繋がれれば年単位で出すことができない特殊な牢でもある。

それ故に普通は次元牢につながれるという事は死につながる事でもある。

絶大な全の力を持っていた俺ですら物理的な力を行使することはできず、魂を抜け出すしかできない牢だった。

抜け出した魂は何物にも遮断できない繋がりを肉体と持つ。

それ故に無意識化で生存をするために他者に憑依をしたのだ。

憑依した肉体のエナジーとエネルギーを分ける形で肉体に注ぎ、次元牢という刹那的な場でありながらも十年という歳月を乗り切った。

ダールとの交流や言葉と文字、知識などはすべて憑依時に培ったものだ。

憑依時は肉体からもたらされる感情が一切遮断される傾向が強いため次元牢から出された当時の俺は感情が抜け落ちることもしばしばあった。

理解はしていても情に流されることが無かった為十歳の俺は普通の子供たりえなかった。

達観した物言いと情に流されない判断と表情を変えない子供はある意味恐れられた。

やがて周囲からおかしな通り名がついた。


〈冷酷王子〉


再生前の俺の有名な通り名だった。

仕方ないとライヤや父王から言われた。

十年間、生きていながら生きていなかったのだから、と。

それはある意味ではその通りだったが今の俺が振り返ってみると十歳にして変化を恐れたのだ。

感情という名の代物に振り回され、自分でなくなるのではという恐怖から変化を恐れて情を封じていた。


あの状態のまま過ごしていたとしたらさぞや敵が多いのではないかと思っている。

肉体を封じていた水晶ごと破壊されたというがある意味では納得している自分が居る。

俺を快く思わない者たちが俺を排除しにかかったのだろうという事だ。

誰が敵で味方か分からない過去を失った今の自分ではニブルヘイムに入ることは自殺行為にも似たことだ。

力の事からも入れないことは事実ではあるものの、ニブルヘイムに入れないその事に少し安堵している自分が居る。

とは言え、いずれはニブルヘイムに入ることになるので避けて通ることはできない。

過去の事象を清算するときは来る。

力と共に記憶が戻ることを願うしかない。



そんな状況に改めて気がついた俺は少し危惧していた。

俺が帰還したことは向こうにも伝わっているので、過激な一部のやつらが何か事を起こすのではないかと。

後日、当たってほしくないことだけは当たってしまう事に少し憤りを感じた俺だった。


瑞穂が誘拐されてしまったのだ。



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